日本ヘリコバクター学会は2000年6月ガイドラインを公表し,「ヘリコバクターピロリ陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍はすべて除菌治療の適応となる」と提言した.その後承認された除菌療法は,プロトンポンプ・インヒビター(PPI)に加え,抗生物質2剤(アモキシシリン+クラリスロマイシン)の計3剤を1日2回計7日間経口投与するものである.ヘリコバクター・ピロリ抗体陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍のみが適応疾患で,胃炎や他の疾患では保険上は認められない.ちなみにアメリカでは胃が痛いと,すぐに抗体を検査してくれて,抗体が陽性ならば潰瘍の存在を確認することなしに即治療開始となる.一見,羨ましくもあるが,その代わり上部消化管内視鏡はよほどのことがない限りやってくれない.除菌しても症状が改善しない場合,やっと高額の医療費を払って検査してくれる.医療費削減の方法が日本とアメリカでは異なっているということだ.
さて,ピロリ除菌治療の副作用として,抗生物質による腸管刺激作用と腸内細菌叢のバランスの崩れなどにより,下痢や血便を来たすことがある.また除菌後,逆流性食道炎が発症することもある.これはピロリ菌感染による慢性胃炎では,一般に胃酸分泌が低下するが,除菌により胃炎が改善し胃酸分泌能が回復するためと考えられている.
一方,今日の本題のパーキンソン病に対する治療薬L-Dopaは,酸に溶けやすく水に溶けにくい性質がある.よって,胃液の pH が低いほうが吸収が良いので,胃酸分泌の低下があるときはレモン汁を同時に投与したりすることがある.制酸剤や抗コリン剤の併用もL-Dopa吸収を阻害する可能性があり注意を要する.では,ピロリ菌陽性パーキンソン病患者に除菌を行ったら,L-Dopa吸収が改善し,motor fluctuationなどの症状が改善するのではなかろうか?
イタリアからこの疑問に関する研究が報告された.対象は34名のmotor fluctuationを呈するピロリ菌陽性パーキンソン病患者で,17名の除菌群と,対照群としてantioxidant投与群に分けた.効果判定は治療1週間後および3ヵ月後に二重盲検下に行い,L-Dopa血中濃度,UPDRS-IIIによる運動機能評価,wearing off現象の“on-time”の測定を行った.結果としては除菌群で,L-Dopa血中濃度が有意に上昇し,運動機能も有意に改善し,“on-time”も有意に延長した.以上の結果はピロリ菌による胃炎・十二指腸炎はL-Dopa吸収を阻害する結果,パーキンソン病のmotor fluctuationを増悪させること,このmotor fluctuationは除菌治療により可逆的に改善することを示した.ご存知のように高齢者ほどピロリ菌感染率は高く,ピロリ菌陽性を示すパーキンソン患者は少なからず存在するはずである.motor fluctuationが顕著な場合には,ピロリ菌の関与も検討すべきと考えられた.
Neurology 66; 1824-1829, 2006![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/book.gif)
これでわかるピロリ除菌療法と保険適用―ガイドラインに基づく活用法![](http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=neurology-22&l=as2&o=9&a=4524238824)
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さて,ピロリ除菌治療の副作用として,抗生物質による腸管刺激作用と腸内細菌叢のバランスの崩れなどにより,下痢や血便を来たすことがある.また除菌後,逆流性食道炎が発症することもある.これはピロリ菌感染による慢性胃炎では,一般に胃酸分泌が低下するが,除菌により胃炎が改善し胃酸分泌能が回復するためと考えられている.
一方,今日の本題のパーキンソン病に対する治療薬L-Dopaは,酸に溶けやすく水に溶けにくい性質がある.よって,胃液の pH が低いほうが吸収が良いので,胃酸分泌の低下があるときはレモン汁を同時に投与したりすることがある.制酸剤や抗コリン剤の併用もL-Dopa吸収を阻害する可能性があり注意を要する.では,ピロリ菌陽性パーキンソン病患者に除菌を行ったら,L-Dopa吸収が改善し,motor fluctuationなどの症状が改善するのではなかろうか?
イタリアからこの疑問に関する研究が報告された.対象は34名のmotor fluctuationを呈するピロリ菌陽性パーキンソン病患者で,17名の除菌群と,対照群としてantioxidant投与群に分けた.効果判定は治療1週間後および3ヵ月後に二重盲検下に行い,L-Dopa血中濃度,UPDRS-IIIによる運動機能評価,wearing off現象の“on-time”の測定を行った.結果としては除菌群で,L-Dopa血中濃度が有意に上昇し,運動機能も有意に改善し,“on-time”も有意に延長した.以上の結果はピロリ菌による胃炎・十二指腸炎はL-Dopa吸収を阻害する結果,パーキンソン病のmotor fluctuationを増悪させること,このmotor fluctuationは除菌治療により可逆的に改善することを示した.ご存知のように高齢者ほどピロリ菌感染率は高く,ピロリ菌陽性を示すパーキンソン患者は少なからず存在するはずである.motor fluctuationが顕著な場合には,ピロリ菌の関与も検討すべきと考えられた.
Neurology 66; 1824-1829, 2006
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これからも楽しみにしております。