犬のあだ討ち「子連れ狼に着想」、小泉容疑者が供述(読売新聞)
元厚生次官宅連続襲撃事件で、殺人容疑などで逮捕された無職小泉毅容疑者(47)の鑑定留置が23日、終了した。
動機については、処分された飼い犬の「あだ討ち」と終始一貫し、妻を殺害した男らに 復讐する時代劇ドラマ「子連れ狼」に影響を受けたとも説明しているという。
さいたま地検は、事件当時に責任能力はあったとする鑑定結果を踏まえ、拘置期限の26日にも、殺人罪や、元社会保険庁長官に対する殺人予備罪などで起訴する方針。
捜査関係者によると、一連の事件について小泉容疑者は、「34年前、飼い犬を保健所に処分されたあだ討ち」と繰り返す一方、処分直後、「子連れ狼」をテレビで見て報復を思いついたとも説明しているという。
この事件、逮捕当時のことはこちらでも取り上げました。鑑定留置が終了したそうで、動機については当初の供述とほとんど変わりないようですが、曰く「子連れ狼」に影響を受けたとのことです。へー。
ちょっと、珍しいかも知れませんね。「定番」からは外れていると言えるでしょうか。この手の殺人事件が起ると、とかく漫画、アニメ、ゲームなどの影響が取り沙汰されるものですが、今回は時代劇です。渋い好みですね……って、そういう問題でもありません。
例えば蒟蒻ゼリーは規制の対象として検討されるけれど、餅の規制など誰も考えない、あるいは大麻は取り締まりの対象になるけれど、煙草で逮捕されることはない等々、「新しく世に出たものか」「既に社会に根付いているものか」それが事故発生率や毒性の強さよりも重視されるわけです。娯楽も然り、「昔ながらの」「伝統的な」娯楽は尊重される一方で、比較的新しいメディアは絶えず偏見に晒され、道徳的な非難の対象とされてきました。アニメやテレビゲームは、槍玉に上げられる常連中の常連ですね。
そこで容疑者の自宅から漫画やゲームが押収されると、決まってその悪影響が語られるものです。新しいメディアに強い偏見を持つ人からしてみれば、センセーショナルな事件の(既に犯人扱いされている)容疑者宅からアニメやゲームが見つかれば、それが犯行の異常性と関連があるかのように語る格好の機会になるのでしょう。しかるに、今回の容疑者のように影響を受けたと公言する対象が比較的「古い」部類に属する時代劇であった場合はどうなるのでしょうか? 時代劇が暴力的な傾向を加速させる、時代劇が犯罪を助長する、時代劇は危険だ、時代劇を規制し、遠ざけろ……そう、語る人は出てくるでしょうか。
アニメやゲームの悪影響を語る人々への反論として、「フィクションの影響ではない」とする人もいます。確かにフィクションの影響は時に過大に煽られるわけですが、しかし影響していないわけではないとも思います。もちろん、それはアニメやゲームなどの新しいメディアに限ったことではなく、時代劇や雑誌、新聞などの古い世代からも信頼されるメディアも同様です。あらゆるものが影響を与えている中で、一部のまだ社会的に受け容れられていないジャンルの「悪」影響だけが殊更に強調されているだけ、そう捉えた方がよいでしょう。
時代劇の悪影響なんて、馬鹿馬鹿しくて誰も考えてこなかったかも知れません。しかし、現に影響を受ける人もいるわけです。大半の人はそうしたメッセージを受け取らなかったとしても、中には時代劇を見て「あだ討ち」を思いつく人もいる。こうした際立った形で時代劇の影響が顕在化することは稀でしょうけれど、しかるに「表に出ない」「知覚されない」範囲で強く影響していることもあるのではないでしょうか。時代劇に限らず、諸々のフィクションやメディアを通じて勧善懲悪の世界観を刷り込まれた人々、自己責任論を信じ込むに至った人々、偏見や差別心を宿すようになった人々、いくらでもあるはずです。刑事事件に繋がったケースだけが悪影響ではないですから。
