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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第9回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2015)@東京

2015年10月18日 | パーキンソン病
標題の学会が10月15日から17日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり大変充実した学会ですが,とくに学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するイブニング・ビデオセッションは人気企画です.例年,日本を代表するエキスパートの先生方が議論をされていましたが,今年から指名された東日本,西日本の専門医が議論を戦わせる形に変わりました.私も東軍メンバーに選んでいただき,貴重な経験をしました.さて今年の13症例一覧を記載します.ちなみに東軍が勝ちました (^^).

【問題編】
症例1.振戦に対しL-dopa/DCI合剤を17年間服用した87歳男性
60歳で振戦にて発症.書字困難.筋強剛や無動なし.L-DOPAによる治療が開始され,効果がないにもかかわらず17年間継続された.神経学的に姿勢時の振戦のみ.ビデオでジスキネジアを認めるか?診断は?

症例2.歩行障害,構音障害の76歳男性
家族内類症あり(常染色体優性遺伝).55歳ふらつき・転倒,構音障害,slurred speech.難聴,腱反射亢進,ビデオは舌の萎縮と線維束性収縮.筋生検で上腕二頭筋のgroup atrophy.診断は?

症例3.3年の経過で,左手・体幹の舞踏様運動と右足のジストニアを呈した39歳男性
25歳,右足を引きずる(右下肢ジストニアで発症).36歳,左手が勝手に動く(コレア).右足の動かしにくさ増強(ジストニア).筋強剛軽度.診断は?

症例4.半年前から進行性に痙性対麻痺様歩行障害を呈した51歳女性
左臀部筋痛にて発症.2,3ヶ月の経過で筋痛の範囲が拡大,対側にも及ぶ.踵を地面に着くことが困難になる.神経所見はジストニア,左下肢痙性,下肢腱反射亢進.既往歴に橋本病,1型糖尿病.診断は?

症例5.進行性の筋萎縮に小脳性運動失調を合併した65歳男性
家族内類症あるが,罹患者は全員男性.20歳歩きにくさにて発症,緩徐に進行し50歳失調歩行.60歳動作時のふるえ.神経学的に線維束性収縮,女性化乳房.頭部MRIでは明らかな小脳萎縮.診断は?

症例6.血栓溶解療法後に不随意運動を呈した72歳女性
左片麻痺にて発症した脳塞栓症に対し,tPA療法を施行.症状は改善したが,その後,左上肢にバリスム,ないしコレア出現.何が起きたか?

症例7.右内頚動脈狭窄に伴い左半身不随意運動を生じた一例
運転中に左下肢をよじるような動き出現.その後,左上肢にも出現(ヘミコレアないしヘミバリスム).左顔面の叱っめ面のような動き(これはヘミコレア).画像では右内頚動脈狭窄.片麻痺なし.病態は?

症例8.日内変動のある運動障害を示した同胞例
姉は19歳で,早期からジストニアあり.日内変動がある.眼球の上転固定(Oculogyric crisis)を認めた.認知機能正常.弟も類症.髄液ビオプテリン低下なし.診断は?治療は?

症例9.著しい痙性斜頸と頭部振戦にボツリヌス注射とクロナゼパムが奏効した41歳男性(最優秀演題)
24歳ふらつき,27歳頭部振戦(3-4 Hz),41歳緩徐眼球運動,ジストニア,首下がり,頸部回旋.首のdystonic tremorは腕を挙げたりする動作で増強するため,食事を摂ることが困難.頭部MRIでHot cross bun sign陽性,DATスキャンとり込み低下.ボツリヌス注射有効で不随意運動改善.診断は?

症例10.左下肢に多様な不随意運動と筋緊張異常を認めた74歳女性例
左足が勝手に動く(比較的ゆっくりとした動きで表面筋電図では振戦).また下肢で文字を書かせるとうまくできない.L-DOPA無効.左足関節内反.左上肢失調.筋強剛,痙性,ジストニア,皮質性感覚障害.診断は?

症例11.Wide baseとkinesie paradoxaleを呈した70歳男性例
68歳肝性脳症,69歳肝性糖尿病.Wide baseな歩行障害,精神症状.パーキンソン病の診断で治療され,STN-DBSまで施行されたが,最終的に治療困難で,すくみ足が増悪した.診断は?

症例12.意識のある四肢強直発作の19歳男性
10歳体がつっぱり倒れてしまう.体が浮くような前兆があり.その後,体全体の強直発作が出現.右上肢に痙攣(非対称性強直発作).脳波上異常なし.診断は?

症例13.L-DOPA投与が有効であった失調歩行の50歳女性
46歳転倒,ふらつきある.眼振なし.L-DOPA投与が有効(ビデオでは軽度の改善).小脳性運動失調はあるか?診断は?


【解答編】
症例1.ジスキネジアはなし.診断は本態性振戦?パーキンソン病患者でなければ,L-DOPAを17年内服してもジスキネジアは起こらない.

症例2.SCA36(Asidan).岡山大学より報告された脊髄小脳変性症と運動ニューロン病の両方の特徴を併せ持つ遺伝性疾患(Asidanは,Asida river familyに由来).nucleolar protein 56(NOP56)遺伝子のイントロン1のGGCCTGリピートの伸長.

症例3. PARK2 Parkin遺伝子異常(exon 2とexon 8のheterozygous deletion).

症例4.抗GAD抗体に伴うStiff-leg syndrome.この症候群には抗GAD抗体陽性例と陰性例がある.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11748762
橋本病と1型糖尿病の合併から抗GAD抗体の関与を疑う.

症例5.球脊髄性筋萎縮症(SBMA).小脳性運動失調と小脳萎縮を合併しているが,一元的に考えるか,何らかの別の疾患の合併を考えるかが議論になったが,個人的には後者ではないかと思う.

症例6.視床下核や線条体などの病変(tPA療法に伴う出血)が想定されたが,MRI上は頭頂葉虚血病変がみられた.それが責任病変か,もしくは視床下核や線条体にMRIで捉えられない病変があるのか議論になった.

症例7.右大脳半球血流低下に伴うヘミコレア.もやもや病でも梗塞発症前に,ヘミコレアが生じることがあるが,これと同じ現象ではないかとの推論もあった.

症例8.チロシンヒドロキシラーゼ欠損症.常染色体劣性遺伝.治療はL-DOPAで良いとして,病態はGTP cyclohydrolase I(GCH1)欠損によるジストニアと思ったが,この疾患ではビオプテリン低下は生じなかった.チロシンヒドロキシラーゼ欠損ではoculogyric crisisが生じる(GCH1欠損・瀬川病でも生じるとのこと).チロシンヒドロキシラーゼ欠損症は遺伝子治療の適応もあり.

症例9.SCA2に伴う痙性斜頸,dystonic tremor.回答権がなく答えられなかったが,実は新潟大学でも同様の経験があり,過去に症例報告した.自験例でも4 Hzのdystonic tremorがADL上問題で,ボトックスが奏効しなかったが,L-DOPAが有効.SCA2のdystonic tremorの病態に黒質病変やpontocerebellar pathwayの関与が指摘されているが,L-DOPAの効果は前者の関与を示唆する.
Kitahara M, Shimohata T, Tokunaga J, Nishizawa M. Cervical dystonia associated with spinocerebellar ataxia type 2 successfully treated with levodopa: a case report. Mov Disord. 2009;24:2163-4.

症例10.Corticobasal syndrome.下肢で文字を書かせてうまくできないのは失行のようだ.背景病理までは分からず.

症例11.後天性肝脳変性症(Acquired hepatocerebral degeneration).肝硬変の0.8%で生じるという報告あり(Eur J Neurol. 2010;17:1463-70).パーキンソニズムと小脳症状が認められる.T1で淡蒼球高信号(マンガン蓄積).抗パーキンソン剤無効.肝移植で改善する例もある.

