Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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肥満防止のための第3の方法 -寝室の照明とテレビを消そう-

2019年06月20日 | 睡眠に伴う疾患
肥満防止の2大生活指導は「ダイエットと適度の運動」であるが,第3の方法が加わることになりそうだ.それは「寝室の照明やテレビを消して,暗くして眠る」ということである!どうしてこんな話になったかというと,(1)肥満が年々増加し,パンデミック状態になったと言われる米国での検討で,肥満の増加と夜間の人工光の曝露時間が相関するという指摘があること,(2)動物実験で,睡眠中の人工光曝露により,睡眠ホルモン・メラトニンの分泌や時計遺伝子の発現が抑制され,それに引き続いて睡眠の分断と概日リズム(体内時計)障害が生じ,それらが摂食行動の増加をもたらし肥満を生じさせることが観察されたことが背景にある.睡眠医学が好きな私はこれらの知見を承知しており,寝室の照明やテレビをつけて寝ることが好きな家族に「消したほうがいいよ」と注意してはしばしば文句を言われ,ケンカの種になっていた.

さて話は戻るが,夜間の人工光が実際にヒトにおいても肥満をもたらすかについてはよく分かっていなかった.これまでの研究は,夜間に高レベルの光に曝露する夜勤労働者を対象としたものが多く,一般人に当てはめられるかは不明で,一般人を対象とした大規模な調査研究が待たれていた.今回,JAMA Internal Medicine誌に掲載された論文は,米国女性4万4000人近くを対象とした調査Sister Study(2003年~2009年)を解析したもので,調査参加者には調査開始時とその5年後に追跡調査を実施したものであり信憑性が高い.

対象はアメリカ人ないしプエルトリコ人の35~74歳の女性で,調査開始時にがんや心疾患の既往がなく,交替勤務者や妊婦ではない43722名(55.4±8.9歳)である.夜間の人工光の光源は,小型の常夜灯や時計付きラジオ,窓から差し込む街灯の光,テレビ,室内用照明などさまざまであったため,対象を①曝露なし(n = 7807),②部屋のなかでの小さな照明 (n = 17320),③部屋の外の窓から差し込む照明 (n = 13471),④室内用照明ないしテレビ(n = 5124)の4群に分類した.肥満の定義は,全身性肥満はbody mass index [BMI] ≧30.0とし,中心性肥満は腹囲≧88 cm,ウェスト・ヒップ比≧0.85,もしくはウエスト・身長比≧0.5とした.またBMI≧25をoverweight(太り過ぎ)と定義した.

さて結果であるが,調査開始時において,4群の比較で,睡眠中の光曝露が多いほど肥満の有病率が高くなることが分かった.BMIでは相対リスク(PR)が1.03(95%CI, 1.02-1.03),腹囲ではPR 1.12(95%CI,1.09-1.16), ウェスト・ヒップ比ではPR1.04(95%CI, 1.00-1.08), そしてウエスト・身長比ではPR 1.07(95%CI, 1.04-1.09)であった.交絡因子(睡眠時間,食事,カフェイン,アルコール,身体活動など)の調整後もいずれも有意な相関を示した.5年間の長期的な経過観察でも,光への曝露は肥満に相関した(RR 1.19(95%CI,1.06-1.34)).

④室内用照明ないしテレビ群は,①曝露なし群と比較すると,5㎏以上の体重増加はRR 1.17(95%CI, 1.08-1.27; P < .001),つまり体重が5 kg以上増加する確率が17%高く,BMIでも10%以上の増加がRR 1.13(95%CI, 1.02-1.26; P = 0.04)で,13%高かった.長期的な経過観察の評価でも,2群を比較すると,BMI≧25であった太り過ぎ状態が維持ないし増悪する頻度はRR, 1.22(95%CI,1.06-1.40; P = 0.03)と高く,BMI≧30であった肥満が維持ないし増悪する頻度もPR 1.33(95%CI, 1.13-1.57; P < .001)と高かった.

結論は,照明やテレビをつけて寝る人は,つけずに寝る人と比較して,肥満率が高いということである.しかし,論文の問題点として,調査データは自己申告によるものであり,光の照度や質(スマートフォンなどの電子機器によるブルーライト)の影響については不明であることが挙げられる.著者らは夜間に浴びる光が直接肥満を引き起こす直接的な原因となっているのかを完全に証明できたわけではないと注意を促しつつも,近年,「暗い部屋で睡眠を取ることを推奨すべき」とする根拠が増えつつあり,今回の結果もその一つであると述べている.いすれにしても肥満の生活指導に「人工光への曝露を避ける」は追加すべきと考えられる.今後の関心は,前方視的な介入研究,つまり睡眠習慣の改善が実際に肥満をどれほど改善するかに移っていくものと考えられる.

最後に感想を述べる.一連の研究は「照明をつけて寝ると太る」という知ってしまえば非常にシンプルなことでも,それを科学的に推測し,証明することがいかに大変なことであるかを如実に示す例でもある.世の中に存在するさまざまな「エセ科学」に惑わされないためにも,科学的リテラシーを身につける,つまり科学的エビデンスを確立することは容易ではなく,労力と熱意が必要であることを理解する必要がある.

JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2019.0571

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