Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月17日)★ウイルスは嗅球から感染し,嗅覚伝導路を通って眼窩前頭皮質まで到達しうる!

2022年10月17日 | COVID-19
今回のキーワードは,成人の急性期神経筋合併症では脳卒中が多く,小児では中枢神経感染症とけいれん発作が多い,COVID-19に罹患した人は感染1年後の神経学的後遺症およびアルツハイマー病のリスクはハザード比1.42および2.03と高い,健康の回復と労働能力の低下に最も影響した後遺症は疲労と神経認知障害である,感染から1年後に不調の人のほとんどは18ヶ月後でも回復しない,ウイルスは嗅覚伝導路を伝播し,高齢者では眼窩前頭皮質まで進展して認知機能障害をきたす,です.

ひとつめの論文は急性期の神経筋合併症についてですが,それ以外はlong COVIDです.COVID-19は認知機能障害(とくにアルツハイマー病)の危険因子になるという根拠がさらに蓄積されています.疲労と認知機能障害はその後の人生に大きな影響を及ぼすこと,さらに18ヶ月後まで経過を追っても回復が難しく不可逆的であることが示されました.また軽症患者でも眼窩前頭皮質の萎縮がみられ,さらに同部位にSARS-CoV-2ウイルスが到達しアストロサイトに感染することが8月に報告されていましたが(https://bit.ly/3TrYNkg),今回,マカクザルを用いた感染実験で高解像度顕微鏡を使用すると,嗅球からウイルスが感染し,嗅覚伝導路を通って,老齢サルの場合は眼窩前頭皮質まで到達してしまうことが示されました.一時,中枢神経へのウイルス感染は稀と考えられてきましたが,ここに来て形勢逆転,やはり一部の患者では,嗅球を介する経路で感染が脳に生じ認知症を来しているようです.パンデミック当初に報告されていた嗅覚伝導路に見事に異常信号を呈した脳炎症例は重要な意味があったのだと思いました(Neurology 2021, 96; e645-e646).



◆成人の急性期神経筋合併症では脳卒中が多く,小児では中枢神経感染症とけいれん発作が多い
COVID-19入院患者における神経筋合併症の有病率・合併症を明らかにし,成人と小児の間の違いを確認することを目的とした多施設国際研究が報告された.2020年1月30日から2021年5月25日まで,世界1507施設のコホートを用いて前向き観察研究を実施した.対象はCOVID-19で入院し,神経筋症状および合併症について評価された成人15万8267人,小児2972人である.成人および小児において,最も頻度の高かったものは,疲労(成人:37.4%,小児:20.4%),意識障害(20.9%,6.8%),筋痛(16.9%,7.6%),味覚障害(7.4%,1.9%),嗅覚障害(6.0%,2.2%),けいれん(1.1%,5.2%)であった.成人の場合,最も頻度の高い院内神経筋合併症は,脳卒中(1.5%),けいれん発作(1%),中枢神経感染症=脳炎・脳症(0.2%)であった.小児では,けいれん発作は ICU でより高頻度に認められた(7.1% 対 2.3%,P<0.001).特徴的な所見として,脳卒中の有病率は年齢が上がるにつれて増加し,中枢神経感染症とけいれん発作は減少した(図1).脳卒中は,パンデミック期間中,経時的に劇的に減少した.意識障害は,中枢神経感染症,けいれん発作,脳卒中と関連していた.すべての院内神経筋合併症は死亡のオッズの上昇と関連していた.死亡の可能性は年齢が上がるにつれて上昇し,25歳以降で顕著であった.
Brain. 2022 Sep 10:awac332.(doi.org/10.1093/brain/awac332)



◆COVID-19に罹患した人は感染1年後の神経学的後遺症およびアルツハイマー病のリスクはハザード比1.42および2.03と高い
米国から,急性期から1年後の神経学的後遺症の包括的評価を行なった研究が報告された.米国退役軍人省の全国医療データベースを用いて,COVID-19患者15万4068人,健常対照563万8795人,歴史的対照585万9621人のコホートを構築し,急性感染後12カ月時点での神経学的後遺症の発生リスクと疾病負担(burden)の推定を行っている.その結果,急性期以降では,虚血性・出血性脳卒中,認知・記憶障害,末梢神経障害,頭痛やけいれん発作,運動異常症,精神障害,筋骨格系障害,感覚障害,ギランバレー症候群,脳炎・脳症などの一連の神経学的後遺症のリスクが増加していた.12ヵ月後におけるすべての神経学的後遺症のハザード比は1.42(95%信頼区間1.38~1.47),疾病負担は1000人あたり70.69(63.54~78.01)と推定された(図2).記憶障害はハザード比1.77,アルツハイマー病は2.03であった.また急性期に入院を必要としなかった人においても,リスクと疾病負担は増加していた.研究の限界としては,ほとんどが白人男性からなるコホートであることが挙げられる.
Nat Med. 2022 Sep 22.(doi.org/10.1038/s41591-022-02001-z)



