非国民通信

ノーモア・コイズミ

本当にただ乗りしているのは……

2013-10-06 10:25:38 | 社会

受給外国人急増 4万3000世帯(産経新聞)

 日本に永住、在留する外国人は徐々に減少しているが、生活保護を受ける人は急速に増えている。厚生労働省の最新の調査(平成23年)では外国人受給者は4万3479世帯、月平均で7万3030人に上る。10年前からほぼ倍増し、ここ数年の伸びは年に5千世帯のハイペースだ。「ただ乗り感覚」の受給者の存在を指摘する関係者もいる。

 

 ここで引用した記事には、マトモな部分とダメな部分があります。冒頭部は典型的なミスリードで、まぁメディア報道の常とも言えますけれど、嘘は吐かないまでも部分的にしかデータを提示しないことで読者に誤った印象を与えることを目的とした記事ですね。産経は中日/東京新聞や朝日、毎日に比べればマシな方ですが、概ね日本の新聞報道には共通した報道姿勢でもあるでしょうか。例えば冒頭の「日本に永住、在留する外国人は徐々に減少している」との行です。ここで伏せられているのは「いつから」在留外国人が減少したかというデータですね。

 法務省の在留外国人統計によると、2012年末で日本の在留外国人は2,033,656人です。これはピークを迎えた2008年からは徐々に減少した数値です。「4年前から」在留外国人は「徐々に減少している」わけです。一方、上記報道では「10年前から」外国人生活保護受給者が倍増していると伝えています。では「10年前から」在留外国人は減少していたのでしょうか。法務省の統計によると、2002年の在留外国人は1,851,758人です。10年前を起点とするなら在留外国人数は増加している、むしろ生活保護受給者数を押し上げる要因と考えられそうなものですが、こうした必要な情報は伏せておくのが日本の報道というものなのかも知れません。

 比較対象を置かない、というのも日本の報道においては新聞社を問わない一貫した姿勢と言えそうです。この場合、対照群としては日本全体の生活保護受給が挙げられるべきですかね。そして国立社会保障・人口問題研究所の統計によると平成22年の被保護人員は月平均で1,952,063人、これが10年前となると1,072,241人です。実質的には誤差と言える外国籍の受給者を除算した「日本人の」生活保護受給者もまた「10年前からほぼ倍増」していることがわかります。わかりますが――こうした比較対象を伏せ、あたかも特定層の受給者ばかりが増えているかのように印象づけるのは、まさに日本流と言うほかないのでしょうか。

 

 国籍別では韓国・朝鮮人が最多。国民年金に加入していなかった在日韓国・朝鮮人の「無年金世代」が高齢化しているのが最大の要因だ。

 伸び率が急速なのは、1980年代以降に来日したフィリピン、中国、ブラジル人らの「ニューカマー」と呼ばれる人たち。東海地方で自動車などの製造ラインを担っていた日系人らの多くがリーマン・ショック後に失業、生活保護になだれ込んだ。

 ブラジル人居住者が全国最多といわれる浜松市ではリーマン後に一時、ブラジル人の保護率が8%に達した。

 単純労働に従事する外国人ほど景気の波に左右されやすく、言語の壁から次の就職先もなかなか決まらない。雇用保険の給付期間を挟んで、失業が生活保護に直結しているのが現状だ。

 日本人の配偶者だったフィリピンや中国出身の女性らが夫婦関係の悪化やDV(配偶者間暴力)などの理由で離婚しても、子供が日本で教育を受けていれば、シングルマザーとして国内にとどまることに。この場合、「配偶者」から「定住者」へ資格変更して、生活保護を受給するケースも多い。

 

 冒頭のミスリードとは裏腹に、続く報道は意外や良心的だったりします。結局のところ要因としては外国人差別も大きく、日本で働きながらも国籍を理由に年金加入から排除されていた人や、先んじて解雇された外国人が生活保護受給者へと転じている事情が伝えられているわけです。外国人にも日本人と等しく年金に加入する権利を付与しておけば、あるいは日本人と等しく雇用を守るなり、採用に当たって等しく取り扱うなりされていれば、外国籍の生活保護受給者の伸びは抑えられていたことでしょう。しかし、外国人の扱いが日本人より悪ければ悪いほど、生活に窮してセーフティネットに頼らざるを得ない人が増える、と。