症例12.補足運動野てんかん.体が浮くような前兆は頭頂葉由来の症状で特徴的とのこと.意識が保たれている発作から,補足運動野てんかんも頭に浮かんだが,あまり向反発作ぽくはなく,脳波異常なしから違うなとてんかん以外の疾患を考えてしまった.補足運動野てんかんでは,脳波異常は同定できないことが多いようだ.

症例13.NIBA(Neurodegeneration with Brain Iron Accumulation)のひとつ,神経フェリチン症neuroferritinopathy(NBIA3:フェリチン軽鎖(FLT1)の遺伝子変異).あまり小脳性運動失調ぽくは見えなかった.MRIでeye of the tiger徴候的?(T2強調画像で鉄沈着による低信号はあったが,高信号の虎の眼球様状態はよくわからなかった).



パーキンソン病における慢性腰痛の特徴と増悪因子

2015年10月11日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)では,難治性の慢性腰痛をきたす.しかし,その特徴や増悪因子については十分明らかにされておらず,明確な治療指針もない状況である.このため新潟大学脳研究所神経内科と新潟大学医歯学総合病院整形外科では共同研究を行い,それらの検討を行ったのでご紹介したい.

対象は腰痛を有するPD患者,連続44名(男24/女20例)である.平均年齢は68.7歳(55-85歳),罹病期間は11.0±10.1年,パーキンソン病統一スケールは17.1±11.6点であった.

【神経内科的観点から】
まず腰痛の特徴について神経内科的観点から検討した.腰痛の出現時期については,PDの発症と比較すると,腰痛が先が20名,PDが先が20名,同時が4名であった.これらの結果から,持病の腰痛がPDにより悪化したケース,PD発症後に腰痛が出現したケースのほか,さらに腰痛にて発症するPDが存在することが分かる.

腰痛の強い時間帯は「常に痛い」とする症例が23名(53%),次が「起床時」であった.「常に痛い」という訴えは通常の腰痛では多くないそうで,PDの腰痛の特徴かもしれないとの整形外科医との意見であった.

腰痛の誘因としては,同じ姿勢,動作時,歩行時に続き,オフ時,便秘時が見られた.オフ時,便秘時はPDにおける腰痛に特徴的で,これらの改善が腰痛の緩和に繋がる可能性がある.またパーキンソン症状との関連で,wearing off現象を認めた21名中9名(43%)がoffを腰痛の増悪因子と考え,dyskinesiaを認めた8名中2名(25%)がdyskinesiaを腰痛の増悪因子と考えていた.逆に抗パーキンソン剤の内服により11名(26%)で腰痛の改善が認められた.抗パーキンソン剤のL-DOPA当量は498±230 mgで,300 mgまでの症例は少なかった.L-DOPAのハネムーン期では腰痛が少ない可能性がある.

【整形外科的観点から】
つぎに腰痛の特徴について整形外科的観点から検討した.骨密度は軽度低下し,血中・尿中NTX(I 型コラーゲン架橋N-テロペプチド)は軽度上昇,Intact PTHは正常範囲で,ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン)は増加,25(OH)Dは低下していた.以上よりビタミンD,Kの欠乏と,高代謝回転型の骨量低下が示唆された.X線全脊椎アライメント検討では,体幹の前傾が強いこと,腰椎の前弯は減少していること,胸腰椎の後弯が増加していること,脊柱の可動域が低下していることが分かった.VAS(10点法)の評価では,腰痛>下肢痛>下肢しびれの順に強かった.PS-39や日本整形外科学会腰痛疾患質問票(JOABPEQ)によるQOLの検討では,歩行機能障害や運動能が特に低かった.

【腰痛とQOLの増悪因子の検討】
VASによる腰痛と,PD-39による患者QOLに影響を及ぼす因子について検討したところ,改訂H & Yステージ,腰痛前弯,体幹の前傾,腰椎可動域が増悪因子であった.つまりパーキンソン病の運動障害が高度であること,腰椎前弯と可動域の減少を伴う体幹の前傾は腰痛を悪化させることが明らかになった.また上記のように運動合併症(wearing off現象,dyskinesia)も腰痛を増悪させた.

【PDにおける腰痛治療で重要なこと】
上記の検討から以下の4点が重要であると考えた.
1.PDの腰痛の治療には,整形外科医と神経内科医の連携が必要で,早期からの介入が望ましい.
2.PDの腰痛は,PDの病期や運動合併症により増悪することから,神経内科医による適切なPDの治療が必要である.
3.PD患者は骨粗しょう症になりやすいことが既報からも示されており,積極的な治療が必要である.
4.体幹の姿勢や可動域を維持するリハビリが有効である可能性があり,積極的に行う必要がある.

Watanabe K , Hirano T, Katsumi K, Ohashi M, Ishikawa A, Koike R, Endo N, Nishizawa M, Shimohata T. Characteristics of low back pain and trunk balance in Parkinson’s disease. International Orthopaedics (in press)


MDS2015 Video Challenge @ San Diego

2015年06月21日 | パーキンソン病
この学会の一番の目玉企画は,世界各国の学会員が経験した症例のビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパートが,その不随意運動の特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.今年もワインが振る舞われたあとの夜8時から開始され,終了は10時を過ぎていた.今年は12+1例の提示があった.昨年は新たに判明した遺伝性疾患が多く,「これは分からないよ!」という印象であったが,今年はその反省もあってか(?)バラエティに富んだ出題になった.時差ボケとワインのせいでウトウトしてしまい,一部,聞き漏らしたところもあるがご容赦願いたい(誤りがあったら教えて下さい).

【問題編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.

Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる.

Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.

Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.

Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん

Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.

Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.

Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下

Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.

Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.

Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.

Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん

おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.

【解答編】
Case 1(米国)
進行性の失調,ミオクローヌス,嚥下障害.傍腫瘍症候群を疑い,ステロイドパルス,IVIgを行うも無効.
→ ヒト成長ホルモン製剤により感染した医原性CJD.米国で遺体由来のヒト成長ホルモンを投与された患者はおよそ7700人にのぼる.

Case 2(イギリス)
15歳女性,亜急性に覚醒障害,幻覚,摂食異常が出現.易転倒性あり(眠くて歩けない),首を前後にガクンガクンさせる,脱力発作.
→ カタプレキシーを伴うナルコレプシー(ナルコレプシー1型)

Case 3(ドイツ)
35歳男性,27歳で触ったあとに首・体幹がぴくんと動く(スパスム・ミオクローヌス).徐々に範囲と程度が増強.その後,失調,便秘,回転性めまい,異常感覚,アロディニアも出現.
Stimulus-sensitive myoclonus, ataxia, and dysautonomia due to DPPX-antibodies(dipeptidyl-peptidase-like protein-6;subunit of Kv4.2 potassium channel)
幅広い臨床像.筋強剛,ミオクローヌスからStiff person症候群まで.自律神経障害(消化管,排尿,不整脈)

Case 4(アメリカ)
左足首がゆっくり屈曲・伸展を繰り返す,徐々に増悪し,歩行困難になる.小腸生検.
グルテン過敏症(celiac disease).小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる小腸を主体とする自己免疫疾患.しばしば成人では,小脳性運動失調,末梢神経障害,てんかんのほか,不随意運動として,ミオクローヌスやopsoclonus-myoclonusを呈する.