◆健康の回復と労働能力の低下に最も影響した後遺症は疲労と神経認知障害である
南ドイツから,感染から6~12ヵ月後の後遺症とその危険因子を検討した横断的研究が報告された.対象は2020年10月から2021年3月までに感染した18~65歳の成人1万1710 名(女性58.8%,44.1 歳,入院3.6%,追跡期間 8.5ヶ月)とした.結果は,疲労(頻度37.2%)と神経認知障害(31.3%)は,健康回復と労働能力の低下に最も影響した(図3).胸部症状,不安・うつ,頭痛・めまいおよび疼痛症候群も労働能力に影響した.PASC (post-acute sequelae of SARS-CoV-2)を呈したのは少なくとも対象の28.5%,感染者の6.5%であった.以上より,感染から6~12ヵ月後に,軽度感染後の若年・中年成人においても,自己申告による後遺症,特に疲労と神経認知障害がかなりの負担となっており,健康および労働能力に大きな影響があることが示唆される.
BMJ 2022;379:e071050. Oct 13, 2022(doi.org/10.1136/bmj-2022-071050)



◆感染から1年後に不調の人のほとんどは18ヶ月後でも回復しない
スコットランドから,感染者3万3281人と未感染者6万2957人の集団コホートを,6,12,18カ月間,追跡調査した研究が報告された.3万1486人の有症状者のうち,1856人(6%)は回復せず,1万3350人(42%)は部分的に回復したのみであった.感染後6か月と12か月時点での記録がある3744人に限定すると,回復なし,部分回復,完全下腹は6か月時点ではそれぞれ8%,47%,45%,12か月時点では8%,46%,46%でほとんど変化がなかった.同様に感染後12か月と18か月時点での記録がある197人に限定すると,回復なし,部分回復,完全下腹は12か月時点ではそれぞれ11%,51%,39%,18か月時点では11%,51%,38%でほとんど変化がなかった.回復しないことの危険因子は,入院(=重症度),高齢,女性,貧困,既往症(呼吸器疾患,うつ病,複数疾病)と関連していた.また感染前のワクチン接種は,7 つの症状のリスク低減と関連していた.過去の症候性感染は,QOLの低下,日常生活全般にわたる障害,24種類の持続的症状(息切れ:オッズ比 3.43,動悸2.51,胸痛2.09,混迷2.92など)と関連があった.無症候性感染は転帰不良と関連していなかった.一方,無症候性感染と後遺症やその他の転帰不良(生活の支障,入院,救急受診,死亡)の関連は認められなかった.
Nat Commun 13, 5663 (2022).(doi.org/10.1038/s41467-022-33415-5)

◆ウイルスは嗅覚伝導路を伝播し,高齢者では眼窩前頭皮質まで進展して認知機能障害をきたす
SARS-CoV-2ウイルスが脳に直接感染するのか,それとも末梢で引き起こされる全身性の炎症反応からCNSの後遺症が生じるのかについてはよく分かっていない.米国から高解像度顕微鏡を用いて,SARS-CoV-2ウイルスが脳に到達するかどうか,また,ウイルスの神経向性(neurotropism)が加齢によってどのように影響されるかを,非ヒト霊長類モデル(マカクザル)にて検討した研究が報告された.
結果としては,感染後7日目にSARS-CoV-2ウイルスが嗅覚皮質および相互接続領域に検出された. Spike (Spk) タンパク質と,SARS-CoV-2ウイルスの複製サイクルの中間分子で生産的感染のマーカーであるdsRNA)を検出した(図4).これらは嗅球,梨状皮質,内嗅野を含む一次嗅覚皮質の複数の領域で認められた.しかし老化した動物では,これらに加えて,二次嗅覚皮質の一部である眼窩前頭皮質でも確認された.この分布パターンは,他のコロナウイルスで以前報告された侵入メカニズムである,嗅覚上皮からのウイルスの軸索拡散と一致する.そして,ウイルス感染の最初の標的は神経細胞で,強固な神経炎症と血管の破綻を伴っていた.またこれらの病理変化は老齢の糖尿病動物で顕著となった.
以上より,非ヒト霊長類モデルの検討で,SARS-CoV-2ウイルスの伝播経路として嗅覚伝導路が考えられ,高齢者では二次嗅覚領域の眼窩前頭皮質まで進展し,認知機能障害をきたす可能性がある.
Cell Reports. Oct 12, 2022(doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111573)




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