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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

INCEPTION.

2010-08-08 18:26:39 | 映画
Inception


□ Inception

>> http://wwws.warnerbros.co.jp/inception/mainsite/

Directed by Christopher Nolan
Produced by Christopher Nolan
      Emma Thomas
Written by Christopher Nolan



面白かった!

誰かが「重厚なオーケストラのような映画」と言ってたけどその通り。夢の階層を行き来する「時間のズレ」を利用したシナリオに引き込まれた。Hans Zimmerの音楽にも、本編で重要な役割りを担うエディットピアフの歌声を利用した「トリック」が仕込まれている。

冒頭の夢の中でサイトーが登場する絢爛な日本城が息を呑む美しさ。CGだけでなく、独特なスケールの都市感覚に溢れたロケーションや、舞台装飾に感じられる徹底的な拘りは、同ノーラン監督の『ダークナイト』を踏まえたものに感じられる。


インセプションをオーケストラに例える巧さは、役者やプロットの絶妙な配合と、舞台ごとに時間の流れが事なる多層構造にもあるけど、最たるものは、理屈よりも情緒的な構造に重きを置いているところ。音楽で言うトニック。



夢からさめる=主音に帰着して行く=夢の階層ごとの動機が消化されて行く。プロセスについての設定やシステマは穴だらけなので、辻褄合わせの憶測をする楽しみ方も出来るが、最後の場面も含め、あまり明確に説明されていない登場人物の行動や世界観についての理屈は、映画という夢を共有する観客に感情的な落とし所を与える点で音楽的創意に通じる。


物語中に登場する「ペンローズの階段」のパラドクスも重要なメタファーとなっているかもしれない。時系列が分断し、交錯する作品世界の解釈は、主観や視点の切り替えで違った切り口を見せるだろう。何よりも鍵となるのは、夢が現実の投影である一方、「潜在意識こそが現実に反射する」という、逆行のプロセスが、「インセプション(植え付け)」の原理となっている点だ。


SFの中にドラマがあるのではなく、ドラマを語る書法としてSFが用いられている為、登場人物の動機や行動原理自体は地に足がついたものだ。映画の筋書きを「映像書法」として割り切れる人は、もっとわだかまりなく楽しめる作品。


ある局面における、ディカプリオ演じる「コブ」と渡辺謙の「サイトー」の対峙のリフレインが、ただただ哀切で味わい深い。


自分の対峙している事象が夢が現実かわからない時、しかしそれは抗いようもなく現実の一部となり、やがて夢の一部となる。或は、私たちが現実と信じている生命こそ、「回り続けるトーテム(コマ)」の如く、もっと深層にある出来事の投影に過ぎないのではないだろうかという感情。それらの曖昧な美こそ『眠り』の本質につながり、この映画の結末を一層儚く煌めかせているのである。



"わたしたちの生命は夢ではない。しかしそれはやがて、
 いやおうもなく、夢と一つになるだろう。
"
              -ノヴァーリス