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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Ernst Karel / "Heard Laboratories"

2010-07-07 20:25:26 | art music
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□ Ernst Karel / "Heard Laboratories"

♪ <script type="text/javascript" src="http://mediaplayer.yahoo.com/js"></script>Three

Release Date; June/2010
Label; and/OAR
Cat.No.; and/35
Format: 1xCD

>> http://www.and-oar.org/pop_and_35.html
>> http://ek.klingt.org/


>> tracklisting.

01. Laboratory for chemistry and materials science. / Organometallic chemistry laboratory, room one: chemistry. / Oragnometallic chemistry laboratory, room two: atomic layer deposition. / In hallway near photonics research laboratory.


02. Laboratory for chemistry and physics of climate and earth system change, part one. / Laboratory for chemistry of physics of climate and earth system change, part two. / Chemistry laboratory: refrigerated room. / Refrigerated room exit.


03. MRI (magnetic resonance imaging) laboratory: experiment with human subject. / Genetics laboratory: sterilizers and centrifuges. / Cognitive evolution laboratory: tamarin (monkey) homeroom cages; mics on a stand and recorder left unattended. / Center for Nanoscale Systems: empty nitrogen tanks being changed out; movement between hallway and storage area. / Cognitive evolution laboratory: tamarin cages being cleaned. / fMRI (functional magnetic resonance imaging) laboratory: experiment with human subject.


04. Chemistry laboratory. / Canter for Nanoscale Systems: scanning electron microscope, with vacuum pumps. / Hallway of the Laboratory for Integrated Science and Engineering while still under construction. / Chemistry laboratory: following a chemist.


05. Astrophysics laboratory, part one. / Photonics laboratory: canister being filled with liquid nitrogen to cool a high power laser. / Astrophysics laboratory, part two.


本作『Heard Laboratories』は、ハーバード大学の中の化学研究環境を録音した「音の民族誌」という観念のフィールドレコーディング作品。

ORTF方式でステレオ配置したSchoepsのカーディオイドマイクと、Sound Devicesのオーディオレコーダーが用いられている。ここに記録されている機器やデヴァイスや活動のサウンドは、化学研究の元となる物質的なプロセス(我々の非常に高度化されたテクノロジー社会の基盤を作る現在進行中の研究。)への関心を引き起こす。

人類の進歩の名に置き、そのような活動によって膨大な資源が費やされ消費されてきた。しかしそれらの活動や資源の消費の両方が隠され当たり前の事のように思われており、本作では、その隠されている背景を前面に持ってくるという意図がある。

内容的には、様々な研究所でのロケーションレコーディングを編集した、巨大でアブストラクトなサウンドスケープとなっており、ブックレットを読むとそれぞれの研究所がどんな研究に携わっているのかを知る事が出来る。
(from p*dis online shop ブックレット翻訳文より引用)



民族誌学という視点で捉えた、
最先端化学研究の表象としての記録音像。


エルンスト・カレルは、米・ハーバード大学のSensory Ethnography Lab (知覚民族誌学ラボ)及び、Film Study Centerの現マネージャーを務めると同時に、Jazzやインプロ、ロックからフィールド・レコーディングに至るまで、多岐に渡る経歴を持つミュージシャン/トランペッターである。

and/OARレーベルの取り扱う音源は、単に実験的手法を担った音楽ではなく、こういう「表象文化」としての音の側面にスポットをあてた楽曲が多く、常に興味をそそられる。そういった意味では、ちょうど一年前に紹介したIsobel Clouter & Rob Mullenderの『Myths of Origin』も卓越した作品であった。

>> lens,align.: "Myths of Origin - Sonic Ephemera from east Asia" Review.


エルンストは、同大学の研究者としての肩書きをそのまま利用して、各国の大学や映像・音楽イベントを巡り、国際的にライブパフォーマンス活動を展開している。

"Heard Laboratories"では、ハーバード大という世界有数の学府において、現代の文明基盤から近未来テクノロジーまでを日々アップデートさせている、先端科学の研究所『内部』の鳴動を写し取るという実験的試みが為されている。



地球システム化学、有機金属化学、流体光分析、医療実験、認知発達研究所の動物ケージ、窒素冷却缶内の高出力レーザー、天体物理学における対称性解明と光補足 etcetc...

これら最前線の研究項目に付随する実験環境のアルゴリズミックな『音』の関係性によって構築される、音響空間の連結性とロジック。その更に『内側』では、膨大な計算量を尽くした電気信号と、触媒の化学反応のダイナミクスが働いているのである。



また、それぞれの音源は要所要所で時空間的に切り離され、共時的に縫い合わされている。研究機器の駆動音やシステム・ノイズのレイヤーは、時に重なり干渉し合うウェーブの『うねり』となり、まるで一つの生物の体内にあるような重低音の鼓動を響かせたりもする。



文頭引用した紹介文にあるように、楽曲中に採用された音源それぞれについて、それを収録したラボについての研究内容や技術詳細が逐一示されている。

音源の中には、実験を指示する研究者の会話や物資の運搬、施設の建設音といったものまであるが、これらの配置された空間を移動するような録音処理も臨場感を増す効果を発揮している。


サウンドスケープ作品は数あれど、ここまで局所的にテーマライズされたものとして得られる芸術性、あるいは向思考性という観点において、他に類を見ない完成度を見た音響作品であると言わざるをえない。




Ernst Karelの他の活動については、恐らく同じフィールド・レコーディング作品と思われる"Swiss Mountain Transport Systems"が2011年にリリース予定。今年五月には、Annette Krebsとのコラボレーション作品で、2006年にベルリンでライブ・レコーディングされた"Falter 1-5"をCathnor Recordingsより発表している。



"Heard Laboratories"に関連しては、"Chicago Sound Map 2008"の委嘱を受けて2パートに分割されたパフォーマンスを行っている。それは"Heard Laboratories"の音源に対し、電子翻訳を通じて表音文字へと変換。それらをチェロやコントラバスといったクラシカルな楽器構成で再現していくというものだった。

このパフォーマンス音源はマルチトラック処理され、Olivia Blockによる作曲技法を加えてCD化されている。(Not Available for now)



ロードアイランド州プロヴィデンスのアートイベント"AS220"では、この作品の番外編にあたる"Outside Laboratories at Night"が発表され、現在ダウンロード視聴が可能となっている。

>> http://wanderingear.com/wel001.html


これらは文字通り、夜の大学キャンパス内において研究所『外部』の音環境をフィールド・レコーディングしたもの。AS220では、この音源を元にModular Analog Electronicsを用いた楽曲構成を施した演奏を披露している。