Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月3日)  

2022年05月03日 | COVID-19
今回のキーワードは,COVID-19ワクチン接種後の頭痛に関するメタ解析,原因不明の水頭症の原因としてCOVID-19を考える,けいれん発作や白質異常所見を呈する新生児ではCOVID-19を考慮する,英国でlong COVIDに対する疾病負荷の包括的評価スケールSBQ™-LCを用いた研究が進行中である,long COVIDが脳障害をもたらす3つの仮説,long COVIDでは脳の免疫活性化(=炎症)ではなく異常な抑制が起きている可能性がある,です.

まず臨床的に有用な情報として,ワクチン接種後の頭痛のメタ解析が報告されています.また2,3番めの報告は,COVID-19の新たな神経合併症についてですが,とくに新生児症例の画像は衝撃的です.これほどの変化は生じなくても影響がないとは言い切れず,妊娠中の感染を極力防ぐ必要性を感じます.最後の3報告はLong COVID研究についてです.とくに英国のthe TLC studyの計画には圧倒されます.課題解決のためにグランドデザインを描けることに憧憬の念を抱きます.

◆COVID-19ワクチン接種後の頭痛に関するメタ解析.
COVID-19ワクチンは入院や死亡のリスク低減という大きなメリットがあるにもかかわらず,接種後に有害事象が現れることがある.その中でも頭痛は最も多いものの一つであるが,その発生率や特徴については十分わかっていない.今回,デンマークから84論文,157万人が対象となったメタ解析論文が報告された(94%がファイザーまたはアストラゼネカワクチンを接種されていた).結果として,頭痛は3番目に多い副作用であり,異質性はあるものの,1回目接種後22%,2回目接種後29%であった(偽薬接種群は10~12%であった).異なるワクチン間で頭痛出現率に相違はなかったことから,頭痛はワクチンの種類ごとの反応ではなく,全身的な免疫反応による二次的なものであると考えられた.頭痛の特徴については明らかにできなかったが,24時間以内に発症し,約3分の1の症例で片頭痛に似た拍動性頭痛を呈し,音や光への過敏があり,40~60%で活動時に増悪するとの記述もあった.また高齢者ではファイザーワクチン初回接種後の頭痛の有病率が低かった.多くの場合,頭痛に治療薬が使用され,最も効果的と考えられたのはアセチルサリチル酸であった.
J Headache Pain. 2022 Mar 31;23(1):41.(doi.org/10.1186/s10194-022-01400-4)

◆原因不明の水頭症の原因としてCOVID-19を考える.
COVID-19感染は,原因不明の水頭症の原因になりうる.つまり感染後水頭症は,COVID-19感染の重篤な合併症である.米国からの報告で,36歳男性がCOVID-19に感染し,2週間以上にわたって嘔気,嘔吐,霧視を伴う慢性進行性の頭痛を呈した.神経学的には両側乳頭浮腫と引きずり歩行を認めた.頭部CTではすべての脳室が拡大し,第4脳室に顕著であった(図1).シネMRIでは第4脳室の脳脊髄液乱流を認めた.後頭部開頭術を施行し,くも膜下にwebを認め,マイクロサージャリーにより摘出した.脳脊髄液流を回復させた.本症例では,直近のCOVID-19感染と感染前の画像診断が正常であったことから,COVID-19が水頭症の原因として有力である.原因不明の水頭症の鑑別診断にCOVID-19を加える必要がある.
Neurology. April 21, 2022(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001174)



◆けいれん発作や白質異常所見を呈する新生児ではCOVID-19を考慮する.
新生児におけるCOVID-19の神経合併症はまれで,十分な知見が得られていない.ブラジルから,鼻咽頭ぬぐい液PCRが持続的に陽性で,大脳白質病変を伴う発熱を伴わないけいれん発作を呈した生後3日の新生児が報告された.頭部MRIでは,脳室周囲白質,皮質下白質,脳梁膨大部に異常信号を認めた(図2).母親に感染歴が認められた.病態は血栓塞栓により虚血より,免疫介在性の障害が疑われた.けいれん発作や白質異常所見を呈する新生児ではCOVID-19を考慮する必要がある.
Neurol Clin Pract. April 21, 2022(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001173)



