非国民通信

ノーモア・コイズミ

若者は遊ばせておくべきだ

2011-06-08 23:30:35 | 編集雑記・小ネタ

 そのうち取り上げようかと思っていたら、いつの間にか掲載期間終了になってしまったのですが、「『養ってくれる親いるのになぜ働くの?』23歳男に同世代の反論」なんて見出しの記事がJ-CASTに載っていたことがありました。内容は以下の通り。


 「養ってくれる親がいるのに、なぜ働かなきゃいけないんですか」――そう語るのは、鳥取県に暮らす23歳の男性オニオンさん(ハンドルネーム)。高校卒業後就職した会社は、「夏休みがほしい」とわずか5か月で退社。その後は短期バイトを転々としていたが、「自由な時間がほしい」という理由でここ1年間はまったく働いていない。

 両親は小言こそ言うが、それ以上オニオンさんに干渉しようとはしない。好きな絵を描きながら気ままに暮らすオニオンさんは「働かなくていいならラクして生きたいとは思いませんか?」と問いかける。同世代の若者たちは、これにどう答えるのか。


 どうも「同世代の反論」の部分は「テレビの方を見てください」みたいな話だったようですが、たぶんロクな「反論」でなかったことは想像に難くありません。まぁ、ダイヤモンドの劣化コピーみたいなJ-CASTの雇用論を垂れ流されるくらいなら、何も書かれていない方がマシというものです。では既に同世代ではない私は、このオニオンさんにどう反論すべきでしょうか。

 私の経験から「養ってくれる親いるのになぜ働くの?」という問いに回答するとしたら、「若い内に就業しておかないと、年を取ってから働けなくなるから」ですかね。就業機会のピークは大学新卒時点であって、それを過ぎた先はチャンスが失われてゆくばかりですから。養ってくれる親がいる間は働かなくても困らないかも知れませんが、いざ親の収入が当てに出来なくなったときに「では働くか」と思っても、職歴ほぼ0の中年を採用する雇用主などいないわけです。安定した仕事、年金受給年齢まで安心して働ける仕事に就きたかったら新卒時点で、そうでなくとも可能な限り若い内に働き始めねばならない、我々の社会はそういう仕組みになっています。だから、養ってくれる親がいても働かねばならないのです。

 日本では採用に当たって新卒者専用の特別枠を設けており、しかもその新卒者専用の特別枠は優良企業ほど大きく用意してあるなど、世界に類を見ない若年者優先の採用体系が取られています。何の経験も実績もなくとも新卒と言うだけで専用の入り口を開けてもらえるというのですから、世界の若き求職者が日本を羨んだとしても不思議ではありません。にも関わらず、絶対的に優遇されているはずの新卒者でさえ就職難という普通ならあり得ない状況に陥っているのが日本でもあります。だからこそ若者や新卒の就職難が盛んに取り上げられるわけですが、もしかしたらここで発想の転換が必要なのかも知れません。若い内は就職せずとも問題ない、と――

 高齢者ほどではありませんが、若年層もピンキリです。一概に言うことは出来ませんが、ただ取り上げられたオニオンさんのように養ってくれる親が健在な若者は少なくないわけです。ならば養ってくれる親がいる限り若者は働く必要がない、そう考えてみましょう。このような立場に対して予想される最も典型的な反論は「でも親がいなくなったら終わりではないのか」というものです。だから若い内から仕事を見つけておかねばならない、若者の雇用対策を考えねばならない、というのが従来型の発想でした。しかし、ちょっと視点をずらしてみることも可能ではないでしょうか。若者向けの雇用対策ではなく、中高年向けの雇用対策を手厚くする、「養ってくれる親がいなくなった」年代の元・若者世代から先が就職しやすい環境を整備することもまた、ソリューションたり得るはずです。

 現状ですと年金受給年齢まで働けそうな仕事の口は絶対的に不足しており、しかも就業機会が新卒時に集中しているため、何としても若い内に良い仕事を見つけなければならない、養ってくれる親がいるから働かずとも経済的に困窮するわけではない人であろうとも急いで仕事に就かねばならない環境が形成されています。故に椅子取りゲームは加熱するばかり、一方でいずれは切り捨てられることが明白なブラック企業や非正規の求人は敬遠されがちで、これに対してコンサルの類が「選り好みするから悪いのだ」などと述べているのが現状です。だから考えを変えましょう。養ってくれる親がいる間、若者が働く必要はありません。若い間はもっと遊んでいればいいのです。その代わり、親が退職して収入が減ったり、あるいは自身が所帯を持とうとして物入りになったり、そういう年齢になったときに就業できるような形へと雇用慣習を変えていく努力をしてもいいのではないでしょうか。

