Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症(MSA)の睡眠呼吸障害・咽喉頭所見の特徴

2007年06月18日 | 脊髄小脳変性症
 日本で最も頻度の高い脊髄小脳変性症である多系統萎縮症(MSA)では,しばしば睡眠呼吸障害を合併し,睡眠中に突然死を来たしうることが知られているが,その機序については十分明らかにされていない.今回,新潟大学から,MSA の睡眠呼吸障害の特徴と,その罹病期間とともに増悪する因子についての検討が報告された.

 方法としては2001年から2004年までの3年間において,Gilman分類のprobable MSA と診断された21症例(MSA-Cが18例,MSA-Pが3例;日本ではMSA-Cが多いことを反映)に対し,日中の血液ガス,呼吸機能検査,ポリソムノグラフィー(PSG),覚醒時およびプロポフォール麻酔下における喉頭内視鏡を施行した.

 結果としては,PSGではapnea-hypopnea index(AHI)の軽度上昇(20.1±19.9/時),slow-wave sleep(stage III+IV)やREM sleepの減少(13.3±13.8%および8.2±7.6%)を認めた.喉頭内視鏡では麻酔下にて45%(9/20例)の症例に声帯開大不全を認めたが,声帯以外にも舌根,軟口蓋,披裂軟骨,喉頭蓋における狭窄を認めた.とくに披裂軟骨が声帯を覆い隠すように収縮し気道狭窄をきたす所見や,喉頭蓋が不安定で可動性が上昇し,気道狭窄をきたす所見(floppy epiglottis)はこれまでに報告がないばかりではなく,現在,治療として行われているCPAPが,それらによる気道狭窄を増悪させる可能性もあり,重要な所見と考えられた.また安静時には他の疾患では報告のない披裂軟骨の振戦様運動を認める症例が存在し,さらにこのような症例では麻酔下では高率に声帯開大不全を呈することを示した.

 罹病期間とともに増悪する因子としては,低酸素血症とAaDO2開大を認めたが(それぞれr=-0.398,r=0.407),呼吸機能検査では明らかな異常を認めなかった.またAHIを含むいずれのPSG検査所見も罹病期間とは相関しなかった.

 この研究での重要な点は,①MSAでは病期の進行とともに機序不明の低酸素血症が出現し,この日中の低酸素血症は,夜間の睡眠呼吸障害に伴う低酸素血症をさらに増悪させうること,②声帯のみならず,従来に報告のない部位の気道閉塞が生じることがあり,CPAP治療は.今後,閉塞部位ごとにその有効性を検討する必要があること,③PSG所見のうち,無呼吸の指標としてよく使われるAHIは,罹病期間と相関せず,さらに声帯開大不全の有無にも影響を受けなかったことから,MSAの睡眠呼吸障害の重症度の指標として必ずしも有用でないこと,である.MSAの睡眠呼吸障害やその治療が一筋縄ではないかないことを示した論文と言えよう.

Arch Neurol 2007;64 856-861 
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