◆英国でlong COVIDに対する疾病負荷の包括的評価スケールSBQ™-LCを用いた研究が進行中である.
Long COVIDに対する治療のエビデンスの確立が求められている.英国からlong COVIDの疾病負荷に関する患者によるアウトカム指標としてSymptom-Burden Questionnaire for Long COVID(SBQ™-LC)がBMJ誌に報告された.草案作成後,成人患者274人を対象としたフィールドテストを行い,内容の妥当性の確認を行って完成させた.Rasch分析(順序尺度を間隔尺度に変換する方法)によって作成されたSBQ™-LCは,17の独立した尺度から構成された.回答者は,過去7日間の疾病負荷を,二項対立型または4段階回答を用いて評価する.各尺度は,異なる症状領域をカバーしており,線形スコア(0〜100)に変換可能である.スコアが高いほど,より高い疾病負荷を表す.このSBQ™-LCの作成は,英国のlong COVIDへのプロジェクトであるthe TLC studyの第1ステップである.このあと,代表するコホートの確立→症状のクラスターの把握→潜在的な治療の特定→支援を提供するプラットフォームの開発と進む(図3).BMJ opne 誌に非入院患者4000人と対照者1000人を1年間検討し,免疫学的パラメータとアクチグラフによるクラスター識別と,既存の治療介入に関する既存のエビデンスを評価する第2~4ステップに関する研究も最近報告されている.
BMJ. 2022 Apr 27;377:e070230. doi: 10.1136/bmj-2022-070230.
BMJ Open. 2022 Apr 26;12(4):e060413(doi.org/10.1136/bmjopen-2021-060413)



◆long COVIDが脳障害をもたらす3つの仮説.
Science誌が,COVID-19が脳に与える影響について,複数のエキスパートにインタビューした内容が動画として公開されている.Yale大学医学部免疫生物学部門教授のAkiko Iwasaki先生は,long COVIDが脳の障害をもたらす仮説として次の3つを紹介している(図4).
①SARS-CoV-2の脳の一部の細胞への直接感染
②自己免疫による脳の障害(一度活性化した細胞を脱活性化することは難しいため,long COVIDの多彩で長期の症状を説明できる)
③肺などの脳から離れた臓器における炎症が脳内の細胞に刺激を与える
以上の3つが,複数関与している可能性も考えられる.またSNSを用いた調査で,ワクチン接種後に40%が改善,45%が不変,15%が増悪したことも紹介され,ワクチン接種後に改善した症例における機序がわかれば治療の緒になる可能性があるとも述べている.
Science. April 15, 2022(doi.org/10.1126/science.abq5581)



◆Long COVIDでは脳の免疫活性化(=炎症)ではなく異常な抑制が起きている可能性がある.
Long COVIDの病態として脳の持続的炎症が関与する可能性がある.このためUCLAのチームは白血球表面に存在し,ケモカインの受容体として機能して免疫系に関与する膜タンパクCCR5(C-Cケモカイン・レセプター5)を標的とするモノクローナル抗体レロンリマブの効果を検討する小規模な探索的試験を行った.対象はlong COVIDの55人とし,無作為に実薬群と偽薬群に割付け,8週間にわたって24の症状(ブレインフォグ,嗅覚・味覚障害,筋・関節痛など)の変化を調査した.著者らは抗体でCCR5を阻害すれば,感染後の過剰な免疫系の活動が弱まると考えていた.しかし実際には,実薬群においてT細胞上のCCR5が治療前に低く(=免疫系が活性化していない),かつ症状が改善した症例で治療後にCCR5が上昇していた.つまり一部の患者では,持続的な炎症(=免疫亢進)ではなく,免疫の異常な抑制が起きていて,レロンリマブによって正常化するという予期せぬ病態が存在する可能性を示唆する.つまりレロンリマブは,T細胞のCCR5発現を安定化し,他の免疫受容体や機能のアップレギュレーションに導くことで治療につながるという新しい仮説が考えられた.
Clinical Infectious Diseases. April 22, 2022(doi.org/10.1093/cid/ciac226)




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