Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳梗塞罹患者における肺炎に対するACE阻害剤の効果

2005年02月14日 | 脳血管障害
ACE阻害剤は血中substance-P濃度を上昇させることで,誤嚥性肺炎を減少させる可能性が指摘されている.しかし,他の降圧剤との比較を行ったデータはなく,さらに非アジア系人種では誤嚥性肺炎の予防効果がなかったとする報告もある(Am J Respir Crit Care Med 169; 1041-1045, 2005).今回,本邦より,ACE阻害剤の効果を他の降圧剤と比較した研究が報告された(多施設共同研究).
対象は脳梗塞発症後6ヶ月以上経過している患者で,1999年以降,35ヶ月以上,prospectiveに経過観察を行った1190名(!)とした(寝たきりの患者は除いている).これらの患者をACE阻害剤使用群,Ca拮抗剤使用群,利尿剤使用群,コントロール(高血圧なし)群の4群に分類し,肺炎の発症頻度を比較した.解析はlog-rank prosedureとCox’s proportional hazards modelを使用している.結果として,各群で年齢,性差,脳梗塞重症度(NIHSS),罹病期間に有意差はなし.肺炎合併頻度については,ACE阻害剤使用群2.8%(12/430),Ca拮抗剤使用群8.8%(36/409),利尿剤使用群8.3%(29/351),コントロール群8.8%(14/160)であった.ACE阻害剤使用群はコントロールと比較し,有意に発症頻度は低下していた(ハザード比0.30, 95%CI 0.14-0.66, p = 0.0013).
以上の結果は,ACE阻害剤は脳梗塞後患者における肺炎予防効果を改めて支持するものと言えよう.今後,高血圧を合併しない患者の治療や,ACE阻害剤以外に血中substance-P濃度を上昇させる方法はないのかなどの検討も必要のように思われる.

Neurology 64, 573-574, 2005

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抗MAG抗体による脳梗塞治療アプローチ

2005年02月13日 | 脳血管障害
中枢神経系の大部分の軸索は損傷後再生することができない.一方,末梢神経は比較的容易に再生が起こる.この再生能力の違いは何に由来するのかという問題は,現在重要な研究分野のひとつとなっている.これまでの研究から,中枢神経系における軸索再生を阻害する要因は,①成熟神経細胞自身の内因性の再生能力の低下,および②中枢神経系に存在する再生抑制因子の存在(gliosis,trophic factor欠乏など)という2点が考えられる.とくに後者のなかで,中枢ミエリン由来抑制因子として,Nogo, MAG(myelin-associated glycoprotein), OMgpといった複数の分子の存在が明らかとなった.またNogo, MAGと強い親和性を示す神経細胞側の因子としてNogo受容体も同定された.
今回,これら中枢ミエリン由来抑制因子のうち,MAGに対する抗体が脳梗塞の治療に対して使用できないかという検討がなされた.この研究の着目点はneuronの保護ではなく,oligodendrocyteの機能回復を通じて脳梗塞を治療しようという点である.具体的には市販されているマウス・モノクローナル抗MAG抗体を使用し,まずoligodendrocyte(初代培養)に対するグルタミン酸毒性(酸化ストレス)の系で,抗MAG抗体の保護作用を示している(同時にneuron初代培養には保護効果がないことを示している).つぎにラットsuture model(中大脳動脈の虚血再灌流モデル)にて,抗MAG抗体を虚血後1,24,72時間後に脳室にあらかじめ留置したカテーテルを通して投与し,その後,行動解析するとともに,7日目には脳梗塞面積を測定した.この結果,抗MAG抗体はコントロール(IgG投与群)と比較し,有意な麻痺の改善と,脳梗塞面積の縮小(p <0.01)と,抗MBP染色で評価したmyelin変性の減少(p < 0.05)をもたらした.さらに抗MAG抗体200micro-g(大量投与!)を虚血1ないし24時間後に全身投与し,その効果を検討したが,ここでも麻痺の改善と,脳梗塞面積の縮小を認めた.この論文はoligodendrocyteの保護が脳梗塞の治療として有用であることを示した興味深い論文である.ただし,全身投与が有効であったことについては脳室内投与と同じ機序で効いているのかは疑わしい(抗体大量投与による血管系への影響などの検証が必要). JCBFM 25; 98-107, 2005

