lens, align.

Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

abstract: Quantitative evaluation of Chaos. - 複雑性の定量化。Version/1.0.3

2007-07-14 15:21:52 | Science
柔軟なデジタル言語を使うことによって、今やわれわれは、アイデアのブロックをかつてないほど容易に識別し、操作することができる。アイデアのブロックが急増していることを考え併せると、イノベーションのペースはますます加速すると結論づけることができる。たとえばヘルスケアのような分野では、デジタル化の技術と生物学の知識(ゲノムのマップ)と強力なコンピューターの組み合わせによって、次々に大きな変化が起こることが予想される。

21世紀のライト兄弟は、アイデアの組み合わせによる解決策を見つけ出す為に、先例のない手法と能力を手に入れた。将来の富は、優れたアイデアを実行する人間ではなく、優れたアイデアを創造する人間に齎されるに違いない。

            -Michael J. Mauboussin.



私見では、この言説の意味する所にポジティブな指向性を認めることには疑問を覚えます。言語の発達、法律、世界の工業化、携帯電話、インターネットなどのツールが実現したイノベーションは、世界と個人個人の関係性の為す相の変化を齎しはしたが、同時にツールを取り巻くビジネスや世界観が創出され、既存の現実問題に絡みあい、より複雑化せざるを得なくなった。人の生活は便利になるが、それ故に忙しくなる。つまり、問題解決の為の手段のはずが、それ自体が新たな問題に成り代わる。物事が単純になるということはありえない。その為に共変位した相の関係性が、局所的、離在的には単純性をもたらしたとしても、その一定の範囲規模内に存在する関連事象に干渉しながら、一回り高次な構造となって再構成される環の中に世界はある。

(素粒子物理学における重力子や、さらに基本的な粒子といった未発見粒子の理論的予測、標準模型に付きまとう諸問題も、この一環を成す。)


→この『理論の符号化レベルの保存性』ということについては、実は過去のエントリーにおいても言及しています。

>> lens,align.:二重のコード (物理認識レベルの情報階層性)

(物事を理論的に解決、説明できるということが「事象の真性」を捉えることだとは限らない。超弦理論のような、現在有望視されている主流の理論科学ですら、帳尻合わせの試行錯誤による複雑化が著しい。(論理的適合性は向上していく)。また最近ネットでも活発に見られるようになった、文理統合を試みた「自己流」の多くの科学哲学も、恣意的、独断的な論理展開の過程で多くの解れを生じさせている。単に概念的に認識可能な任意の形式に変換できるということに過ぎない。)


情報の複雑化はエントロピー増大に例えられることがあります。それは、「情報」が単に抽象的な存在なのではなく、「情報」を生み、「情報」を認識する、人間を含めた物質層のダイナミクスまでを包合した振る舞いの一側面として捉えられるからです。だとしたら、情報のインフレーションには『非永続性』、あるいは『破綻(catastrophe)』があるかもしれないと危惧することもできるでしょう。人にとっての「情報が尽きる」とはつまり、人が社会性を維持出来なるまま収束させていく、ということと同義です。逆に、人間という種が抱えて来た問題の複雑化は、進化過程において必然性、あるいは必要性のあったもの。依って、人口の爆発的増殖と生存のプロセスにおいて正のフィードバックを持つ適応度地形の定性であったと言い換えられます。


※・・・また、人間と、その周辺に相互作用する情報受容体(準知性、他生物等)に共有される情報特性には、「距離・地形的な連続性が与える相関性」というパラメータが含まれている。あくまで我々が認識の根を下ろす次元、時間系において負荷が生じる情報についてしか言及することはできない。情報は「相対性」の産物に他ならないからです。→リャプノフ時間。


※・・・Bio-Informartics分野のイノベーションを取り上げると、象徴的、汎用的な問題解決の為のアルゴリズムが、非常に多岐に渡って細分化され、試行・最適化が為されている。たとえば昨年末には、「時間制約の厳しい大規模巡回セールスマン問題 (TSP)を対話的応答時間内に専門家レベルの最適度で解く」という題目に対して、"メタヒューリスティクスの並列タブーサーチにおけるプロセス間通信の効率化"、"多種ヒューリスティックスによるGA (Multi-world Intelligent Genetic Algorithm)"、"局所利己的遺伝子許容型GA (Locally Selfish-gene Tolerant type GA)"といった、様々な画期的な提案が公表された。

しかしながら、対象となる問題を分解、解析するルートをアーキテクトしたところで、今度はそのためのツールやインターフェースの一般化、もしくは理論から現実の事象、問題解決への応用に付随するマッチングや諸コストの問題が浮上する。『手段』は恒常的に再評価され、見直されるべきものである。


現状においては、事象の複雑性を「何が、何に対して、どの程度複雑なのか」と定量化する手段は一般化されていない。もしこの定量化が何らかの必要性を持って確立されるとしたら、ある複雑系を持つ『群』について、その規模依存性と時間発展における特有の振る舞いをデータ化して、一定の定性を解析、俯瞰できる可能性があり、ある集合の活性化の度合い、あるいは結晶化、破綻予測を、その集合の帰属する構造に照らして、相対的に量ることができる。カオスを計測するということは、同時にオーダーを計るということに繋がる。そして、この手法自体によって更に深刻化した社会の複雑性が、人を新たな問題と対峙させることも自明であろう。