 

 「母国に帰っても生活保護の水準まで稼げない人が多い。フリーライド(ただ乗り)感覚の外国人受給者もいる」(ある自治体の担当者)といい、外国人の場合も保護の長期化が懸念されている。

 

 ……で、悪意に満ちているのが最後の段落です。これを語る「担当者」と選りすぐって紙面に載せる記者のどちらが悪質なのか、ともあれフリーライド云々と「感想」が述べられていますが、それは事実なのでしょうか。財界筋の外国人に対する態度を思い出してください。財界筋は外国人が日本にやってくることを歓迎しているでしょうか、それともネガティヴに見ているでしょうか。外国人単純労働者の輸入が必要だと、しきりに訴えているのが専らのところのはずです。なぜ? それはもちろん、儲かるからですよね、日本の会社が。

 外国人労働者を安く使い捨てることで、日本の企業は利益を上げているわけです。そして景気が悪くなったら街に放り出してしまうのは上記の産経報道でも伝えられているところです。結局、職を失って生活保護に頼る外国人は、日本企業の利益のための犠牲者でもあります。では、その日本の会社の利益に貢献し、給与を受け取っていた時代には、そして何かを購入する都度には日本に納税もしている人々がセーフティネットにかかるのは「フリーライド」なのでしょうか。むしろ外国人労働者を安く使って利益を上げておきながら、その外国人のための社会保障費を惜しむとあらば、むしろただ乗りしているのは日本企業の側と言わざるを得ません。

 

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2013-10-06 21:21:30
まあ報道などで受ける(受ける、というのもなんですが)「絵に描いたような」受給者(「絵に描いたような」犯罪者、というケースもあるでしょう)を心の中で求めてしまう精神的な傾向はやっぱりあると思うんですよね。悪を糾弾しつつ「怒れる対象」を求めてしまうといいますか。
Unknown (非国民通信管理人)
2013-10-06 23:46:56
>ノエルザブレイヴさん

 そうした需要に敏感な新聞社の「お客様重視」の姿勢の結果として、こういう記事が続出するとも言えますね。
Unknown (とれとれ)
2013-10-08 00:51:55
産経新聞は記事の質がトンデモから納得できるレベルまであるのが特徴ですからねえ(新聞の顔である主張や論説がトンデモなことが多いというのが業病ですが)。
最近、とあるところでネトウヨの妄言でこの手のことに絡んだ発言をみたのですが、「在日の失業率が高いのは怠け者だから」で「犯罪者の子孫は犯罪者」なので「出て行け」…だそうで。
この無知と差別の結果が自分には無関係と思い込んでいられるところが恐怖を誘います。
Unknown (デュオ・マックスウェル)
2013-10-08 20:29:37
「韓国や中国からの留学生によって税金がむしられている」と叫んでいるのも検索をすると見つけられます。
まあ、国費留学生と混同していることや「そんなに甘くない」ということを無視している可能性はありますけど。

因みにフィフィが自分の著書で「調べてわかったこと」と
いうことですが。
Unknown (非国民通信管理人)
2013-10-09 00:03:12
>とれとれさん

 社説や論説の類は、どこの新聞社も酷いですからね。むしろアレを見て、「こんなバカでも偉い人になれるのだ」と読者に希望を持たせるためのものなのかと思えるほどで。一方で、安倍や自民党の方の菅にさえ梯子を外されるレベルのネトウヨと言いますかレイシストも相変わらず元気なわけで、まぁ事実ではなく妄想を根拠にしている人ほど、かえって己の世界観に自信を深めるものなのかな、と。

>デュオ・マックスウェルさん

 むしろ日本からの留学生が、留学先の国の政府支援に助けられている、向こうの国の税金で教育を受けているケースだって多々あるのですけれど、まぁ何事も知ろうとするより妄想をたくましくする、「ネットで真実」を見つけようとするのに張り切っている人がいると言うことなのでしょうね。

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