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クロイツフェルト・ヤコブ病における末梢神経病変

2005年02月12日 | 感染症
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)には,原因不明の「孤発型(sCJD)」,乾燥硬膜移植などで感染する「医原型(dCJD)」,親から子へ遺伝する「遺伝型(GSS)」,および牛海綿状脳症に罹った牛由来製品を食べることで発症する「変異型(vCJD)」の4種類がある.通常,CJDは中枢神経を侵す疾患と考えられているが,「遺伝型」および「孤発型」CJDの一部で,fasciculationや腱反射消失,手袋靴下型感覚障害,筋萎縮などが報告され,末梢神経障害が存在する可能性が指摘されてきた.しかし従来の報告例では病理学的検索が十分行われておらず,とくにプリオン蛋白(PrP)の末梢神経における蓄積の有無や,末梢神経障害との関連についてはほとんど分かっていなかった.
今回,ヒトCJDにおける末梢神経のPrP蓄積についての研究が報告された.対象は8名のCJD患者で,内訳はsCJD 3名,dCJD 2名,GSS 3名(P102L mutation 1名,P105L mutation 2名)であった.sCJDのうちの1名は臨床的に末梢神経障害の合併を認めていた.末梢神経組織におけるPrPの存在を免疫染色,およびWestern blotにて検索した.結果として,sCJD 1名およびdCJD 2名においてdorsal root gangliaの神経細胞や,神経後根や末梢神経の神経線維内に顆粒状のPrP沈着を認めた.GSSや末梢神経障害を呈したsCJDの1例ではPrP沈着は認められなかった.Western blotではdCJD症例において,proteinase K抵抗性のPrPの存在が,dorsal root gangliaや末梢神経組織において確認された.
以上の結果は,sCJDやdCJDでは末梢神経組織にPrP沈着が生じうることを初めて示したものであるが,PrP沈着が末梢神経障害の出現に不可欠ではないことも同時に示しており,その発症メカニズムに関しては今後の検討が必要である.

Neurology 76; 325-329, 2005

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脳梗塞後「うつ」は予測できる

2005年02月11日 | 脳血管障害
 脳梗塞後に出現する「うつ」にはいくつかの機序が考えられる.①後遺症に悩み,気持ちが落ち込む(正常な反応),②脳梗塞が契機となりうつ病を発症する,③脳梗塞による脳の特定の部位の障害によりうつが出現する,である(しかし③についてはいまだ一定の見解は得られていない).いわゆる,脳梗塞後うつ(PSD; post-stroke depression)は報告によると20~65%の患者で出現するとされるが,患者の症状や予後に大きな影響を及ぼすため,あらかじめその合併を予測することは臨床的に有用である.
 今回,脳梗塞発症初日の精神的な症状と,発症後3ないし12ヵ月後のうつ状態の関連について検討した報告がスイスから報告された.著者らは発症初日の精神的な症状(具体的には,泣く,あからさまな悲しみ,無関心)が,脳病変の局在の違いを反映するものと考えたわけである.方法としては273名の脳梗塞初回発症者を対象とし,看護師が「泣く,あからさまな悲しみ,無関心」の有無について評価した.Barthel indexをdisability評価に使用し,3ないし12ヵ月後の診断はDSM-IVに従って行った.結果として,初日に「泣く」は19.8%,「あからさまな悲しみ」は50.5%,「無関心」は47.6%で認めた.「泣く」のなかには,病的泣き,感情過多,破局反応が含まれていた.「泣く」と「あからさまな悲しみ」の両者を呈する患者は有意にうつの経験を自覚していた(p <0.05).「泣く」の患者の58%,感情過多の63%,さらに破局反応の41%が1年以内にPSDとなった.多重ロジスティック回帰分析の結果,重度の機能障害(OR 4.31, 95%CI, 2.41-7.69),泣く(OR 2.66, 95%CI, 1.35-5.27),68歳以下(OR 2.32, 95%CI, 1.30-4.13)がPSDの予測因子であることが分かった(p < 0.05).以上の結果は,発症直後の症状がPSDの発症予測に有用であること,かつ無関心よりも「泣く」や「悲しみ」の反応がより有用であることを示している.また回帰分析の結果は,簡単に言えば,「若いうちに重症の脳梗塞になって泣きたいほど悲しい」ひとほど「うつ」になるという当たり前のことを証明したような感じもする.しかし,このような観点で脳梗塞を見直し,はやめに抗うつ薬などの使用を考え,脳梗塞後の治療やリハビリに役立てることは重要であろう. Neurology 64; 428-433, 2005