 リーマンショック以降の急激な落ち込みを経た後は微妙なところですが(そして今後は自粛ムードと電力不足の中でもっと悪くなることでしょう)、非正規を勘定に入れれば雇用の口は増えてきました。ただ増加した非正規の職では、いずれクビを切られるという問題があるわけで、結局のところ新卒の内あるいは若い内に安定した仕事に就いておかなければ後がないという状況には変わりがありません。むしろ正規雇用の非正規雇用への置き換えが進んだことで、より椅子取りゲームは過酷になってしまいました。非正規雇用を増やせば数値上は若者向けの就業機会が増えたように見えるのかも知れませんが、何とか職にありついた若者もいずれは年を取り、新たな若者を雇うためにクビを切られる、こんな雇用形態を増やしたところで誤魔化しにしかならないのです。

 だから若年層ではなく、若さを失った先の就業環境をこそ考えるべきなのです。親世代の雇用を安定させて、若者は遊ばせておく、そして養ってくれる親がいなくなった頃、かつての若者であった人が就業できるような環境を整える、こういう発想から雇用政策を考え直してみることも意味があるのではないでしょうか。空前の買い手市場で労働力が余っているにも関わらず就職競争を煽れば、より雇う側の立場を強固なものに出来る、それこそ日本の経済政策において追求されてきたものなのかも知れませんが、そろそろ逆の方向に舵を切るべきです。養ってくれる親がいる若者を遊ばせておくことで、椅子取りゲームを緩和させましょう。養ってくれる親がいなくなった時に、若くなくても就職できる環境があればいいのです。

 

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 極端なことを言うのなら、就業開始年齢、とりわけフルタイムでの就業開始年齢を30歳以上に引き上げてみたら面白いのではないかと思います。そもそも親が健在でなくとも独身で健康な若者であれば、そんなに経済的に困窮するものではないはずです。子供が出来たとか、親が失職したがローンが残っているとか「やむにやまれぬ事情」がある場合を除いて、フルタイムでの就業は30歳からにしてしまいましょう。若い内は遊んでいればいいのです。独身で健康な内は、その日暮らしのお金でいいのです。あくせく働く必要などありません。所帯を持ったり肉体的に衰えてきたり、そういう年齢になったときに安定した収入が得られる見込みがあれば、若いうちには貯金など出来なくても十分です。若い間は遊ばせておいて、フルタイムでマトモに働くのは30を過ぎてからが当たり前、こういう未来もあり得るのではないでしょうかね。


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8 コメント

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Unknown (ルーピー)
2011-06-09 07:51:54
そうです。「震災後だからこそ、ゆとりだ」というなら、これぐらい思い切ったことをしても良いと思います。 
 働かなくてもよい人は実際にいます。そういう人も、「働かないと後で後悔する」とさんざんいわれ、本人も完全にそう思い込まされています。
 結果、働かないといけない人を蹴落とすことにまでなってしまっているのが現状でしょう。
 こんな事を書き込んでいる自分まで、「働けるのに働かない」ことは罪悪だ、と実は読むまで思い込まされていました。
 「働きたい」と「働ける」と「働かなくてはいけない」は分けて考えるべきでしょうね。
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ライフステージ (kuroneko)
2011-06-09 11:28:15
>「若い内に就業しておかないと、年を取ってから働けなくなるから」ですかね。就業機会のピークは大学新卒時点であって、それを過ぎた先はチャンスが失われてゆくばかりですから。

やたら実際的な意見ですね。「精神論」「べき論」が、日本の雇用慣行の偏りを覆い隠している面があるから、これぐらい“ずっけり”言うのも必要かと……。

 ふと考えるんですが、「財産があるのに、なぜ働かなくてはいけないんですか」という若者だったら、どう言う反応なのかなあ。あるいは、「お手伝いさんのいるお金持ちと結婚したんだから、なぜ毎日オシャレして遊んでいてはいけないんですか」って女子に言われたらどうなのか。内心羨ましいから、ますます勤労の美徳を言い募るのかな。

 前からエントリーを書こうと思っているテーマに、「海外青年協力隊」などの活動とその後の就職の話があります。財界首脳は「国際貢献」っていうわりには、大学を休学して海外でボランティアしてきたという20代後半になった青年のキャリアを評価するかな? といった趣意のことを書こうと思っていました。
 「22歳の新卒が標準という大卒就職構造を崩さないでおいて、若者に意欲だ夢だって望むっていうのもね。けけけ」って感じで。

 でもそういう海外ボランティアだけでなく、「ある人物が国内でのNPO活動でも、ゲーム三昧の趣味生活でも、企業人にならず自分のデザインで生活したって、その経歴を生かせる人材、生かせる企業なら、もっといいだろう。そうは発想しないのね」って言論もありえそうです。
 