Case 5(オーストラリア)
24歳女性,発育障害,13歳で顔面,首,上肢に強いミオクローヌス,てんかん,失調,ミオクローヌス・ジストニア,19歳でてんかん
Interstitial 6q deletion症候群.6q15-q25の欠失.多彩な表現型を示す.成長障害,肥満,Prader-Willi syndrome様症候,行動異常,低トーヌス,てんかん,不随意運動(失調,振戦,ミオクローヌス,ミオクローヌス・ジストニア)

Case 6(?)
42歳女性,発育障害,てんかん,35歳からパーキンソニズム(介助歩行),L-DOPAとDAアゴニスト若干有効.
β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死).精神発達遅滞,てんかん,痙性,失調,パーキンソニズム.
画像はこちら

Case 7(ドイツ)
64歳男性.痙性が強い,歩行障害.失調,舌が動く(舞踏運動),睡眠PSG異常(睡眠潜時↑,睡眠効率↓,SASおよびPLM),ステロイド,IVIg,リツキシマブ若干有効.
IgLON5(神経細胞接着分子のひとつ)antibody関連疾患.閉塞性睡眠時無呼吸を伴う進行性non-REM・REMパラスソムニア,運動障害(四肢の失調,舞踏運動,歩行不安定性),眼球運動障害,生命予後不良(8例中6例が免疫抑制療法にもかかわらず1年以内に死亡).2名の病理で,脳幹・視床に過剰リン酸化されたタウの沈着(タウオパチーである).IgLON5 antibodiesは298名の対照では1名にのみ見られ,その1名はPSPだった.非常にタウオパチーを考える上で興味をひかれる疾患.文献.

Case 8(?)
男性,亜急性の発症.手指の陰性ミオクローヌス,姿勢保持障害,振動覚低下,急速進行性認知機能低下
神経梅毒(脊髄癆)進行性の運動障害と認知症では鑑別診断に加える.

Case 9(アイルランド)
左手のしびれ.感覚障害,延髄背側の病変に手術後,左手が勝手に動き抑えられないほど(モノバリスム).左上肢振動覚なし.病変拡大.
楔状束核小脳路病変(病変の正体は言わなかった?聞き漏らした?)上肢領域における
固有感覚と,触覚や圧覚などの外部感覚に関する情報を小脳に伝える中継核.

Case 10(台湾)
33歳男性.26歳より緩徐進行性の歩行+言語障害,ジストニア,パーキンソニズム.失調,姿勢保持障害,両側性の顔面感覚障害.DATスキャン,MRI多発病変に対し,生検を行った.血管周囲CD3/CD4 T細胞の浸潤.ステロイド有効.
CLIPPER(Chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroid)「脳幹の小血管周辺の炎症」を病変の主座とする炎症性中枢神経疾患.複視,失調,構音障害,片麻痺など.運動障害を合併することは稀ではあるがありうる.画像では脳幹に点状結節状の造影病変が両側性に認める.

Case 11(?)
55歳女性.46歳で歩行,言語障害にて発症.アキネジア,複視,顎のスパスム.左手のジストニアと痛み,寝たきり,認知機能正常.IVIg有効.
抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体関連疾患
抗GAD抗体がGABA産生を抑制することで神経症状を呈する.有名なStiff-person症候群以外にも小脳性運動失調を呈しうるが,本例のようにジストニアを呈することもある.

Case 12(タイ)
43歳男性,首の不随意運動と一側上肢のアステリキシス,てんかん
Neurocysticercosis(神経嚢尾虫症)
てんかんが多いが,局所神経症状,頭蓋内圧亢進,認知機能低下を来す.運動障害もきたしうる.

おまけ(アメリカ)
19歳女性.1歳から舞踏病アテトーゼ(以後緩徐増悪),hypotonia,低トーヌス.常染色体優性遺伝.
ADCY5(adenylate cyclase 5) 遺伝子変異.常染色体優性遺伝の疾患で,早期発症,舞踏病様,ないしジストニア様のジスキネジア,眼や口部周囲のミオキミアを呈する.良性遺伝性舞踏病の表現型も取りうる(最新号のNeurologyに掲載).De novo変異もあるので家族歴がなくても疑う必要はある.



Movement disorders grand round@MDS international congress

2015年06月17日 | パーキンソン病
19th international congress of Parkinson’s disease and movement disorder @ San Diegoに参加している.びっくりするようなgrand round(症例検討会)が行われた.Stanley Fahn,Joseph Jankovic,Andrew Lees,Eduardo Tolosa先生といった運動障害疾患の領域の,まさに第一人者の先生方の問診・診察を見ることができたのだ!それも大勢の聴衆が見守る中,実際の患者さんが壇上に現れ,リアルタイムで問診・診察・診断の過程を見せるというものであった.日本ではこのような試みは思いもつかないが,多くの神経内科医に非常に良い経験になったと思う.エキスパートの先生方の和やかな問診が印象的で,また患者さん,ご家族の医学に貢献したいという気持ちも伝わってくるようだった.以下,議論された5疾患についてまとめる.

症例1:過去に何度ももの脳手術を行っているという28歳男性.L-DOPAが有効.診断はなにか?なぜ手術を受けたのか?

→中脳のVirchow Robin腔が多房性に拡張したものが占拠性病変となり,パーキンソニズムをきたした症例.血管周囲のVirchow Robin腔の拡大は経験するが,多房性となることは稀.調べてみたところGiant tumefactive perivascular spacesと呼ばれる病態で.以下のような画像を呈する.
tumefactive perivascular spaces

症例2:有痛性振戦,頸部筋力低下,不眠を主訴とする18歳女性.発作性ジスキネジア,良性舞踏病,ジストニア,脳性麻痺,ミトコンドリア病などがこれまで鑑別に上がっていたが,診断がつかなかった.画像異常なし,筋生検異常なし.診断はなにか?

→ADCY5(adenylate cyclase 5) 遺伝子変異による,familial dyskinesia with facial myokymia (FDFM)であった.常染色体優性遺伝の疾患で,早期発症,舞踏病様,ないしジストニア様のジスキネジア,眼や口部周囲のミオキミアを呈する.ポスターでは,良性遺伝性舞踏病(BHC)でTTF-1遺伝子陰性の症例のなかに含まれているという報告があった.以下,抄録

症例3: 46歳から片側のジストニア・パーキンソニズムが出現した66歳男性.当初L-DOPAが有効,画像上異常なし.L-DOPAの開始後5年後からジスキネジアとmotor fluctuationが出現し,7年前から増悪した.娘はDOPA-responsive dystonia,祖母は80歳代でパーキンソン病である.診断はなにか?

→GTP cyclohydrolase 1(GCH1)遺伝子保因者(pThr94Lys)であった.GCH1はチロシン水酸化酵素の補酵素で,テトラヒドロビオプテリン(BH4)の合成酵素の一つとして見つかった.GCH1遺伝子変異は中枢のドーパミン生合成低下をともなうジストニア,いわゆるdopa-responsive dystonia (DRD, DYT5 あるいは瀬川病)の原因である.ここで大事なのは,その遺伝子変異の保因者は,早発型パーキンソン病に類似するparkinsonismを呈しうるということである.近年の研究でGCH1はPDのlow risk susceptibility locusであることも分かっている.以下,参照

症例4:脳性麻痺と診断されていた43歳女性.強い眠気とジストニアを呈した.ずっと診断がつかなかった.髄液5HIAA,HVAは著明に低下.7,8 dihydroneopterin triphosphateが増加.L-dopa投与で症状が劇的に改善した.診断はなにか?

→脳性麻痺と誤診されることの多いSepiapterin reductase欠損症.この酵素はBH4の合成酵素である.L-DOPA投与で劇的な治療効果が期待できるため見逃さずに髄液検査,遺伝子検査で診断することが重要である.以下,論文へのリンク

症例5:バランス障害,姿勢時・運動時振戦を呈する73歳男性.進行性の小脳性運動失調(ただしspeechはほぼ正常).診断はなにか?

→Fragile X-associated tremor/ataxia syndromeである.FMR1遺伝子のCGG繰り返し配列が延長している.正常では50以下だが,FXTASでは50以上,脆弱X症候群では200以上に延長する.本例は99リピートで,頭部MRIでMCP(中小脳脚)サイン陽性,白質高信号を呈していた.