子連れ狼の殺人はきれいな殺人でひぐらしの殺人は汚い殺人、敵討ちはきれいな殺人でただの殺人は汚い殺人、というのは乱暴に過ぎる意見ではないかと思うのですが。
敵討ちと言えば、“サムライ”ですが(農民や町人は余りしない)、困ったことになりましたね。
「韓国の連中が侵略だの何だのガタガタいうから、わが軍のサムライ大将が、きっちり敵を討ってくれたよ。」うちの親父当たり言ってそうで、怖い。
「犯人についての報道は警察の口が固いので、
あまり出ないものだが、今回は多く出ている。
最近は捜査情報が官邸にも入るようになったし、
官邸筋が治安悪化を煽るためにリークしてるんじゃないか」と、
勘繰っていたのを思い出しました。
ソースがアレので眉唾だったんですが、
先日の『漆間妄言』を踏まえると、仮説としてはアリかと。
産経ですら「漆間氏はいきなり何かを言い出すので冷や冷やする」と
警察庁幹部のコメントを載せていたので、
ゼロとは言えないかも。
今回の容疑者、以前は犯行の動機を「官僚は悪いやつらなので~」と語っていたわけですが、この容疑者と似たような考え方の人は意外に多そうですしね。実行に移す人は稀でも、「敵討ち」を肯定的に見る人は多いかも知れません。先日の死刑判決でもそうでしたし。
>buhiさん
そこはそれ、程度の軽重はあれ歴史修正主義的な素養があると言いますか、実際の歴史よりもフィクションを通して妄想する歴史時代劇の方を史実と取り違えている人も多くて、「仇討ちは日本の伝統」と「日本人は誰もが侍」と、そう思われがちなのかも知れません。
>観潮楼さん
でもセンセーショナルな事件の場合、とりわけ容疑者がバッシングの格好の素材だった場合は、むしろ出血大サービスで情報を垂れ流しにしているのが普通じゃありません? この前の死刑判決が出た事件だって、犯人の異常性を強調するためなら、もはや警察の口が堅いというイメージはないですよ。
「仇討ち」のごときものを求める遺族に喝采を送るケースが目立ちますからね、そのような刑は大いに歓迎されそうです。下手をすれば仇討ちが賛美されるあまり、こんどは仇討ちに乗り気でない遺族が非難に晒されるような可能性すらあるかも……
>kuronekoさん
どうなんでしょう、先年の秋葉原の無差別殺傷事件のように、恨みは財界人ではなく普通の人に向けるとか、どうも財界人に刃の向かうケースが思い浮かばないんですよね。一方で北朝鮮関係者と言ってもピンキリではありますが、被害者の立場如何に関わらずレイシストのヒーローになりそうな気がします。
私の中にもそういう感情や本能があることは否定しませんがさてリアルに影響を及ぼす、実行されるとなると話は変わります。事が人命に関わるだけに慎重に考え行動する必要があるでしょう(ただ「命に関わるから過激になる」こともあるかとは思います)。場合によっては特にオタク達によく言われるこの言葉をプレゼントしなくてはならないこともあると思います。「現実と虚構の区別がついてない」。(まあそう言ったらば「オタクと一緒にするな、オタクの感情は汚い感情で以下略」と返されそうな予感もありますが)
復讐代行の依頼主は不幸を加速させたまま劇中からフェードアウトし、請負った殺し屋達も「人の命をいただくからは、いずれ私も地獄道」。
この救いの無い展開が当たるのは、視聴者が安全圏の野次馬だから…「純粋に復讐心理にのみ感情移入する」娯楽であるが故に。
…面白いンですけどね。うう。
合理性よりも感情面での満足が選ばれるケースは多々ありますね。問題を軍事力の行使によって解決しようとする輩などは特にそうでしょうか。誰しも感情からは逃れられませんが、それは人間としてどうなのかと……
>助詞中学二年生さん
実は私は時代劇にはあまり詳しくないのですが、必殺シリーズはそういう展開なのですか。してみると、時代劇そのものは必ずしも復讐を美化してはいない、復讐の暗い面を「なかったこと」にしているわけでもなさそうですね。しかるにその視聴者はというと???