Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新生児低酸素脳症に対して初めて有効性が証明された治療とは?

2005年02月20日 | 脳血管障害
 分娩1000名につき1~2名程度の割合で,虚血性低酸素脳症が生じると言われているが,これまでその予後を改善する治療法はなかった.今回,新生児低酸素脳症に対する低体温療法のRCTが報告された(多国間・多施設共同研究).今回の方法は通常の全身冷却による冷却だけでなく,cooling capを用いて頭部冷却を行っている点が特徴的である(the CoolCap studyと命名).対象は脳波異常を伴う中等症から重度の新生児低酸素脳症234名(満期産児)で,無作為に低体温療法群(116名)と通常の治療群(118名)に割り付けた.低体温療法は出産後6時間以内に開始し,72時間継続,直腸温を34-35℃に保った(いわゆるmild hypothermia).臨床的評価は18ヶ月の時点で行い,intension to treatに解析した.さらに治療群は予め痙攣発作の有無や脳波異常の程度から重症群と中等症以下の群に分類し,低体温療法の効果を検討した.
 結果としては,解析に適さなかった16名を除いた218名において,通常の治療を行った110名中73名(66%)が死亡,ないし重度の障害を認めたのに対し,低体温療法群は108名中59名(55%)に死亡,ないし重度の障害を認めた(オッズ比0.61; 95%CI 0.34-1.09, p=0.1).脳波の重症度を考慮したロジスティック回帰モデルを用いて,ようやくオッズ比0.57; 95%CI 0.32-1.01, p=0.05となった.合併症に関しては両群間で差を認めなかった.脳波の重症度により2群に分けてサブ解析を行うと,低体温療法は重症群では効果を認めなかったものの(n=46, 1.8; 0.49-6.4, p=0.51),中等症以下の群では有意に有効であった(n=172, 0.42; 0.22-0.80, p=0.009,ARR 0.18).
 以上の結果は,低体温療法は重症例を除けば,低酸素脳症に対して明らかにneuroprotectiveな治療であることを示している.現在,本研究以外に3つのRCTが進行中で,来年にはメタ解析も可能になる.本治療は技術的には比較的容易であり,新生児低酸素脳症の発症率が高い発展途上国でも十分可能であることから,今後,新生児低酸素脳症の治療のスタンダードとなる可能性が高い.

Lancet 365; 663-670, 2005
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