第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@京都

2014年10月04日 | パーキンソン病
「第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月2日から4日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり,1日参加するだけでも幅広く勉強できる学会です.ビデオセッションも充実しています.美味しいディナーとワインをいただきながら,各自経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するのは何とも贅沢です.エキスパートの先生方の意見を聞き,見るべきポイントが分かります(ただ,本家MDSのVideo Challengeもそうですが,最近,判明した新しい遺伝性疾患についての知識をupdateしておかないと診断を当てるのは難しいです.要勉強).来年は東京での開催ですので,ぜひ若手の先生はふるってご参加ください.
さて今年のイブニングビデオセッションの16症例一覧を記載しておきます.

1.水頭症に対するVPシャント後に以下の所見を呈した62歳男性.
輻輳眼振,上方視制限,見当識障害,発語障害.パーキンソニズム.画像はslit ventricle(脳室がスリット状に細くなっている所見).

診断:中脳水道狭窄症と,over shunt 後に生じたParinaud徴候

2.左上肢のゆっくりとした回内回外運動が持続する81歳女性.
3年の経過.左手指の運動障害にて発症.L-DOPA内服後,上記の異常運動が出現.左筋強剛と左肘の軽度の拘縮(hemiparkinsonism).右手指にはミオクローヌス.

診断:舞踏病アテトーシスを呈したCBS?

3.両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併したMiller-Fisher症候群の35歳女性.
先行感染の1週後,失調歩行,手指しびれ,下肢脱力,構音障害,眼球運動障害(外転制限)と複視,腱反射消失を認め,さらに両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併.GQ1b,GT1a,GD1b抗体陽性.

診断:脊髄性ミオクローヌスを合併したMiller-Fisher症候群+α(Stiff-person症候群の合併?新しいサブタイプ?)

4.動作時の下肢不随意運動を呈した33歳男性.
学童期発症.サッカーボールを蹴ろうとすると,足がガタガタして転んでしまう(動作時ミオクローヌス).お皿を運んでも投げてしまう.構音障害.Cherry red spotあり.レベチラセタムにてかなり改善.

診断:CTSA(カテプシンA)遺伝子変異を伴うガラクトシアリドーシス

5.上肢の振戦が主徴とした26歳女性.
書字困難,小歩症,顔のこわばり,軽度の筋強剛.T1強調画像で基底核および中脳が高信号.

診断:Wilson病

6.精神発達遅滞,てんかんを呈した2症例(9歳,25歳)

いずれも精神発達遅滞,てんかんを呈し,レット症候群様の手の常同運動,痙性,失調,パーキンソニズムを合併.頭部MRIでは,異常な脳内鉄蓄積.特徴的な中脳の異常信号(図のC;Am J Neuroradiol. 33:407-414,2012)

診断:β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死)



7.嚥下障害,歩行障害を呈した26歳女性.
いとこ婚を認める.ジストニアに伴う嚥下障害,歩行障害に対し,アーテン8mgおよびL-DOPAが有効.

診断:SRP遺伝子変異.Sepiapterin reductase欠損症(ビオプテリン合成に関わる酵素).脳性麻痺と誤診されることが多いが,L-dopa投与で劇的な治療効果があるため見逃してはならない(Ann Neurol. 2012;71:520-530)

8.翼状肩甲とパーキンソニズムを呈した51歳女性.
父類症.43歳から体幹筋の筋力低下,翼状肩甲,パーキンソニズム(筋強剛,仮面様顔貌).乏しい病識.筋生検でrimmed vacuoleあり.MRI上,大脳皮質萎縮.

診断:Valosin Containing Protein (VCP) 遺伝子変異を認めるInclusion Body Myopathy associated with Paget's Disease of Bone +/- Frontotemporal Dementia(IBMPFD).ミオパチー,前頭側頭型認知症,運動ニューロン病,パーキンソニズムを呈する.

9.頭頸部,振戦を呈した44歳女性.
MRI上,中脳,両側視床,脳梁後部,小脳に異常信号.

診断;Wilson病(5もそうであったが,振戦を主徴とし,画像も教科書的でないWilson病が存在することを認識すべきということか)

10.右下肢の規則正しいゆっくりとした不随意運動を呈した43歳男性.
上記不随意運動による歩行障害,言葉の出にくさ,全身けいれんを呈した.こども2人も転換.C-reflex陽性.抗GluR2抗体陽性.MRI頭頂葉異常信号.

診断:皮質性反射性ミオクローヌスを呈した(自己免疫性?)髄膜脳炎.

11.2歩行時に足がもつれる9歳女性.
生後3ヶ月からてんかん,幼児期から足のもつれ(運動誘発性ジストニア),IQ61,腱反射亢進,足クローヌス,髄液糖低下,ブドウ糖にて歩行障害は改善.

診断:グルコーストランスポーター1欠損症症候群(Glut1 deficiency syndrome).常染色体優性遺伝.90%にSLC2A1(GLUT1)遺伝子のヘテロ接合性変異(大多数がde novo変異).トランスポーター欠損のため,グルコースが中枢神経系に取り込まれないことにより生じる代謝性脳症.慢性低血糖状態が持続することによるてんかん,神経・精神的退行が進行する.通常,乳児期に診断されるが,この例のような軽症例では診断が遅れる.

12.転倒で顔面強打後,動けなくなった48歳男性.
転倒で顔面強打後,動けなくなった.垂直方向眼球運動制限,顔面と四肢の脱力,腱反射低下.しばらく体が動かなかったが,完全回復した.再発エピソードあり.

診断;glycine receptor α1 subunit (GLRA1)遺伝子変異を伴うhereditary hyperekplexia(遺伝性驚愕反応,びっくり病)

13.アテトーゼ様不随意運動を呈した糖尿病患者63歳男性.
もともと化膿性脊椎炎後遺症で寝たきり.顔面・上肢の発作性の短時間(2-3分の)アテトーゼ(ジストニア?),意識障害を伴う.

診断;原因不明(てんかん,低血糖,頸動脈狭窄に伴う血流低下などの可能性)


14.どもるようなしゃべりと記銘力低下をきたした37歳女性.
35歳にどもるような発語(口部ジストニア)にて発症.MMSE 17点.強制泣き・笑い,非典型パーキンソニズム,左錐体路徴候.MRI上,大脳白質病変,脳梁菲薄化.CT上,石灰化病変多発.

診断;colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R)遺伝子変異を伴うHereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids(HDLS)

15.小脳失調で発症し,多彩な不随意運動を呈した女性.
肺炎,めまい,耳鳴,四肢・体幹の失調,saccadic eye movement,食後に出てくるオピストトーヌス(後弓反張)を伴う激しい不随意運動(ミオクローヌス).

診断;myoclonic cerebellar ataxiaと言えるが原因未定.後弓反張はfunctional movement disorderか?

16.げっぷが止まらない46歳男子.
当初,自動車運転中に限ったゲップ.だんだん増えて一日中になった.クロナゼパム,芍薬甘草湯無効.首を触ったり,仰臥位になると消失した.

診断;前頸部から胸部に限局した,局所性ジストニアによるゲップ(常同性,感覚トリック).ボツリヌス毒素により治療し軽快した.

私個人は,オープニングセミナーにて,「パーキンソン病における外科手術への対応」について講演をさせていただきました.とても勉強になりました.以下,Slideをアップします.

パーキンソン病における外科手術への対応(SlideShare)


MDS2014 Video Challenge@ Stockholm

2014年06月13日 | パーキンソン病
Movement Disorder Societyが主催する国際学会に参加した.学会で一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨む.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた(でもStockholmなので外はまだ明るい).毎年のことながら,ホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,本当に楽しい.さてどんなビデオが提示されたが,14例をご紹介したい.ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(ちなみに本オリンピックのシンボルはMovement disorderの学会らしく,写真のようになっている).

