America Heart Association(AHA)のStroke Conferenceに参加した.「脳梗塞は治療できない」と言って,治療的ニヒリズムに浸っていた時代は終わりつつあるとさえ感じさせられるほどの充実した内容だった.脳梗塞の治療はやはりt-PAを中心に展開しているが,日本とは状況がかなり異なっている.つまりt-PAの弱点を補う戦略が次々に考えられ,そしてそのアイデアに基づき治験が展開されている.以下,t-PAの弱点を思いつくまま列挙する.
① therapeutic time windowが3時間と短い.
② 発症後3-6時間経過した症例の中で,t-PAが有効である症例を見出す術がない.
③ 血栓溶解の成功率は必ずしも高くない(時間が経過するほど低下し,血小板成分が多いほど溶けにくい).
④ 血栓溶解が成功した後にreperfusion injuryや出血が生じる可能性がある.
⑤ t-PA自体neurotoxicである可能性がある.
①については,新世代t-PAの開発(fibrinへの特異性が高く,かつ半減期が長い第3,4世代のt-PA製剤tenecteplase, desmoteplaseの治験開始)や,telemedicine(遠隔医療)やヘリコプター整備の必要性が議論された.②については発症後3-6時間の患者で血栓溶解可能な患者を,MRI(PWI-DWI mismatch)を用いて見出そうとする試み(DEFUSE study)が脚光を浴びた.③に対してはt-PAと抗血小板剤(GPIIb/IIIa antagonist)の併用が検討され,さらに機械的に血栓を除去する方法も急速に進歩してきた.カテーテルの先にコイル状の血栓除去器をつけたMERCIはすでにFDA承認済みだが,その改良型のmulti-MERCI,さらにカテ先に血栓破壊用レーザーを取り付けたEPAR laser(治験開始),同じくカテ先に超音波装置を取り付けたEKOS(治験開始;t-PAと併用した治験IMS-II)など驚くべきことばかりである.④,⑤に対しては,はじめて基礎実験から臨床へのtranslateができた神経保護薬NXY-059(free radical scavenger)の治験結果(SAINT I)や,t-PAの神経毒性を抑制すると考えられるactivated protein Cの併用の可能性が検討された.
今回書きたかったことは,ひとつひとつの治験の結果ではなく,なぜこうも日本とアメリカで状況が異なっているのかということである.少なくとも自分の目には10年以上の開きができてしまったような気がする.おそらくその要因のひとつは日本には大規模臨床試験を行う土壤が整備されていないことと,大規模臨床研究を理解し,かつ実践できるドクターが日本では不足しているのではないか?ということである.例えばfree radical scavengerにしてもNXY-059は1700人超の症例(6時間以内に治療開始)をrandomizeしているのに対し,日本が誇る(?)エダラボンは現在承認されている用法に合致した「発症24時間以内に治療を開始した症例」は,なんと81例ときわめて少ない.日本の脳卒中臨床研究において何か大きな問題が存在するのではないかと思わずにはいられなくなる.
また今回の学会では,若手臨床家向きのランチョンセミナーが開かれた.テーマはどうやって臨床研究をスタートするか,そのためにはなにが必要かという内容であった.研究費の稼ぎ方や治験コーディネーターの重要性が論じられていたが,なかなかこういう話は日本では聴くことができない.さらに今回の学会で気がついたことは基礎研究,とくに動物モデルを用いた治療研究の演題数がかなり少ないということだ(1割程度か).これはStrokeの分野ではかなり臨床研究にシフトしていることを意味している.
いずれにしても,大規模臨床研究を理解し,かつ実践するということを真剣に考えない限り,欧米で使えるエビデンスのある薬剤が,日本では全く使えないという状況がますます加速するものと思われる.憂慮すべき事態だ.
International Stroke Conference 2006
http://strokeconference.americanheart.org/portal/strokeconference/sc/
① therapeutic time windowが3時間と短い.
② 発症後3-6時間経過した症例の中で,t-PAが有効である症例を見出す術がない.
③ 血栓溶解の成功率は必ずしも高くない(時間が経過するほど低下し,血小板成分が多いほど溶けにくい).
④ 血栓溶解が成功した後にreperfusion injuryや出血が生じる可能性がある.
⑤ t-PA自体neurotoxicである可能性がある.
①については,新世代t-PAの開発(fibrinへの特異性が高く,かつ半減期が長い第3,4世代のt-PA製剤tenecteplase, desmoteplaseの治験開始)や,telemedicine(遠隔医療)やヘリコプター整備の必要性が議論された.②については発症後3-6時間の患者で血栓溶解可能な患者を,MRI(PWI-DWI mismatch)を用いて見出そうとする試み(DEFUSE study)が脚光を浴びた.③に対してはt-PAと抗血小板剤(GPIIb/IIIa antagonist)の併用が検討され,さらに機械的に血栓を除去する方法も急速に進歩してきた.カテーテルの先にコイル状の血栓除去器をつけたMERCIはすでにFDA承認済みだが,その改良型のmulti-MERCI,さらにカテ先に血栓破壊用レーザーを取り付けたEPAR laser(治験開始),同じくカテ先に超音波装置を取り付けたEKOS(治験開始;t-PAと併用した治験IMS-II)など驚くべきことばかりである.④,⑤に対しては,はじめて基礎実験から臨床へのtranslateができた神経保護薬NXY-059(free radical scavenger)の治験結果(SAINT I)や,t-PAの神経毒性を抑制すると考えられるactivated protein Cの併用の可能性が検討された.
今回書きたかったことは,ひとつひとつの治験の結果ではなく,なぜこうも日本とアメリカで状況が異なっているのかということである.少なくとも自分の目には10年以上の開きができてしまったような気がする.おそらくその要因のひとつは日本には大規模臨床試験を行う土壤が整備されていないことと,大規模臨床研究を理解し,かつ実践できるドクターが日本では不足しているのではないか?ということである.例えばfree radical scavengerにしてもNXY-059は1700人超の症例(6時間以内に治療開始)をrandomizeしているのに対し,日本が誇る(?)エダラボンは現在承認されている用法に合致した「発症24時間以内に治療を開始した症例」は,なんと81例ときわめて少ない.日本の脳卒中臨床研究において何か大きな問題が存在するのではないかと思わずにはいられなくなる.
また今回の学会では,若手臨床家向きのランチョンセミナーが開かれた.テーマはどうやって臨床研究をスタートするか,そのためにはなにが必要かという内容であった.研究費の稼ぎ方や治験コーディネーターの重要性が論じられていたが,なかなかこういう話は日本では聴くことができない.さらに今回の学会で気がついたことは基礎研究,とくに動物モデルを用いた治療研究の演題数がかなり少ないということだ(1割程度か).これはStrokeの分野ではかなり臨床研究にシフトしていることを意味している.
いずれにしても,大規模臨床研究を理解し,かつ実践するということを真剣に考えない限り,欧米で使えるエビデンスのある薬剤が,日本では全く使えないという状況がますます加速するものと思われる.憂慮すべき事態だ.
International Stroke Conference 2006
http://strokeconference.americanheart.org/portal/strokeconference/sc/
I am back today. Very sleepy!!!