lens, align.

Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Mark Van Hoen / "The Revenant Diary"

2011-12-23 16:10:46 | music11
The_revenant_diary



□ Mark Van Hoen / "The Revenant Diary"

♪ <script type="text/javascript" src="http://mediaplayer.yahoo.com/js"></script>37/3d
Unknown Host
Why Hide From Me

Release Date; 19/12/2011
Label; Editions Mego
Cat.No.; eMEGO 136
Format: CD, Vinyl, downloadable.

>> http://www.markvanhoen.com/


>> tracklisting.

01. Look Into My Eyes
02. Garabndl x
03. Don't Look Back
04. I Remember
05. No Distance (Except the one between you and me)
06. 37/3d
07. Where Were You
08. Why Hide From Me
09. Unknown Host
10. Laughing Stars At Night
11. Holy Me

All titles composed by Mark Van Hoen
Recorded in Brooklyn & Woodstock NY USA 2011
All instruments & processing by Mark Van Hoen with additional vocals by Georgia Belmont
Cover art by Stephen O'Malley



□ Look Into My Eyes - Mark Van Hoen (Locust)





What is swiftly becoming clear is how useless nostalgia is in getting a grip on our own sense of time, not least because it leaves us with alienated figments of time, emptied of historicity. The Revenant Diary, confronting us with unremembered fragments of Van Hoen’s self, confounds all of that.  -Dan Barrow



印象派電子音楽のカルト的コンポーザー、Mark Van Hoen。彼が十代の頃から1980年代にかけて、4-tack tapeにより録音した楽曲素材を、自ら再構成・リマスタリング。テクノフィールドの知られざるマイルストーンとするに相応しいアルバム。


『掘り起こされた日記』

イギリス内陸の奥深くに位置する炭鉱都市スメスウィック。多くのジャマイカ・インド系移民を受け入れる街のエスニカルな喧噪と、鉱業街の刻む金属的なリズムに囲まれて少年期を過ごしたMark Van Hoen。そのデジタルな作曲技法の中には、彼にとってのノスタルジアの表徴とも取れる様々な『異質』への憧憬が響き渡っている。


"The Revenant Diary"は、名が体を顕すが如く、Mark Van Hoenが過去に『遺失』してきた記憶と感情を呼び覚まし、取り残された時間の中で離散しながら、かつて剥がれ落ちた刹那の結晶を紡いで、現在の自己のアイデンティティと、自らが陰ながら開拓の一線を担って来た、電子音響テクノロジーの新たな筆致により生まれ変わったメモラビリアである。



凡そTechnoミュージックの文脈では、Mark Van Hoenの存在感と影響力について、それほど大きくは周知されてはこなかった。しかし現在のIDMに通じ、伝説として語られるSeefeelとしての実験的な音楽活動の数々や、Apolloレーベルからのアンビエント界における90年代の遺産とも言える聴講に値するインパクトの数々を刻みながら、近年の寡作ぶりに、彼自身が90年代における「失われた異才」としてカルト的な求心力を蓄え続けていたこともまた事実であった。




彼の作品の特徴として、確かにそれが決して『テクノ』というジャンルに対して何か前衛的なアイデアを提供したと評価するには少し弱い節さえあると言える。(実際はAutechre等からのリスペクトは受けているものの)それは何故かというと、ホーエンの作曲プロセスは、どちらかというとシュトックハウゼンに始まる、今や『古典』となったアカデミックな電子音楽の系譜を踏襲しているように聴こえるからとも考えられる。


しかし、そのような実験音響で奏でられる音楽が、ただ無機質な響きに結集するわけでなく、何処か交響的な叙情性といったものが、ときおり重厚でシンセティックなレイヤーに覗かれることがあって、その正体こそが、彼の世界観に大きく影響を与えているという、アンドレイ・タルコフスキーの映像詩にも通じる鋭く冷艶な精神世界の反映なのかもしれない。


今思えば、Locust名義の忘れ難いポップ・アルバム"Morning Light"において、2000年代初頭におけるAvant-popの予兆を汲み取っていたのは、その背景に流れるバランスを度外視したポップ・テクノ市場のフォーマットを外れる非対称性の美学が、彼の中で既に結実し、時代を覆う灰色の不安感に共鳴するかのように発露したことの顕われでもあるだろう。




先述の通り、"The Revenant Diary"の楽曲素材の多くは、そんな彼が青春期に録りためていた世界観の欠片を繋ぎ合わせ、円熟を遂げた自身のセンスと当世的なアレンジによって、過去の亡霊と未来の預言の二層性を以て構築されている。


80年代の薫りを漂わせるヴィンテージな音色に、最先端のライブラリからアドオンされたエッジの効いたビートが重なり、アトモスフィアの描く粒状の輪郭の「ひずみ」に覗く断裂の彼方に、かつて時間とともに取り残され、喪失したはずの幻影=旋律が姿を現す。

そのメロディは歌われるように饒舌ではなく、打ち捨てられ破片と化した記憶の汚泥の底、こびりついた原体験にも似た偏執性と単純さを併せ持ち、未だ律動する廃墟の如く息を吹き返し、聴く者の郷愁と畏れを呼び覚ます。



一曲一曲を構成する音楽的要素はミニマリスティックでありながら、何処かでシンメトリーが壊れていて、その非連続なレイヤーが響もすディゾナンスが、幼少期より降り積もった記憶の破片の中から選択された、思いも依らぬシーンと符合して、私たち自身の想い出から築かれた意味論の『鏡』によって可聴化された迷宮へといざない、幻惑する。


それは実験的な電子音響の無機質な音色だけでは決して実現しえず、Mark Van Hoenの表現世界の底流に流れるノスタルジアが、その奏でる韻律が、過ぎていく時間とともに埋もれていく人々の、もはや顧みられることのない『想い』に、普遍の光を照り返しているからに違いないのだ。