Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

血糖自己記録ノートへの書き込みが顕著に増えた1型糖尿病では自己免疫性脳炎を疑う

2024年05月21日 | 自己免疫性脳炎
当科の山原直紀先生らによる症例報告がNeurol Clin Neurosci誌に掲載されました.膵島関連自己抗体である抗GAD抗体は1型糖尿病の診断に役立ちます.GAD,すなわちglutamic acid decarboxylaseは,グルタミン酸からGABAを産生する際に必要な酵素ですので,抗GAD抗体はGABAの産生を抑制することで神経症状を呈することがあります.代表的な疾患としてはStiff-person症候群がありますし,小脳性運動失調や難治性てんかん,辺縁系脳炎を呈することがあります.

症例は抗GAD抗体陽性(血清中6100U/mL)の1型糖尿病の44歳女性です.1ヶ月前から血糖自己記録ノートへの強迫的な書き込みが始まり,1週間前からけいれん発作が出現し入院しました.強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)と考えられる書き込みは,恐らく不安をかき消すために,反復的・持続的に血糖測定をしたくなる衝動により引き起こされるものと考えられました.



免疫療法によりこれらの症状は消失しました.退院2ヵ月後に強迫的な書き込みが再発したため,一時的に免疫療法を強化し回復しました.



OCDはPANDAS,ADEM,さまざまな自己免疫性脳炎(CV2/CRMP5,Ma2,NMDAR,LGI1,GABAA)などで認められますが,抗GAD抗体陽性脳炎では初めての報告です.患者さん自らOCD症状を訴えることは少ないですが,上記のような所見をヒントとして,脳炎を早期診断し早期治療することが大切です.

なお本検討は糖尿病代謝内科 矢部大介先生らと行いました.

Yamahara N, Yoshikura N, Kimura A, Sakai M, Yabe D, Shimohata T. Obsessive-compulsive disorder as an initial manifestation of anti-glutamic acid decarboxylase antibody-associated encephalitis. Neurol Clin Neurosci. 17 May 2024 https://doi.org/10.1111/ncn3.12830


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ササラ型」の知識取得のた... | TOP | 重要:ACT心理療法はALS患者... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 自己免疫性脳炎