【問題編】
Case 1(スウェーデン)
全身のジストニアが目立つ成人女性.顔面にもdystonic movement.軽度尿中銅排泄増加.頭部MRI正常.末梢神経障害もあり.・・・・・加えてAFP上昇

Case 2(イギリス)
40歳男性,子供の頃からつま先で歩く.全身性ジストニア,無動に加え,眼球運動失行,側彎,下肢クローヌスを認める.頭部MRIでは小脳萎縮あり.

Case 3(カナダ)
65歳女性,59歳で両手の姿勢時・動作時の震えにて発症.無動は軽度.体幹失調もあるがこれも軽度.子供精神発達遅延.頭部MRIでは小脳の軽度の萎縮.

Case 4(ドイツ)
32歳.小児期成長遅延.易感染性があり,髄膜炎,中耳炎,扁桃炎を繰り返す.さらに出血もたびたび見られる.神経学的にはパーキンソン症状,四肢失調,Babinski徴候,PTR陰性.頭部MRI正常.検査所見で好中球減少,出血傾向,網膜・虹彩の色素異常あり,透けて見える.

Case 5(米国)
兄妹例(18, 19歳).振戦,筋強剛,歩行障害を呈する.L-DOPAは有効だが,短期間(2年)でwearing off,ジスキネジアが出現.ジスキネジアは極めて高度で激しくL-DOPA中止.下肢感覚障害(深部覚).頭部MRIは軽度の小脳萎縮.PARK関連遺伝子で異常なし.一人死亡し,剖検では黒質に神経メラニン皆無.青斑核は保たれていた.後索にも変性所見あり.

Case 6(タイ)
60歳女性.亜急性の経過で,歩行障害が出現.右に寄ってしまう.左手の開閉困難.さらに失行,記銘力低下を認める.

Case 7(カナダ)
79歳.進行性の右手足の拙劣さ,hemi-choreaを認める.性格変化,知能低下,saccadic EOM.検査上,血小板減少あり.

Case 8(タイ)
18歳.13歳時,シデナム舞踏病を疑われペニシリンにて治療,症状は改善.18歳,再度,手指の不随意運動が出現したが,自然に改善した.頭部MRIでは分水嶺に異常所見(Ivy sign).側副血行路が目立つ.

Case 9(中国)
28歳,耳が一瞬ビクッとする不随意運動!?

Case 10(オランダ)
7歳.ミオクローヌス,小脳失調,反射消失を呈する.

Case 11(国名?)
6歳,小脳失調,知能低下.歩行障害は変動し,運動により増悪する.

Case 12(オランダ)
18歳,左への痙性斜頸.起立で症状出現.

Case 13(イタリア)
29歳.発作性の激しい不随意運動.意識消失を伴うことあり.

Case 14(国名?)
5歳,斜頸.

【解答編】
Case 1;ataxia telangiectasia
ATM遺伝子変異あり診断確定.軽症例では全身性ジストニアを呈しうるのだそうだ.

Case 2;HABC syndrome
hypomyelination with atrophy of the basal ganglia and cerebellum のこと.hypomyelinating leukodystrophy-6 (HLD6)とも呼ばれる.2013年報告された疾患で,乳幼児期に発症,運動発達遅延,歩行障害,ジストニア,舞踏病アテトーゼ,筋強剛oculogyric crises,失調などを呈する.原因遺伝子はTUBB4A geneで,同じ遺伝子はDYT4 dystoniaを起こす.

Case 3;FXTAS in woman
Fragile X associated tremor/ataxia syndrome(FXTAS)の原因遺伝子であるFMR1遺伝子CGGリピートがpremutation expansion である女性保因者であってもFXTASを発症しうることが報告されている.

Case 4; Cediak-Higashi症候群
常染色体劣性遺伝.原因遺伝子はLysosomal trafficking regulator gene(Rab27A遺伝子).小児発症例は血液異常が主体だが,成人発症は神経症状が主体となる.易感染性,皮膚・眼症状(メラニン細胞異常による皮膚,毛髪,網膜,虹彩などの色素異常),多彩な神経症状, 血小板機能異常による出血傾向を認める.

Case 5;POLG 遺伝子変異に伴う若年性パーキンソニズム
POLG(mtDNA polymerase gamma)遺伝子は進行性外眼筋麻痺をはじめ,さまざまな表現型を呈しうるが,若年性パーキンソニズムも来しうる.L-DOPA有効,かつ深部覚障害がヒント.

Case 6;Malignant dural AV fistula
極めて高度な硬膜動静脈量.塞栓術後に症状は顕著に改善した.

Case 7;原発性抗リン脂質抗体症候群

Case 8; シデナム舞踏病様のエピソードを繰り返したモヤモヤ病
ivy sign はleptomeningeal high signal intensity on FLAIR imagesのこと.もやもや病の脳軟膜がFLAIRでびまん性に高信号を呈する.脳虚血に対する代償性の軟膜の血管,うっ血による軟膜の肥厚を反映していると言われている.

Case 9;耳の舞踏運動を呈したハンチントン病

Case 10; North sea progressive myoclonus epilepsy
進行性ミオクローヌスてんかんの一つ.常染色体劣性遺伝.小児期発症し,ミオクローヌスてんかんの出現前に小脳失調を呈する.GOSR2(Golgi SNAP receptor complex member 2)遺伝子変異.

Case 11;GLUT1欠損症
ケトジェニックな食事(糖質制限食)で治療し,症状は軽減した.

Case 12;compulsive respiratory stereotypies

Case 13;良性インスリノーマに伴う低血糖発作

Case 14;Sandifer症候群
裂孔ヘルニアと斜頸を呈する症候群.


パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@東京

2013年10月13日 | パーキンソン病
「第7回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月10日から12日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまで幅広く勉強できる学会で,ビデオセッションも充実しています.とくに美味しいディナーとお酒をいただきながら,各自が経験した症例のビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションはとても楽しいです.エキスパートの先生方の意見を聞き,このように考えればよいのかと見るポイントが分かってきます.来年は京都での開催ですので,ぜひ若手の先生はご参加をご検討ください.さて以下に今年のイブニングビデオセッションの症例一覧と,レクチャーのうち印象に残ったことを記載しておきます.

【MDSイブニングビデオセッション】
1. 高齢者にみられた造影剤(オムニパーク)投与後の全身のミオクローヌス様不随意運動
→ Transient myoclonic state with asterixis (TMA)
2. 脳梗塞後の手首を回内・回外を繰り返す不随意運動
→ Supplementary motor area (SMA) seizure
3. 運動機能が良い時期の嚥下障害,誤嚥による窒息,肝脾腫
→ Nieman-Pick disease type C(慢性神経型)
4. ジストニアと両側線条体壊死
→ Mitochondrial ND6遺伝子(LHONの原因遺伝子)変異 視神経障害を伴わないジストニアタイプ
5. 高齢発症の姿勢時・動作時の震え
→ IgMパラプロテイン血症に伴うニューロパチーとCMT2N合併例
6. 肩をすくめるようなジストニアがアキネトンで短時間に改善
→ ハロペリドール静注による急性ジストニア
7. 髄膜炎脳炎にともなう拮抗失行
→ 再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis: RP)の中枢神経病変
8. 顔面・頸部のhyperkinetic movement
→ 門脈-静脈シャントによる肝性脳症.不随意運動はnegative myoclonusだけではなく,このタイプもある.
9. タオルを投げるという動作の開始が困難
→ Corticobasal syndrome(CBS)に伴う一種の失行
10. Flutter-like oscillation + 起立時の震え(起立性振戦より周波数は小さい)
→ 肺がんに伴うparaneoplastic syndrpome
11. 足関節を含む両下肢の痛みを伴うゆっくりとした不随意運動
→ Painful legs and moving legs.つま先だけに限局しないタイプがある.moving toesではなく,moving legsと言われるタイプがある.
12. Painful legs and moving toes様の不随意運動
→ 偽アテトーシスであり,MCTDに伴う後索病変に伴うもの
13. 立位時の両下肢の振戦(5 HZ)
→ 老化に伴う下肢の筋力低下
14. 倒立(逆立ち)が可能なパーキンソニズム
→ Pure akinesiaで,手には症状がでにくく,昔から逆立ちが得意な人ではできることもある
15. 釘を打とうとするものの,途中で振り落とした手が止まり,釘が打てなくなった大工の棟梁
→ Efferent apraxia → CBS
16. 首下がり+パーキンソニズム
→ エルデカルシトール(活性化ビタミンD)内服後発症した薬剤性,ないし電解質性
17. 舌,手,首における1-2 Hzのphasic なジストニア(両親いとこ婚)
→ 心因性?遺伝疾患(原因不明)?


