Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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これが神経毒性を持つアミロイドβの正体だ! -レカネマブはこれに結合して毒性を抑制するー

2023年05月26日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)の発症に異常なアミロイドβ(Aβ)が関与していることはもはや疑う余地はありませんが,Aβのどのような構造が疾患の発症に関わっているのかは依然として不明です.しかしAβの可溶性低分子は拡散性があり,特にシナプス毒性が強いと推測されてきました.一方,Aβプラーク(老人斑)の不溶性コアを構成する高分子Aβの長いフィブリル(繊維)は毒性が低いと考えられています.

拡散性をもつ可溶性Aβは,脳ホモジネートの水性抽出液の超遠心分離後の上清中凝集体として定義されますが,可溶性Aβとはいったい何なのか,そしてAD発症にどのように関与しているのか,よく分かっていません.かつその構造についてもほとんど分かっていませんでした.

今回,米国ハーバード大から,水性緩衝液により抽出したAD脳の超遠心上清中に拡散性・可溶性Aβフィブリルが予想外に存在することを示した研究が報告されました.Aβフィブリルは小さな可溶性オリゴマーではなく,むしろ多数のAβ分子からなる大きな集合体で,水溶液中に浮遊しているこれらのフィブリルは,超遠心分離によって沈殿させることができるわけです!このフィブリルはサンプルの調製中に形成されたものではなく,電子顕微鏡によるカウント数はAβ ELISAによる定量と正の相関を示しました.

クライオ電子顕微鏡を用いて,2名の孤発性AD患者脳に由来する水溶性Aβフィブリルの構造を調べたところ,1名はtype 1と名付けた構造が100%,もう1名はtype 1が77%,type 2が23%でした.これはサルコシル不溶性ホモジネートから得たのもの,すなわちアミロイドプラーク(老人班)のAβとほぼ同じ構造をしていました(図左).

さらにこの水性抽出液中のフィブリルは,ADにおける認知機能低下を抑制することが報告されているAβ抗体「レカネマブ」によって認識され(図右下),かつレカネマブは,この拡散性・可溶性Aβフィブリルによるシナプス毒性を抑制できることも確認されました.



以上より,AD脳の水性抽出液にはシナプス毒性フィブリルが豊富に存在すること,そして老人班と同じ構造をしていることが示されました.この結果はADにおけるAβ仮説をさらに肯定するもので,かつレカネマブの作用機序の一端を示したものと言えます.個人的には他の遺伝性ADでこの拡散性・可溶性Aβフィブリルはどうなっているのか,他のプロテイノパチーでも同様の拡散性・可溶性フィブリルが存在するのかなど関心があります.
Stern AM, et al. Abundant Aβ fibrils in ultracentrifugal supernatants of aqueous extracts from Alzheimer's disease brains. Neuron. 2023 May 2:S0896-6273(23)00269-6.

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