 
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Unknown (シトラス)
2011-06-09 17:42:13
ニートや引きこもりが深刻な問題を引き起こす理由として「然るべき時」に働いておらず、本人を含む全員がそれを悪いことだと思っているので関係がこじれてしまうというのがあるそうです。
管理人さんの言う社会が実現すれば、彼らが自分を責めるが故の悲劇もある程度減るかもしれません。
そもそも自分がフリーターであることに居直れる人もそう多くないので、「同世代の反論」はむしろ「羨望」と見たら面白かったと思います。
たとえば生活保護の打ち切りがそうですが、いわゆる「タイムリミットを設ければ必死になる」的な発想から脱出すべきかもしれません。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-06-09 23:52:41
>ルーピーさん

 働く必要のない人まで労働市場へと駆り立てることで、本当に雇用(収入)が必要な人が座るべき椅子を奪っているところもありますからね。「働かなくてはいけない」立場となった人へ優先的に雇用が振り向けられるようにするのも社会政策の一環になるでしょう。

>kuronekoさん

 実際に青年協力隊として南米に行った友人がいますけれど、国内での就職は難しかったみたいです。結局、南米に帰りましたから。やっぱり、学校を出たらすぐに切れ目なく働くという「標準」が求められているわけで、その辺の考え方を強引にでも、つまり規制してでも変えなきゃいけないと思いますね。

>シトラスさん

 将来への不安、親がいなくなってから先を考えて、働く必要のない内から会社勤め、若い時代を会社に捧げた人からすればニート暮らしは羨望と憎悪の対象になりやすい気がしますね。安定した職を確保する過程で諦めた自由を手にしているニートが憎い、それが罵倒やタイムリミット云々に繋がるのでしょう。
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Unknown (アンフス)
2011-06-10 21:42:04
就職活動中の学生です。

大学在学中や就職後に、一生を懸けたい職業や夢を見つける人も数多く居ると思います。
私の周りでも何人か居たのですが、将来の不安、世間の目、自由時間の少なさ、そして新卒を逃せばもう次は無いという現実に屈して皆諦めていきました。
目標を見つけた頃には既に手遅れだった、なんて死んでも悔やみきれませんよ。
管理人さんの仰る社会になれば、少なくともそういった不幸な人々は減るでしょうね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-06-10 23:42:22
>アンフスさん

 就職のために、見つけた夢を諦めざるを得ない人も多いですからね。若い内や親が元気な内は、もっと自然に諦めがつくまで夢を追いかけていられるべきなのではないかと思います。そうして夢を追うのに疲れた年代になってから安定した仕事に就ければいい、と。雇う側は早い内からしつけておきたいのかも知れませんけれど、若い内から会社に縛り付けられることで、自らの才能に蓋をしてしまった若者も多いのではという気もしますし。
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少々投稿が遅くなってしまい申し訳ございません (GX)
2011-06-26 09:12:38
 私がまだ中学生ぐらい、少なくとも「ニート」という単語もなかった頃ですが、あるニュースが社会問題として「働かない若者」について取り上げていました。そのことについて取材を受けていた知識人の方が「若くて脛かじっている間はいいが、親がいなくなってそれから社会に出て働こうとしてもそれは無理。」とおっしゃっていました。
 この「無理」とはどういうことだったんでしょうか。きっと、ビジネスマナーやサービス残業など本来抗議するはずの理不尽の数々に耐えてくれなかったりとか、年齢にふさわしいポストについていなくてはいけないとかでしょうね。非国民さんも今回の例でおっしゃる通り、若いうちから意識を持たせて三つ子の魂百まで(三つ子はとうに過ぎていますが…。(苦笑))というところでしょうか。と言うか、仮に働かないことが悪いことだとしても、それを反省し、やり直す権利すらないのかとは、当時からもうっすら思っておりましたが…。
 新卒者でも働き口がないという現代、「現実」にのっとり何歳からでも働けるような社会づくりをしていきたいです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-06-26 15:03:53
>GXさん

 一念発起して裸一貫やり直そうと思っても、そこまでの経歴次第で大幅に制約が掛かってしまうのが実態ですからね。でも、新卒ですら就職先がない時代に経歴を問うとなれば、なおさら早い段階で就職しないといけなくなる、競争も厳しくなってしまうわけで、ならば「若くて脛かじっている間はいい」のだから若者の内は遊んだり(金にならない)夢を追いかけたりさせておくべき、そうやって競争を緩和することで若くなくなった人にも多少は道が開けるのではないかと思います。
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