【メモ】
ドパミン脱神経が進むと血中濃度に合わせて線条体ドパミン濃度が変動する理由は,セロトニン神経細胞がレボドパをドパミンに変換するようになるためである.セロトニン神経細胞もAADC, VMATを持っていてレボドパをドパミンに変換できるが,とり込み機能を持つD2受容体とDATがないため,濃度のコントロールができない.このため血中濃度に合わせて,線条体のドパミン濃度も変動し,これがpeal dose akinesiaを引き起こす

抗VGKC抗体脳炎は,faciobrachial dystonic seizureを呈する時期がある.これが意識障害や転換に先行するのでこれを見逃さず,この時期に治療を開始する.数秒のジストニアと不規則なミオクローヌス様振戦,口部自動症が出現し,ステレオタイプな所見である.立毛痙攣(自律神経)や,易怒性・性格変化も出現する.1日の頻度が10-50回と多く,持続時間が短く2-3秒で終わる.抗てんかん薬は効きにくくステロイド治療を要する.ちなみに自己抗原はVGKCではなく実際はLGI1蛋白(分泌型蛋白で神経伝達に関与)である(Morvan症候群ではCaspr2).

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は,常染色体優性遺伝(表現促進現象がみられることあり)を呈する成人初発てんかんで,日本人に多い.多くは全身性強直間代発作だが,手の振戦,ミオクローヌスを混じる(myoclonus様に見えるcortical tremor).進行は極めて遅い.光過敏性あり.Giant SEPを認め,大脳皮質の興奮性がある.珍しい病気ではなく,一般のてんかん患者に混じって見逃されている.

DBSの長期経過例の症状で問題になるのは,発語(小声,聞き取りにくい),歩行,姿勢反射といった体軸症状である.とくに手術時の高齢,手術までの罹病期間が短い症例は,体軸症状が出現しやすい.更に長期化すると認知機能が低下する.治療抵抗性の体軸症状が出ているような進行期にDBSを行っても,患者さんの満足度は低い.STN-DBSでは言語流暢性が悪くなる人がいる.

ジストニアに対するDBSは,拘縮・変形が出てからでは遅い(効果に限度が出てしまう).Meige症候群では,ボトックスが効かない症例でDBSの適応になる.同様に遅発性ジストニアでもボトックスが効かない症例では適応になるが,自殺の原因となるため,うつを背景疾患と認める症例では精神科治療をやめさせてはいけない.

脳血管性パーキンソニズムは,パーキンソニズムの原因として,パーキンソン病に次いで2番めに多い.下半身優位の症状が主体で,寡動,固縮,小刻み,すり足を両側性に呈する.振戦が少なく,幻覚がない.錐体路症状,仮性球麻痺,尿失禁,認知症を伴う.MIBGは保たれている.ドーパには約半数が反応するが効果は乏しい.基底核,深部白質,橋の病変は,寡動,固縮,歩行障害,姿勢不安定性に関与すると考えられる.中脳出血後遺症でもパーキンソン病に似た症状を呈する症例も存在する.

脳血管性PSPとは,核上性垂直性眼球運動障害,姿勢反射を呈する多発梗塞症例を指す.前頭葉,視床,基底核を含む多発病変により生じる.タウ病変なし.中脳,視床下核に血管性病変なし.核上性垂直性眼球運動障害の責任病変は不明.

MR parkinsonism index;MRPI(Radiology 2008; 246, 214-21)は,パーキンソン症候群をMRIにより鑑別のための簡便な方法で,計算式は以下のとおり.
pons area/midbrain area × middle cerebellar peduncle width/superior cerebellar peduncle width
しかしPSP-Pなどの亜型やCBSも加わってくると必ずしも診断に有用とはいえない.

DLBでは幻視(人物,小動物,虫が多い),錯視(変形視,動揺視,パレイドリア),誤認妄想(自宅が自宅でないなど)がよく観察される.パレイドリアとは,古壁のしみが動物に見えたりするように,対象が実際とは違って知覚されることで,幻視の代理マーカーになる.パレイドリア課題を作成したところADよりDLBで有意に多い結果となった.

2007年にMDS-UPDRSができた.1987年に完成したUPDRSは評価基準が曖昧だったり,非運動症状が項目に含まれていないためMDS-UPDRSが作成された.よって軽い症状を評価し分けるようにし,曖昧な評価項目もなくすことを目指した.設問は42から50に増加され,多面的な振戦の評価,患者・介護者による評価,ジスキネジアによる機能的影響が追加された.すべて5段階評価になった.評価時間は30分程度.パート1:非運動症状,パート2:日常生活機能,パート3:運動症状,パート4:運動合併症である.

123I-FP-CIT(イオフルパン)DaTSCANは,製造承認が降りた段階.効能・効果は「パーキンソン症候群,レビー小体型認知症」となった.客観的に基底核,中脳等のドパミン終末の変化(シナプスでの再吸収)を画像化する.ドパミントランスポータートレーサーで,コカインにとても近い構造.パーキンソン病では尾状核を残し左右差を持って減弱する.

Camptocormiaは股関節で曲がるタイプと胸腰椎レベルで曲がるタイプ(上腹部型)がある.後者は上腹部に水平の皮膚陥凹が見られる!リドカイン筋注による効果の検討の結果,外腹斜筋が関与している.リドカイン1% 5 ml 5日間連続両側外腹斜筋投与+リハビリは有効.Antecollisでは斜角筋に異常放電が見られ,やはりリドカインが有効.これらの症状は早期発見が大切(早期なら自分で鏡を見るなどして矯正できるかもしれない).数週間で急速に進行する症例は,気がついたら早く主治医に連絡するよう指導する.リハビリ,カラー使用を考慮する.

不随意運動と鑑別になる痙攣性てんかんは,①全般てんかんのミオクロニー発作,②部分てんかんの単純部分発作である.逆にミオクローヌスにはてんかん性と非てんかん性がある.
てんかん性ミオクローヌスには皮質反射性,網様体反射性等があり,筋放電は表面筋電図で通常50msec(長くて100msec),これに対し非てんかん性は50-200, 300mscと長い点で鑑別可能.またてんかん性ミオクローヌスの筋活動は常に同期性で,関連する脳波異常がある.

Limb-shaking TIAsは,坐位や立位をとると出現する.抗てんかん薬は効かない.虚血によるcortical epilepsyらしい.


MDS2013 Annual Video Challenge@ Sydney

2013年07月02日 | パーキンソン病
Movement Disorder Societyが主催する国際学会に初めて参加した.学会の企画のなかで一番盛り上がるのが,世界各国の学会員が症例ビデオを持ち寄り,運動障害のエキスパート5人が,その特徴や診断を議論するVideo Challengeだ.最も興味深い演題が後日表彰されるため,各国プライドを掛けてこのイベントに臨むそうだ.珍しくて役に立つ症候のビデオが見られるだけでなく,エキスパートがどのように診断に迫るのかを学ぶことができる.6月19日の夜,ワインや軽食が振舞われたあとの午後8時から開始され,終了は10時を過ぎていた,しかしホスト役のAnthony Lang,Kapil Sethi両先生の司会は軽妙で,また症例も分からないものばかりで,あっという間に時間が過ぎた.さてどんなビデオが提示されたが,12例をご紹介したい.言葉による説明では分かりにくいと思うが,ぜひキーワードを頼りに診断を考えていただきたい(結構,マニアックですが・・・).

