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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

エターナル・サンシャイン

2005-10-31 01:42:58 | music
─幸せとは純粋な心。忘却に沈みゆく世界。穢れなき永遠の光。
祈れば届き、望めば断たれる

-Alexander Pope.

eternity原題"Eternal Sunshine of the Spotless Mind"(2004年アメリカ)

原案:ピエール・ビスマス
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルスティン・ダンスト、イライジャ・ウッド、マーク・ラファロ、トム・ウィルキンソン
☆第77回アカデミー賞脚本賞受賞

みなさんには、消し去りたい過去や思い出はありますか?
それを忘れることで、報われることと失われるものを天秤にかけることが出来るでしょうか。記憶の消去という行為は、受け流すことの出来ない過去を最も強く意識した、その人自身の業だとしたら?

例の如く映画内容の紹介は端折りますが、大筋は、主人公ジョエルが特殊な装置(恐らく創発する信号を特定してブロックするプロセスかもw)で恋人クレメンタインの記憶を消す過程で、夢の中の自分が気変りして…というもの。

原案はあの前衛アーティスト、ピエール・ビスマスということで、不条理で美しい、現実と夢の混ざり合った「記憶の世界」の描写も一見に価する。突然周囲の様子が変わっていたり、いちいち思いついたことに世界が短絡したり、あぁ、夢と気付いた夢の世界ってこんなんだよなーと共感を煽る。

記憶の中のクレメンタインがやけにしおらしいのも、ジョエルの恣意を反映したものかもしれませんが、思えば「記憶の世界」は転じて「過去、その時点の世界」の反映でもあって、その世界では二人は紛れもない恋人同士。それがいきなり「今からこの世界は消えてなくなりますよー」なんて通告されたら、その世界の二人は抵抗を試みることには違いないのかも。お互いの記憶というのは、お互いに与えたものなので、それほど勝手な操作ではなく、主観的な印象と経験則から成る二重表象である。この点は現実の世界においても変わらず、恋人同士なら尚更癒着は深い。そして奇蹟的にも、二人の夢の世界での抵抗は、現実の世界に深刻な干渉を齎し、結果として彼ら自身を救うことになります。

映像では記憶が消去されているというサインが画面のアチコチで示されて、(本のカヴァーが段々消えたり)間違い探し的な楽しみ方も出来ます。ジョン・ブライオンの空元気でシュールにあしらった室内楽風の音楽も雰囲気に噛み合っています。そしてやはり脚本。この映画、順を追っているように見えて、実は時系列がバラバラに展開されています。見抜くヒントも多く呈示されていますが、最後の方でストーリーの時間軸が循環するという仕掛けに感動。

想い出の記憶の旅を続けるにつれ、虚しい抵抗に気付いた二人のとった選択は、せめて想い出を楽しく過ごすことと、少しだけ記憶を改竄して「さよなら」を言ったことにすること。そして想い出は消え、残った感情だけが二人を結末へと導きます。この騒動も、二人の歩んで行く道の一部分に過ぎなかったということ。過去を忘れるのでも、過去に縋るのでもなく、「今」を受け入れる覚悟こそ、過去から射す陽光となるのではないでしょうか。

私としては、ジム・キャリーは未だに「エース・ベンチュラ」(←抱腹絶倒!)のイメージが強くてこういうシリアス演技はちょっと苦手なのだけど、ケイトのぶっ飛んだ存在感が巧く中和してくれていたと思うw最後の方になりましたが、脇を固める登場人物のサイドストーリーも抜かりなく造り込まれていて、むしろ群像劇を描いたシチュエーション・ドラマと捉えても良いかもしれない。イライジャ・ウッドは若気が至って胡散臭く(笑)キルスティン・ダンストのキュートだけど浮ついた演技も後を引く。劇中で一番"いいひと"を演じてしまうマーク・ラファロの哀愁と優しさも良い。

最も好きなシーンは、ミュージック・チャプターでは"Row Your Boat"となっている箇所。クレメンタインを消去予定の記憶図から、少年時代の記憶へと匿う時に、二人が童謡を歌い始めると部屋の中に雨が降り始めるのですが、この映像が本当に美しい。ラストシーンでは、二人が戯れる短かいカットのループ→ホワイトフェードが用いられますが、この意味するところは、記憶があろうとなかろうと、その一刻は永遠にその瞬間、その場所で輝いてるということだと、個人的には解釈してみたい。

"Special Features"には、25名からなる混声シンフォニック・バンドPolyphonic Spreeの"Light & Day"のPVも収録されています。映画の各シーンに唄う口を入れ込み合成したちょっとキモイ内容だけど、曲自体はすごく綺麗で哀愁のあるポップサウンド。なぜか劇中では聴けないのが残念。

□ Tunes of the Day

□ This Mortal Coil / "It'll end in tears"

Song to the Siren

Tim Buckleyの超超名曲のカヴァー。
4ADが主催したレーベルコンピレーションから。
当時Cocteau Twinsとして活動していたElizabeth Flazerと
Robin Guthrie。歌詞はオルフェウスが精霊サイレンを悼む内容。
"This Mortal Coil"の意味は『この世の煩わしさ』ですが、
実際にも、このアルバムを巡ってレーベルメイトと折り合いが
つかなかったりと問題山積みだったりして(笑)


□ Lost Witness

Did I Dream (Song to the Siren) (DJ Tiesto Remix)



… Enigma "15 years Later"のアートワーク、
自然と造型との共時性、印象の共感覚性を表現して、
あらゆるエレメントを音楽的共時性の中に集約する
Enigmaの特性を明示しているような印象を抱きますねー。