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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Hans Zimmer / "THE DA VINCI CODE"

2006-05-25 02:16:56 | music3
Davinci

□ Hans Zimmer / "The Da Vinci Code"

Poisoned Chalice
The Citrine Cross
Salvete  Virgines
CheValiers De Sangreal

Release Date; 17/05/2006
Label; Decca
Cat.No.; 985 4041
Format:1xCD

1.Dies Mercurii I Martius
2.L'esprit Des Gabriel
3.The Paschal Spiral
4.Fructus Gravis
5.Quodis Arcana
6.Malleus Maleficarum
7.Salvete Virgines
8.Daniel's 9th Cipher
9.Poisoned Chalice
10.The Citrine Cross
11.Rose Of Arimathea
12.Beneath Alrischa
13.Chevaliers De Sangreal
14.Kyrie For The Magdalene

ハンス・ジマーによる映画『ダ・ヴィンチ・コード』のフィルムスコア。彼の音楽作品はほぼ全て聴いてきましたが、今作は間違いなく集大成と呼べる作品。ジマーといえば、ニューエイジ、シンセサイザーミュージックに傾倒していた初期作品から、90年代中期にかけてアフリカン、ワールドミュージック、そしてゴスペル的要素をとり込み始め、2000年前後にはオーケストラとエレクトロニクスの融合した、ドラマチックでメロディアスなスコアリングを確立。そういった作品群の中でも共通して、ワーグナー的書法(時にはグレツキ)で混声合唱を駆使した荘厳なトラックも得意としてきたジマーですが、「ダ・ヴィンチ・コード」では、やや合唱のダイナミックレンジを抑制し、ルネサンス風ポリフォニーといった古楽的アプローチから、重厚、そしてモダンなオーケストレーションと、ミステリアス・タッチにエフェクト処理された、アンビンエントでダークな視覚感覚を掻き立てる楽曲を創造。

目立った特定のモチーフの多用は避け、様々なフレーズが闇から闇へと流れていく。一つの楽曲中でも、モダン・クラシックのミュージアムとも言うべき、淡光に照らし出された静謐な空間美を構築。そこでもやはりワーグナーの影響が色濃く見られます。私自身、ワグネリアン(ワーグナー狂)を自称するくらいなので共感できるのですが。。"Dies Mercurii I Martius"、"CheValiers De Sangreal"(聖杯の騎士)で聴けるメイン・モチーフと、その変奏である"Daniel's 9th Cipher"の後半部は、あきらかにワーグナーの『ローエングリン』『パルジファル』を意識したもので、この2作が両方とも映画との共通のテーマとなっている『聖杯』に縁のあることは言うまでもありません。とりわけローエングリンのモチーフと、そのフレーズの高揚の仕方にあからさまな相関を感じます。また、それがこの作品でいう「聖杯」の重要な真実に関わっているのかもしれません。(騎士であるローエングリンは「聖杯王パルジファルの息子」を名乗ります。)

劇中では使われないという、ジマーのオリジナルスコア"Salvete Virgines"は、正にリ・ルネサンスと呼べそうな古典奏法による声楽曲。中世ルネサンス様式による作曲を多く手掛けているリチャード・ハーヴィが書き下ろした"Kyrie For The Magdalene"も一つのハイライトです。

製作面では、まず合唱指揮に右腕ニック・グレニー=スミスを起用。そして、今やハリウッド系でこの手の『混声合唱』+『オーケストラ』な作品にはだいたいその手が掛っているとされているGavyn Wright(元Penguin Cafe Orchestra)やIsobel Griffithsといったプロフェッショナルが率いるソリスト達も積極的に起用しています。

ある意味、キリスト教へのアンチ・テーゼを投げかけるこの作品にあって、信仰を礎とした教会合唱が主役を張るという、必然の逆説的、背徳的現象。それはあたかも、その神聖で侵されざる絶対領域において引き裂かれようとする悲鳴となって、作品世界に暗く渦巻く暗号の居城に不協和音を響かせている。そんな印象を覚えました。