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脳梗塞 基礎研究の方向性

2005年02月10日 | 脳血管障害
 Exciting, Radical, Suicidal.これはStroke最新号に掲載されているreview articleの題名である.具体的に何を意味するかと言うと,興奮性細胞障害,フリーラジカル,アポトーシスのことであり,現在,脳梗塞(とくにpenumbra領域の細胞死)においてとくに重要と考えられている3つの病態機序である.MGHのドクターらによるこのreviewでは,上記3つをテーマとした論文数の推移(1970年代から現在)を調べているが,興奮性細胞障害・フリーラジカルは1990年をピークとして,その後,減少傾向にあり,アポトーシスは1993年から現在に至るまで増加傾向という結果になった.そして,これらのうち2つ以上の領域にまたがる研究はきわめて少ないことを指摘している.一方,脳梗塞においてどの細胞の「細胞死」に注目した論文であるかという観点で見てみると,neuronが圧倒的に多く,かなり減ってglia,さらに減って血管内皮細胞という結果であった.
 著者らの言いたいことは,神経保護のターゲットとなるpenumbraに起きる細胞死は,単純にひとつのカスケード(例えば上記3つのうちのひとつ)によって支配されるのではなく,かつそのkey playerもneuronだけではないということである.細胞死にはそれを引き起こすいくつものカスケードのcross-talkがあり,さらに細胞同士の間でもcross-talkがある.おそらく,いずれかひとつのカスケードをブロックしただけでは十分な治療効果は得られず,neuronal survivalのみに効果をもつ治療だけでは不十分ということになるのかもしれない.今後の方向性として,複数の細胞死カスケードを同時にブロックし,かつ複数の細胞をターゲットとした治療の開発を目指すべき,というわけである.そのためには実験モデルの見直しなども必要だが(例えば,現在,頻用されるげっ歯類は大脳白質がきわめて少なく,gliaの研究に向かないなど),いずれにしても現在の脳梗塞の基礎研究の多くが臨床へのtranslationができていない状況にあり(t-PAと低体温を除く),研究の方向性の見直しは必要なのだろう.

Stroke 36; 189-192, 2005

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ALS レトロウイルス感染説の新たな根拠

2005年02月09日 | 運動ニューロン疾患
 昔からALSがウイルス感染により発症するという説はあるが,近年,レトロウイルス感染がその発症に関与しているのではないかという仮説がある.具体的にはマウスにおけるレトロウイルス感染が運動ニューロン病様症状を起こすとか,HTLV-IやHIVにおいてもALS-like syndromeが生じることが挙げられる(しかし既知の4つのレトロウイルス感染;HIV-1, HIV-2, HTLV-I, HTLV-IIは否定されている).
レトロウイルスは逆転写酵素(Reverse transcriptase; RT. RNAからDNAを合成する)を持つ一本鎖RNAウイルスであるが,今回,イギリスとMGHの共同研究で,ALS患者血清におけるRT活性が調べられた.方法は通常のRT assayの100万倍の感度を持つというproduct-enhanced RT assay(PERT)を用いた.対象は30名の孤発性ALS患者(アメリカ人),その血族14名,血のつながらない配偶者16名,そして28名のコントロールである.結果としてRT活性はコントロールと比較しALS患者で高率に確認された(47% vs 18%, p=0.008).配偶者では13%でコントロールとほぼ同様であった.しかし驚くべきことに血族では43%と高率でALS患者群とほぼ同程度であった.以上の結果より,レトロウイルスの起源は外来性に未知のレトロウイルスが感染したものではなく,もともと遺伝的に伝えられる内在性のものである可能性が示唆する(すなわちヒト染色体に組み込まれているということ).
しかし,この仮説が正しければALSはより遺伝性疾患の様相を呈してくるわけであり,発症にはプラスαの要因を考えなければならないのであろう.

