Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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REM睡眠行動障害の臨床研究における倫理

2021年01月12日 | 睡眠に伴う疾患
REM睡眠行動障害(rapid eye movement(REM)sleep behavior disorder; RBD)は,夢内容の行動化を呈する睡眠時随伴症(パラソムニア)である.長期的な経過観察で,αシヌクレイノパチーの発症(phenoconversion)が高率に認められる.RBDは,他の検査(例えばドーパミン神経画像:doi.org/10.1093/brain/awaa365)との組み合わせによりαシヌクレイノパチーの早期診断を実現する可能性があり,病態修飾療法への応用が期待されている.その一方で,将来の発症リスクの告知は,患者に動揺をもたらす恐れがある.しかし患者には知る権利があることから,適切な時期や方法を事例ごとに検討した上で告知し,告知後はRBDに対する生活指導と治療を行い,精神的にも支援する必要がある.これら臨床倫理的問題については,2017年に総説「Rapid eye movement(REM)睡眠行動障害の診断,告知,治療」を執筆したので,ご一読いただきたい(doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-000961).今回,有名な高齢者コホートの追跡研究であるロッテルダム研究を行っているオランダのチームが,既報の文献と,その研究における経験を踏まえ,RBDの臨床研究に対する倫理的ジレンマについて議論した論文を報告したので紹介したい.

著者らが重視した問題は,「RBDのスクリーニングで陽性と判断された場合,研究参加者に情報を伝えるべきか?さらに睡眠ポリグラフ検査(PSG)にてRBDが示唆された参加者には,将来,αシヌクレイノパチーを発症するリスクについての情報を提供すべきか?」という2点になる.すなわちインフォームド・コンセントとリスク開示という2つの問題を議論している.

まず図のように,伝えることの利点と問題点を整理した後,結論として,研究参加者には,研究に参加してもらった理由や,参加したあとに起こりうること(trajectory)を知らせることは不可欠で,十分な情報提供を行うべきと述べている.しかし,RBDスクリーニング検査や単回のPSGが陽性であった場合の臨床的意義は確実ではなく,すなわち偽陽性の可能性もあることを考えれば,参加者にRBDの診断や将来の発症リスクについての詳細な情報を早期に提供することで,不必要に悩ませるべきではないと述べている.個人的には納得できる見解だと思った.



最後に倫理的ジレンマに直面する今後の研究への推奨を以下のようにまとめている.臨床研究に関連した内容であるが,RBD患者さんに対する日々の臨床にも参考になると思う.

【倫理的推奨事項】
1)研究計画書の作成において,初期の段階から倫理学者を参加させる.
2)コホート研究に参加するためのインフォームド・コンセントの一環として,疾患リスク情報の開示を伴う可能性のある追加研究の可能性について参加者に伝える.
3)詳細すぎる情報を提供して不必要な苦痛を与えないように,研究参加後に起こりうることを参加者に伝える.
4)研究計画書を作成する際には,リスク情報の開示に対する参加者または患者の希望を考慮に入れる.
5)リスク情報は安全な環境で,できれば知識のある主治医が伝えるべきであり,手紙や電話での情報伝達は避ける.
6)研究で用いられる診断基準は,臨床診断基準とは異なることが多い.これらの違いと研究結果の不確実性を認識する.参加者に情報を伝える際には,個々の研究結果の不確実性を認識する.
Dommershuijsen LJ, et al. Ethical Considerations in Screening for Rapid Eye Movement Sleep Behavior Disorder in the General Population. Mov Disord. 2020;35:1939-1944. (doi.org/10.1002/mds.28262)
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