正社員賃上げ原資、非正規に回せ 全国ユニオン春闘方針(朝日新聞)
連合傘下で、非正社員らが個人でも加入できる労働組合の全国組織「全国コミュニティ・ユニオン連合会」(全国ユニオン=組合員数約3300人)が13日、09年の春闘方針をまとめた。相次ぐ「派遣切り」など非正社員の人員削減に対抗するため、正社員と非正社員の共生を目指す「緊急ワークシェアリング」を掲げ、「正社員の賃上げ原資を非正社員の雇用確保に充当する」ことを求めていく。
この日、都内で開かれた春闘セミナーで、鴨桃代会長は「正社員、非正社員がともに『生きる、働く』を求める春闘にしよう」と呼びかけた。
春闘方針では「賃上げ原資3%相当額の確保」を企業側に求めた上で、その原資を非正社員の雇用確保に充てるとした。具体策として、業務の減少に対して、政府の雇用調整助成金などを活用して休業補償をきちんとした上で正社員を一時的に休ませ、その間は非正社員が働くという形のワークシェアリングを提案。契約解除や解雇と同時に住居を失いかねない非正社員の雇用を守るためという。
本文を最後まで読めば、相応に筋の通ったことを述べているのがわかりますが、見出しだけだと誤解を招きそうな記事ですね。曰く「正社員賃上げ原資、非正規に回せ」だとか。
ある会社の人件費を除いた利益を100として、Aさんが30、Bさんが30、会社が40くらいの取り分だったとしましょう。これを10年ほど前のモデルとします。さて、戦後最長の景気回復を経て、どう変化したでしょうか? 利益は120に増大、Aさんの取り分は引き続き30、Bさんはリストラされて、代わりに入社した派遣社員のCさんの取り分は20、会社が70と、極々単純化すれば、こんな風に変化しました。
ここでCさんの低賃金が問題になります。最初は「Cさんの自己責任だ」と、Cさんを非難する論調が支配的でした。しかし、Cさんのような境遇の人が増えるにつれ、そうも言っていられなくなります。では次の手は? ここでAさんとCさんの給与格差がクローズアップされ、「Cさんの給与が低いまま据え置かれているのは、Aさんが既得権益を手放さないからだ」と、今度はAさんに責任を擦り付けようとする傾向が強められてきました。
さて、外需頼みの日本産業、海外景気の失速を受けて、会社の利益も120から100に戻ってしまったのが今日です。そこで、減少した「20」を埋め合わせようと、派遣社員のCさんを雇い止めにしようとしている……あくまで、極端に単純化した話ですが、大雑把にはこんなものでしょう。
で、非正規雇用の待遇が悪いのは正社員の既得権益のせいだと、財界筋は偽ろうとしてきました。正社員の待遇を切り下げることが、非正規雇用の待遇改善に繋がると、そう騙るわけです。既に正社員の待遇が悪化を続けている以上、御用学者の理論が正しいなら非正規雇用の待遇がその分だけ改善していなければならないはずですが、勿論、そんなことはありません。ちょっとでも学習能力があるなら、すぐにわかることです。ただ、嘘も100回言えば真実になる……訳ではないにせよ、メディアも財界に同調することで、あたかも真実であるかのように見せかけられようともしているわけです。
で、「正社員賃上げ原資、非正規に回せ」だそうです。この見出しではあたかも、非正規雇用中心の労組が財界や御用学者の主張するところに従って、会社の取り分は聖域として手を出さず、代わりに隣の正社員に八つ当たりを始めたかのような印象を与えてしまいます。私が日頃から、そういう事態を懸念していたが故に、過敏になってしまっただけかも知れませんが、新聞記者の意図はどうなんでしょう。あくまで今回は、原資を雇用側に求めるわけで普通の路線、正統派路線です。賃上げの代わりに休暇が増えるなら、正社員にも悪い話ではありませんし。賃金が増えなくても労働時間が減れば実質的な賃上げですし、元が働き過ぎの人も多いですから。まぁ正社員でも時給に直すとバイト以下で、残業代で稼がないと生活が成り立たない、なんてブラックなところもありますけど……そう言うところには労組など元から存在し……
御用学者や御用メディアにとって、企業/投資家側の取り分は「聖域」ですから。その聖域を守りつつ、非正規雇用に同情するフリをすると、必然的に正社員層への攻撃に変わる等々、色々と卑怯な手が使われていますよね。
>XINさん
そのエコノミスト(=御用学者)の口にする「経済」とは、単に経営側の自己弁護でしかないと思うのですが、その辺を自動的に正当化する、批判を一言で抑え込むための道具として、経済学者であるという「権威」が使われているようですね。仰るように他ジャンルの専門家は割と蔑ろにされがちで、むしろ「素人目線」の方が持ち上げられがちな昨今ですが、不思議とエコノミストは重んじられている気もします。エコノミストの半分は占い師みたいなもののようにも見えるのですが。
>ふみたけさん
結局エコノミスト連中にしてみれば「あなたは経済を知らない」→「自分達だけは経済を知っている」→「自分達の言うことが正しい」と、こういう考え方なのでしょう。傍目にはほとんどカルト的な自説への盲信に過ぎませんが、どういう訳かエコノミストの言うことが「正しい」と信用されがちです。信じたい人が多いのでしょうか。
昨今のエコノミストにモラリズムを求めても無駄だと痛感してますので。
正直なところ、彼らの発想はアドルフ・アイヒマン的だと感じます。
彼らからすれば、労働者は直にでも置き換え可能な数値的な存在に過ぎないのでしょう。また、余剰な数字については営業効率の名の元に取り除くべき無駄と嫌悪しているのかもしれません。
正直、アイヒマンと引用したエコノミストの差は、絶滅収容所で人を絶命させるか否かの違いぐらいではないでしょうか?己の発想に対する無頓着・無関心ぶりにおいては何の差も感じないと思うのは私の邪推が過ぎる事を望みますが。
御紹介、ありがとうございました。新聞の見出しもそうですが、労組サイドが掲げるスローガンにも、ちょっと身構えさせてくれるものがありましたね。記事本文を何度か読み返した限りでは正社員と争い会う方向性ではないように見えたのですが、ただ一歩間違うとどうなるか……という不安がないこともありません。
指摘を紹介して「ん~~ん、なるほど。私の読みが、ちょっと硬直しすぎていたかもしれない、現下の情勢で正規・非正規の団結を追求する柔軟な要求の立て方と評価するのが妥当だろうか。」と、追記しました。
貴重な指摘をありがとう!