非国民通信

ノーモア・コイズミ

税制優遇で雇用を「移動」させたという話

2013-05-08 00:04:01 | 雇用・経済

「アイアンマン3」がノースカロライナ州で2000人の雇用を実現(映画.com)

 アメリカの各州が税優遇措置でハリウッド映画を誘致するなかで、「アイアンマン3」がノースカロライナ州に2000人以上の雇用を生み出していたことが明らかになったと、The Wrapが報じた。

 「アイアンマン3」は、税優遇措置を理由にノースカロライナ州で撮影を実施。アメリカ映画協会(MPAA)の発表によれば、同作を製作するマーベルはこれにより2000万ドルの節約を実現する一方、ノースカロライナ州では2043人の雇用が生まれ、1億7980万ドルの経済効果を生み出したという。

 ハリウッドのお膝元であるカリフォルニア州が税優遇措置に消極的であるため、今後もハリウッド映画が他州に流出することになりそうだ。

 

 「阪神優勝の経済効果」云々を思い出しました。「阪神タイガース優勝に伴う経済波及効果は約767億円!」みたいなネタが定期的にメディアで取り上げられたりもするわけです。別に阪神に限らず12球団全てで同様の持ち上げ方があるのは言うまでもありません。読売優勝で経済効果○○億円、日ハム優勝で経済効果○○億円――どこが優勝しようと一定の経済効果はあるのでしょう。ここでポイントなのは、優勝できるのはリーグ毎に1球団のみ、ということですね。読売が優勝すれば、それに応じた経済効果が見込まれる一方で阪神の優勝はなくなってしまう、当たり前ですが阪神優勝による経済効果は夢のまた夢となります。「○○優勝の経済効果」を真面目に扱うのなら、その他の球団の優勝した場合の経済効果が望めなくなる逸失利益もまた考慮に入れられなければなりません。

 ……で、ノースカロライナ州では税制優遇措置の効果で2000人以上の雇用が生まれたのだとか。所詮は映画撮影期間中限定の仕事じゃないのかというツッコミはさておくにしても、この雇用が税制優遇措置によって生み出されたかのごとき理解は、いくら何でも浅はかに過ぎるのではないかと。結局のところリーグ毎に1球団限定の「○○優勝の経済効果」と同じです。今回の「アイアンマン3」にしたところでノースカロライナには一時的な仕事が生み出されたとしても、その分だけハリウッド(カリフォルニア)の雇用はマイナスになっているはずです。ノースカロライナだけを見ればともかく、アメリカという国を単位としてみれば違いはどこにあるのでしょうか。必ずどこかの球団が優勝するように、必ずどこかの州で雇用は生まれるもの、決して税制優遇によって雇用が新規に作られたわけではありません。ノースカロライナの税制優遇がなければ、どこか他の州で撮影が行われ、関係者が雇われていただけのことです。

 製作元のマーベルは税制優遇により2000万ドルの節約になったとか。そして「ノースカロライナ州では2043人の雇用が生まれ、1億7980万ドルの経済効果を生み出した」と書かれれば、ともするとWin-Winの関係に見えるのかも知れません。しかし、阪神が優勝すれば読売優勝の経済効果が雲散霧消してしまうのと同様に、ノースカロライナが撮影陣の誘致に成功した結果としてハリウッドでは「2043人の雇用が失われ、1億7980万ドルの経済効果が損なわれた」とも言えます。ノースカロライナにはプラスでもハリウッドにはマイナス、アメリカ全体で見ればプラスマイナスゼロ――で済めば良いのですが、節税を許した2000万ドル分だけ、税収が減ってもいるわけです。この減税分をマーベルが適切に人件費へと回していれば良いのですけれど。

 今回のような事例で雇用/経済効果を「生み出した」と言うのは誤りであって、「移動させた」と書くのが正しいでしょうね。ハリウッドからノースカロライナに雇用を移した、それだけの話です。決して新規に生み出したのではありませんから。ノースカロライナや、他の州で税制優遇措置がなければ引き続きハリウッドで撮影が継続されただけのこと、税制優遇で雇用が生まれたわけではないのです。あくまで、「ヨソの州から奪ってきた」だけなのです。ハリウッド(カリフォルニア)にはピンチでも、所詮はアメリカ国内で雇用が移動しているだけ、にも関わらず税制優遇で雇用を生み出したなどと胸を張っているとしたら、視野が狭いというか間が抜けていると言いますか、まぁ自分の州さえ良ければと考えているのなら仕方がありません。

 ちなみにTPP「交渉」に参加したが最後、何もかもアメリカの制度に合わすことを強いられるみたいなことを言い出す人もいるわけです。原発関係でもそうでしたけれど、あんまり煽りすぎると仲間内の盛り上がりに終始して逆に信頼を失うばかりなのではないかと傍目には感じるところですが、税制とかはどう考えられているのでしょうね。EUなどTPPなんかとは比べものにならない規模で「統合」が進められたにもかかわらず、キプロスのようにタックスヘイヴンまがいの税制で課税逃れに勤しむ企業から資金を集めていた国もあるわけです。アメリカでも今回の事例を見るまでもなく、州によって税率は随分と異なります。何があろうとも税制だけは他国の干渉が及ばない聖域……とまでは流石に思えないのですけれど。他にもまぁ日本では大人気の死刑制度、アメリカでは専らテキサスの因習であって州によっては明確に死刑を廃止しているところも多いです。本当にTPPでアメリカの制度が押しつけられるのであれば、どこの州の制度が適用されるのか興味深いですかね。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人事権を持つ側が変わらない... | トップ | コーポレーション・トモダチ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

雇用・経済」カテゴリの最新記事