【問題編】
Case 1(英国)
18歳男性.眼球が上下や左右,寄り目などに固定される.2~3日に1回発作的に起こり,数分から数時間続く(Episodic Oculogyric crisis).発作時に口に手を入れるような緊張や異常な姿勢を伴う.てんかん?ジストニア?髄液5-HIAAが低下.脳波異常なし.

Case 2(カナダ)
46歳男性,ジストニアによる開眼困難,アパシー,構音障害,applause sign陽性,失調歩行,頸部ジストニア,視運動性眼振消失,MRIにて両側基底核のT2低信号(パンダ様),皮膚生検にて診断.

Case 3(アイルランド)
41歳,流暢性の低下が見られるする原発性進行性失語(FTD的),小声,小字症,認知機能低下,MRI上の白質の中等度の信号変化.

Case 4(ドイツ)
25歳女性,3年の経過で動作誘発性の失調歩行,腱反射消失,MRIでは歯状核,錐体路,後索に異常信号,MRSにて乳酸ピーク,アセタゾラミド有効.

Case 5(インド)
23歳男性,13歳視力低下,14歳全身痙攣,23歳不眠,記憶障害,視神経萎縮・網膜症,手をよく洗う強迫性障害,ミオクローヌス,舞踏運動,パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome),MRIでは大脳萎縮と白質変化.

Case 6(スペイン)
家族性の認知症+パーキンソニズム(akinetic rigid syndrome).後者はL-dopa抵抗性.
CTでは小脳+大脳萎縮,軽度の白質の低吸収域,MRI拡散強調画像でprion病様高信号

Case 7(オランダ)
27歳男性,本態性振戦(ミオクローヌス的),ジストニア,軽度の自閉症,気管支喘息,失調,遺伝子診断でFXTASは否定.

Case 8(日本)
52歳女性,9歳,頸部不随意運動,12歳右手→全身へ波及,47歳失調,激しい運動時の振戦,家族歴なし.進行性ミオクローヌス+失調を主徴とする.

Case 9(国名?)
32歳男性,家族内類症あり.13歳,進行性の筋緊張亢進,痙性のため膝折りできない,嚥下障害.

Case 10(ブラジル)
59歳女性,急性発症の他人の手徴候.

Case 11(英国)
45歳男性,奇形症候群(副甲状腺・胸腺無形成症,特有の顔貌),病初期はL-dopa有効のパーキンソニズム(左手の無動・振戦).

Case 12(国名?)
性染色体劣性遺伝,急性溶血性貧血,痙攣,認知機能低下.


【解答編】
Case 1;AADC(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症
常染色体劣性遺伝の先天性代謝異常,Oculogyric crisisと呼ばれる異常眼球運動を発作性に呈する点が特徴的.

Case 2;神経セロイド・リポフスチン症(NCL)
知能・運動の退行,てんかん,視力障害を主徴とする.遺伝子異常により10のサブタイプに分類されているが,乳児型,後期乳児型,若年型が主要な臨床病型であるが,成人例もありジストニアを呈する.病理学的には,自家蛍光を有するリポフスチン顆粒のリソソーム内への蓄積と神経細胞の変性を特徴とする.

Case 3;神経軸索ジストロフィーを伴う遺伝性白質脳症(HDLS)
Colony stimulating factor 1 receptor(CSF1R)遺伝子変異による,最近,注目されている白質ジストロフィー.

Case 4;Leukoencephalopathy of brainstem and spinal cord involvement and elevated lactate (LBSL; DARS2 mutation)
LBSLは稀な常染色体劣性遺伝疾患で,原因遺伝子はmitochondrial aspartyl-tRNA synthetase(原因遺伝子DARS2は2007年に同定).進行性痙性失調症を呈し,MRIでは複数のlong tractの異常信号を伴う白質病変が特徴的.

Case 5;亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)
麻疹に感染してから数年の無症状の期間を経て,神経症状が出現・進行するミオクローヌス,舞踏運動,アテトーゼ,失調,痙攣.,髄液麻疹ウイルスIgG陽性.

Case 6;Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(Y218Nミスセンス変異)
GSSの特殊な病型で,アルツハイマー病やFTDの診断基準を満たしうる認知症を主訴とし,かつパーキンソニズムを呈する病型.

Case 7;Klinefelter症候群
X染色体過剰の47, XXYの染色体構成をもつ,不随意運動(ミオクローヌス,ジストニア)を合併しうる.

Case 8;Mutations in SCA6 and MRE11 (Ataxia telangiectasia-like syndrome)
Ataxia telangiectasiaは常染色体劣性遺伝,責任遺伝子はATMでDNA損傷修復反応に関与する.二本鎖DNA切断はMre11/Rad50/NBS1(MRN複合体)によって感知され,ATMを損傷の場に誘導する.このMre11に遺伝子変異を原因とする疾患はataxia-telangiectasia-like disorder (ATLDと呼ばれる.本例ではさらにSCA6の遺伝子変異も合併し(double mutation),失調症状に関与したものと考えられる.

Case 9;Spastic ataxia-1(SPAX1 mutation)
常染色体優性遺伝形式の痙性と失調を主訴とする.

Case 10;クモ膜下出血

Case 11;22q11.2欠損症候群
遺伝子異常に起因する奇形症候群の一つ.かつてCATCH22(Cardiac defects,Abnormal facies,Thymic hypoplasia,Cleft palate,Hypocalcemia)という名称で知られていた.有名なDiGeorge症候群(副甲状腺・胸腺無形成症)は本症候群の一部.知的障害以外に,パーキンソン病の危険因子となることが近年,報告された.

Case 12;ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症
伴性劣性遺伝,乳児期から溶血性貧血,認知機能低下,痙攣,脳卒中を来す。血液異常に乏しく,筋痙攣,繰り返すミオグロビン尿のみをみる筋型もある.

iPS細胞による細胞療法の現状

2013年04月15日 | パーキンソン病
日本内科学会総会のiPS細胞に関するシンポジウムを拝聴した.5人の演者による聴き応えのあるシンポジウムであったが,とくにパーキンソン病と,近々,臨床試験が始まる予定の加齢黄斑変性症の講演をとくに楽しみにして参加したので要旨をまとめてみたい.

A.パーキンソン病移植治療

胎児由来の細胞(ES cell)を用いた移植治療は歴史があり,すでに有効であることが分かっている.しかし問題点として①ひとりの治療に複数の個体(胎児)が必要であるという倫理的問題と,②治療後,ジスキネジアが起こりうるという問題があった.後者は移植細胞の純度が影響している可能性が考えられている.

問題点の①を解決できるiPS細胞利用の方向に研究が進んでいる.iPS細胞の利点としては,①培養により無限に増やせること,②必要な細胞(ドパミン神経細胞)だけを増やせること,③拒絶反応を心配しないで済む自家移植が可能であることがあげられる.安全な細胞を作る技術が日進月歩で開発されている.

これまでパーキンソン病モデルとして,カニクイザルのMPTPモデルにiPS細胞由来のドパミン神経細胞を投与し研究を行なってきた.治療1年後でも有効性は持続,組織的に移植細胞は生着し,iPS細胞に伴う腫瘍形成はなし.さらにPETを用いて,移植細胞の機能の有無を確認したり,腫瘍化した細胞を画像化したりできるようになった.

iPS細胞治療の課題としては,①合成基質によるドパミン神経誘導(通常,iPS細胞の培養にはマウスフィーダー細胞を使用するがこれを使用しないようにする),②ドパミン神経細胞の純化(未分化な細胞が残ると奇形腫が形成されるため),③霊長類を用いた評価系,の3つが挙げられる.しかし,これらは技術的にはほぼクリアしている.