Neurology 64; 454-458, 2005

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原発性全身性ジストニアに対する両側淡蒼球深部脳刺激療法のエビデンス

2005年02月08日 | その他の変性疾患
重症型のジストニアは,薬物療法に対する反応が不良である.近年,DBSの有効性が報告されているが,その評価はオープン試験に限られている.今回,フランスより原発性全身性ジストニアに対するDBSの効果が報告された.方法は,多施設共同のprospective controlled studyで,原発性全身性ジストニア患者 22 例(頭部外傷,薬剤性など二次性ジストニアは含まない.うち7名でDYT1遺伝子変異あり)において両側淡蒼球刺激の有効性と安全性を検討した.ジストニアの重症度は,術前および術後 3,6,12 ヵ月の時点で,Burke-Fahn-Marsden ジストニア評価スケールの運動サブスコアと障害サブスコア(点数はそれぞれ0~120,0~30;スコアが高いほど障害大)を用いた.通常,神経刺激中に評価を行ったが,3 ヵ月の時点では,刺激下と非刺激下において評価を行った.また,治療前および 12 ヵ月の時点で,QOL,認知,気分についても評価を行った.結果としては, ジストニア運動スコアは,術前46.3±21.3から12 ヵ月の時点で21.0±14.1 に改善(p <0.001).障害スコアは術前11.6±5.5から12ヵ月の時点で6.5±4.9に改善(p < 0.001).気分や認知については有意な変化はなし.3ヵ月の時点で,神経刺激の有無で比較を行った結果は,刺激ありの場合,ジストニア運動スコアが有意に良好であった(24.6±17.7 vs 34.6±12.3,p < 0.001).ジストニアの特徴やDYT1遺伝子変異を含め,治療効果の予測因子は分からなかった. 以上の結果は原発性全身性ジストニア患者に対する両側淡蒼球内節刺激療法の有効性と安全性を支持するものである.

N Engl J Med 2005;352: 459-467
Comments (3)
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進行期パーキンソン病に対する十二指腸からのL-DOPA投与法

2005年02月07日 | パーキンソン病
 進行期パーキンソン病に対しては,抗パーキンソン剤の多剤併用療法やDBSが行われている.今回,新たな治療法である十二指腸からのL-DOPA投与の効果がSwedenから報告された.対象は24名の進行期パーキンソン病患者(症状の日内変動とdyskinesiaを認める)で,従来の抗パ剤の多剤併用による治療と,十二指腸からのL-DOPA投与を3週間ずつ行い比較している(randomized cross-over study;この治療は盲検化しにくく,かつplaceboを使うわけにも行かないためこの方法を選択している).十二指腸からのL-DOPA投与は,nasoduodenal tubeを用い,L-DOPA/carbidopa合剤ゲル(混合比4:1)(商品名Duodopa.日本未発売)を起床後から持続注入するというもの(3週間なのでnasoduodenal tubeを使用しているが,長期に行いたいときには胃瘻から十二指腸にtubeを留置することになる).夜間のみL-DOPA錠の内服を認めている.評価はblindで行い,treatment response scale(On-off, dyskinesiaを評価),UPDRS,QOL評価(Questionnaire-39,15D Quality of Life Instrument)等を行った.結果として,Onに該当すると考えられる時間が有意に増加し(p<0.01),dyskinesiaは増加しなかった.UPDRSは53から35へ低下し(p<0.05),ふたつのQOL評価でも有意な改善を認めた(p<0.01).副作用については従来の治療法との間に差を認めなかった(nasoduodenal tubeの使用に伴う副作用も含まれているので,実際にはもっと副作用が減る可能性がある).この治療法は医療費の面から考えるとDBSよりも行いやすく,今後,進行期パーキンソン病の治療法の重要な選択肢の一つとなる可能性がある.しかし,今回の検討は3週間での評価であり,長期投与に伴う副作用が経口の場合と差があるのかなど検討すべき点は少なくない. Neurology 64;216-223, 2005 

