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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は男性だけでなく女性にも深刻な影響を及ぼす ―見過ごされてきた疾患負担―

2025年02月18日 | その他の変性疾患
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は,ABCD1遺伝子の変異によって発症する神経変性疾患です.これまで男性に発症する疾患と考えられてきましたが,近年,女性でも進行性の神経症状が出現することが明らかになってきました.しかしこれまで女性は「キャリア」として扱われることが多かったため,診断や治療が遅れるケースが少なくなかったと指摘されています.今回,米国マサチューセッツ総合病院より,ALD女性患者の疾患負担に関する包括的な調査研究がNeuology誌に報告されました.

方法は後方視的解析とインタビュー調査で,対象はALD女性患者127名,対照群はALD男性患者82名です.女性患者の91%が何らかの神経症状を訴え,特に排尿障害(74%),歩行障害(66%),痙縮(65%),しびれ感(65%)が頻度の高い症状でした.年代ごとの症状の出現頻度が図1です.



また,精神的な負担も大きく,64%の患者がうつ・不安を呈していました.女性患者のミエロパチーによる神経症状出現の中央値は37歳であり,男性患者の28歳よりも有意に遅れていました(図2).歩行障害は40歳代以降に急速に進行し,50歳を超えると杖や歩行器を必要とする患者の割合が顕著に増加していました.また,転倒リスクも高く,女性患者の55%が転倒歴を持ち,48%が転倒による外傷を経験,43%が骨折を経験していました.さらに,31%の女性患者は骨粗鬆症または骨減少症と診断されており,転倒による骨折リスクがより高まる要因となっていました.



臨床的な問題が2つあり,1つは診断の遅れで,診断時年齢の中央値は女性が37歳,男性が23.9歳でした.男性は症状の出現により診断されるのに対し,女性は家族内のスクリーニングにより発見されることが多い事がわかりました.2つ目は誤診で,46名の女性が診断前にケアを求めて受診しましたが,うち22名(約48%)が多発性硬化症や家族性痙性対麻痺などと誤診されていました.また,医療アクセスの問題も深刻であり,インタビュー調査を受けた57名のうち51名(89.5%)が適切な医療を受けることが困難であったと回答しました.その主な理由として,ALDに関する医療者の知識不足(70.2%),「女性はALDの症状を発症しない」という誤解(56.1%),専門医の不足(56.1%)が挙げられました.さらに,26.3%の患者が診療費や通院負担の大きさを問題視していました.またQOLにも大きな影響があり,インタビュー調査を受けた49名のうち,26名(46%)が高度の,12名(21%)が中等度の,11名(19%)が軽度のQOL低下を示していました.

本研究は,ALD女性患者の疾患負担が予想以上に大きいことを示しており,私も大変驚きました.認識を改める必要性を感じました.また本研究は診断の遅れ,誤診,医療アクセスの課題がQOLの低下を引き起こしていることを明らかにしました.ALD女性患者のQOLを向上させるためには,早期診断を促進するための診療ガイドラインの作成,疾患理解の向上,専門医の育成,適切な治療戦略の策定が必要と考えられます.
Grant NR, et al. Disease Burden in Female Patients With X-Linked Adrenoleukodystrophy. Neurology. 2025 Mar 11;104(5):e213370.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000213370

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