治療の対象は孤発性パーキンソン病である.家族性パーキンソン病は別の病態と考えているため,現在は対象外である.今後,1~2年かけて有効性,安全性を検証する,そして平成27年をめどに臨床研究を開始したい.

B.加齢黄斑変性症

iPS細胞の臨床応用が最も早いと考えられている疾患である滲出型加齢黄斑変性症に対する現状の報告.まずこの疾患で障害される黄斑は,網膜の中で解像度が最も高い部分であり,視細胞の密度が高い.その視細胞をメンテナンスする細胞が網膜色素上皮で,いわば視細胞の元気を回復する作用をもつ.

滲出型加齢黄斑変性症では,網膜色素上皮が加齢で劣化し,その結果,新生血管が形成され,血漿成分が滲出し視力が低下する.数年前から抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬で初めて治療ができるようになった.しかしこの治療は1回10数万円かかり,かつ数カ月ごとに繰り返す必要がある.薬剤は海外製で,医療費はみな海外の製薬会社に行ってしまう.以上の理由で,iPS細胞から作った網膜色素上皮を移植する根本的療法を行いたいと考えた.

自家iPS細胞由来網膜色素上皮シートの品質規格と安全性の評価を徹底的に行なっている.品質は遺伝子発現パターンから見ているが,由来が異なるiPS細胞から作った場合も同一のパターンとなっている.安全性は,造腫瘍性試験を徹底的に行って確認している.網膜色素上皮は腫瘍を作りにくい.そもそも目では腫瘍はできにくく,万が一,腫瘍化してもOCT(光干渉断層計)で確認ができる.万が一の時はレーザーで焼灼できるので,何重にも安全弁があり,臨床応用をしやすい.

臨床試験は従来の治療でも効果がなかった6名を予定している.臨床試験は,網膜色素上皮シートを作るのに最低10ケ月かかる.主要評価項目は安全性の確認!である.有効性の評価は副次的評価項目となる.これは多くの研究者はiPS細胞による細胞治療は危険性があると考えているため,これを覆すことに大きな意義があると考えている.移植手術は手技的に現在の眼科医の10分の1ができるレベルのものである.また今後は自家移植より,iPS細胞バンクによるストック細胞を用いた他家移植が主流になるものと思われる.

再生医療には法律の整備が必要だが,日本は世界をリードしている.米国,欧州の良い制度を取り込み世界で最高のシステムができつつある.

しかしiPS細胞治療の効果はいきなり出るものではないことを強調したい.失明の人をロービションにするぐらいの効果である.再生医療は夢の治療ではない.期待し過ぎは困る.現在,効果は乏しく,費用が大きくかかる状況である.しかし,ライト兄弟の飛行機が,現在ではジェット機に発展したようにiPS細胞医療も大きく変わる可能性がある.効果が大きくなり,費用も下がると思う.これからの10-20年,効果が乏しく,かつ費用がかかる当面の時期をいかに支えていくかが大切である.

C. 印象
パーキンソン病におけるiPS細胞を用いた細胞治療の臨床試験の開始は案外早いのだと驚いた.成功を期待したいが,L-dopaなど抗パーキンソン剤を用いた内服治療と良い面,悪い面でどのように異なるのか,とくに抗パーキンソン剤で問題となる副作用は細胞療法ではどうなるのかという議論が必要と感じた.移植後長期的に発がんゼロという条件がどれだけクリアされているのかも重要と感じた.

また加齢黄斑変性症の講演での「再生医療は夢の治療ではない.期待し過ぎは困る」という発言はやはり印象的であった.再生医療に対する人々の期待はきわめて大きいが,iPS細胞療法の現状で期待される効果と問題点を正しく理解し,かつ見守っていく必要があると感じた.

パーキンソン病にかかりやすくなる要因

2013年01月06日 | パーキンソン病
パーキンソン病は65歳以上に限ると,約1%の有病率と言われる頻度の高い疾患である.原因は不明であるが,発症の危険因子,逆に発症しにくくなる因子が報告されている.具体的には,過去10年でパーキンソン病発症の危険因子に関するメタ解析が小規模のものながら報告され,喫煙,コーヒー,殺虫剤への暴露,消炎鎮痛剤(NSAIDs)等が注目されるに至った.しかしながら大規模で包括的な危険因子の検討は行われていなかった.今回,大規模なsystematic review,メタ解析が英国から報告されたので紹介したい.

まず方法であるが,検討に含める論文の基準としては,①少なくともひとつの危険因子か,パーキンソン病と診断される前の非運動症状について検討していること,②パーキンソン病発症の相対危険度ないしオッズ比を求めた研究であること,③データは問診や通常の検査で容易に得られる項目であることの3点とした.論文の検索はMEDLINEとPubMedを用い,MeSHにより以下の検索式で論文をピックアップした.

Constipation OR Sleep Disorders OR Olfaction Disorders OR Smoking OR Color Vision OR Coffee OR Erectile Dysfunction OR Depression OR Anxiety OR Mood Disorders OR Hydroxymethylglutaryl-CoA Reductase Inhibitors OR Anti-Inflammatory Agents, Non-Steroidal OR Solvents OR Pesticides OR Body Mass Index OR Family OR Risk OR Risk Factors AND Parkinson Disease

3856の論文が検索され,上記の基準を満たし,除外基準(多いため省略)を満たさない202の論文に対しsystematic reviewを,173の論文に対してメタ解析を行った.

さて結果であるが,とくに強い危険因子(オッズ比を2倍以上)は以下のものであった.


パーキンソン病の家族歴あり・・・・・オッズ比4.45,95%信頼区間3.39–5.83
パーキンソン病が一親等以内に存在・・・・・オッズ比3.23,95%信頼区間2.65–3.93
振戦の家族歴あり・・・・・オッズ比2.74,95%信頼区間2.10–3.57
便秘・・・・・オッズ比2.34,95%信頼区間1.55–3.53
喫煙歴・・・・・オッズ比0.44,95%信頼区間0.39–0.50

ほかにオッズ比2倍に満たないものの,危険度を有意に高めるものとして,不安・うつの既往,殺虫剤暴露,頭部外傷既往,田舎に住むこと,βブロッカーの使用,農業,井戸水を飲むことが挙げられた.逆に危険度を有意に低下させるものとしては,コーヒー,高血圧,消炎鎮痛剤(NSAIDs),Ca拮抗薬,アルコールが挙げられた.
影響がない因子としては,糖尿病,がん,経口避妊薬,外科的閉経,ホルモン補充療法,スタチン,アセトアミノフェン,アスピリン,茶,全身麻酔の既往,胃潰瘍が挙げられた.

以上より,もっとも大きな影響をもたらすものは,パーキンソン病や振戦の家族歴,非運動症状の便秘,そして喫煙歴がないことという結果になった.本研究は初めての大規模・包括的な検討であるが,著者らは英文で書かれた論文に限定して検討したことを問題点として挙げているとおり,上記の結果が即,日本人にも当てはまるかは分からない.

話はそれるが,最後にsystematic reviewとメタ解析の違いを記載したい.論文のreviewにはおおまかに3つの段階がある.
(1) Narrative Review・・・いわゆるその領域の権威ある先生のご意見.都合の良い論文のみ取り上げられ,バイアスがかかる可能性も否定できない.
(2) Systematic Review・・・文献検索方法の記載があり,すべての論文を網羅したもの.
(3) メタ解析・・・統計的手法を用いて,データを量的に統合したもの.

つまり図のような関係になる. 

Meta-analysis of early nonmotor features and risk factors for Parkinson disease(オープンアクセス論文)
Ann Neurol 72, 893–901, 2012