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ステロイドパルス療法は長期記憶に影響を及ぼす

2005年02月06日 | その他
動物実験レベルではステロイドが認知機能に障害を及ぼすことが知られている.これは海馬やprefrontal cortexに存在するglucocorticoid受容体を介したステロイドの神経毒性が,海馬に影響を及ぼすためと推測されている.実際にヒトにおいてもステロイドの大量投与が可逆性の長期記憶障害を引き起こすという報告があるが,その詳細や,短期記憶・注意力等に与える影響については不明である.
今回,ドイツよりステロイドパルス療法が認知機能に及ぼす影響が報告された.対象は多発性硬化症21名,急速視神経炎9名,健常対照33名とし,ステロイド使用量はmethylpredonisolone 500mg 連続5日間とした(いわゆるセミパルス).検査としてはRey Auditory Verbal Learning Test (RAVLT)のlearning performance,immediate recall,delayed recall,さらにTest for antinational performance (TAP)のalertness,divided attention,working memoryを行った.検査は治療前,治療終了時,終了から5日目に行った.この結果,ステロイド使用群で,唯一,RAVLTのdelayed recallの点数の低下が認められ,治療終了5日目にはもとのレベルに回復していた.
以上の結果は,やはりステロイドが長期記憶の障害を引き起こすことを示唆するものであるが,その持続時間はmethylpredonisolone 500mgで5日以内と短く,臨床的にはあまり問題にはならないのかもしれない.通常,我々が良く行う1000mg,3日間の影響も知りたいものである.

Neurology 64; 3335-337, 2005

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SLEにおける認知機能障害の予後因子

2005年02月04日 | その他
SLEでは認知機能障害がしばしば認められ,そのパターンから皮質下性の障害が示唆されている.認知機能障害とステロイド内服積算量の関係については報告によって見解が異なっている.また血清学的に,抗カルジオリピン抗体の上昇は認知機能低下と関連することがすでに報告されている.また認知機能障害を防止する治療法については不明である.
今回,SLEにおける認知機能障害の予後因子の検討がアメリカより報告された.対象は123名のSLEで(うち116名が女性),最低3年の経過観察が行われた.4ヶ月ごとにfollow upを行い,認知機能と各種抗体価を調べた.結果として,血管病変を来たす危険因子の頻度は以下の通りであった;高脂血症(17.1%),糖尿病(21.1%),高血圧(48.0%).治療はaspirin(21.1%),prednisone(65.0%),NSAID(42.3%),hydroxychloroquine(58.5%;国内未発売の抗リウマチ薬)が行われていた.常時,陽性であった抗体としては抗リン脂質抗体(54%),抗CL beta GP1(73%),抗ribosomal P(17%)であった.認知機能低下に有意に関与する因子としては,①抗リン脂質抗体陽性,②prednisoneの恒常的な内服,③糖尿病,④高い「うつ」スコア,⑤教育レベルが低い,であった.②については,prednisone自体が認知機能に悪影響を及ぼしている可能性が考えられるが,prednisoneの恒常的な内服自体,SLEが重篤であることを示唆しており,原疾患の活動性を反映している可能性も否定できない.また,aspirin内服は認知機能障害の改善をもたらし,とくにその効果は血管病変を来たす危険因子を有する高年齢層(48歳以上)において明らかであった.
今後,vascular risk factorをもつ(とくに高齢の)SLE症例に対しては,積極的にaspirin内服を検討すべきかもしれない.

Neurology 64; 297-303, 2005

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