Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス@京都

2014年10月04日 | パーキンソン病
「第8回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス」が10月2日から4日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまであり,1日参加するだけでも幅広く勉強できる学会です.ビデオセッションも充実しています.美味しいディナーとワインをいただきながら,各自経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,不随意運動や診断・治療について議論するのは何とも贅沢です.エキスパートの先生方の意見を聞き,見るべきポイントが分かります(ただ,本家MDSのVideo Challengeもそうですが,最近,判明した新しい遺伝性疾患についての知識をupdateしておかないと診断を当てるのは難しいです.要勉強).来年は東京での開催ですので,ぜひ若手の先生はふるってご参加ください.
さて今年のイブニングビデオセッションの16症例一覧を記載しておきます.

1.水頭症に対するVPシャント後に以下の所見を呈した62歳男性.
輻輳眼振,上方視制限,見当識障害,発語障害.パーキンソニズム.画像はslit ventricle(脳室がスリット状に細くなっている所見).

診断:中脳水道狭窄症と,over shunt 後に生じたParinaud徴候

2.左上肢のゆっくりとした回内回外運動が持続する81歳女性.
3年の経過.左手指の運動障害にて発症.L-DOPA内服後,上記の異常運動が出現.左筋強剛と左肘の軽度の拘縮(hemiparkinsonism).右手指にはミオクローヌス.

診断:舞踏病アテトーシスを呈したCBS?

3.両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併したMiller-Fisher症候群の35歳女性.
先行感染の1週後,失調歩行,手指しびれ,下肢脱力,構音障害,眼球運動障害(外転制限)と複視,腱反射消失を認め,さらに両上肢,腹部の電撃的な不随意運動を合併.GQ1b,GT1a,GD1b抗体陽性.

診断:脊髄性ミオクローヌスを合併したMiller-Fisher症候群+α(Stiff-person症候群の合併?新しいサブタイプ?)

4.動作時の下肢不随意運動を呈した33歳男性.
学童期発症.サッカーボールを蹴ろうとすると,足がガタガタして転んでしまう(動作時ミオクローヌス).お皿を運んでも投げてしまう.構音障害.Cherry red spotあり.レベチラセタムにてかなり改善.

診断:CTSA(カテプシンA)遺伝子変異を伴うガラクトシアリドーシス

5.上肢の振戦が主徴とした26歳女性.
書字困難,小歩症,顔のこわばり,軽度の筋強剛.T1強調画像で基底核および中脳が高信号.

診断:Wilson病

6.精神発達遅滞,てんかんを呈した2症例(9歳,25歳)

いずれも精神発達遅滞,てんかんを呈し,レット症候群様の手の常同運動,痙性,失調,パーキンソニズムを合併.頭部MRIでは,異常な脳内鉄蓄積.特徴的な中脳の異常信号(図のC;Am J Neuroradiol. 33:407-414,2012)

診断:β-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN).別名Static Encephalopathy of childhood with Neurodegeneration in Adulthood (SENDA).オートファジー遺伝子WDR45遺伝子変異,X連鎖優性(男性致死)



7.嚥下障害,歩行障害を呈した26歳女性.
いとこ婚を認める.ジストニアに伴う嚥下障害,歩行障害に対し,アーテン8mgおよびL-DOPAが有効.

診断:SRP遺伝子変異.Sepiapterin reductase欠損症(ビオプテリン合成に関わる酵素).脳性麻痺と誤診されることが多いが,L-dopa投与で劇的な治療効果があるため見逃してはならない(Ann Neurol. 2012;71:520-530)

8.翼状肩甲とパーキンソニズムを呈した51歳女性.
父類症.43歳から体幹筋の筋力低下,翼状肩甲,パーキンソニズム(筋強剛,仮面様顔貌).乏しい病識.筋生検でrimmed vacuoleあり.MRI上,大脳皮質萎縮.

診断:Valosin Containing Protein (VCP) 遺伝子変異を認めるInclusion Body Myopathy associated with Paget's Disease of Bone +/- Frontotemporal Dementia(IBMPFD).ミオパチー,前頭側頭型認知症,運動ニューロン病,パーキンソニズムを呈する.

9.頭頸部,振戦を呈した44歳女性.
MRI上,中脳,両側視床,脳梁後部,小脳に異常信号.

診断;Wilson病(5もそうであったが,振戦を主徴とし,画像も教科書的でないWilson病が存在することを認識すべきということか)

10.右下肢の規則正しいゆっくりとした不随意運動を呈した43歳男性.
上記不随意運動による歩行障害,言葉の出にくさ,全身けいれんを呈した.こども2人も転換.C-reflex陽性.抗GluR2抗体陽性.MRI頭頂葉異常信号.

診断:皮質性反射性ミオクローヌスを呈した(自己免疫性?)髄膜脳炎.

11.2歩行時に足がもつれる9歳女性.
生後3ヶ月からてんかん,幼児期から足のもつれ(運動誘発性ジストニア),IQ61,腱反射亢進,足クローヌス,髄液糖低下,ブドウ糖にて歩行障害は改善.

診断:グルコーストランスポーター1欠損症症候群(Glut1 deficiency syndrome).常染色体優性遺伝.90%にSLC2A1(GLUT1)遺伝子のヘテロ接合性変異(大多数がde novo変異).トランスポーター欠損のため,グルコースが中枢神経系に取り込まれないことにより生じる代謝性脳症.慢性低血糖状態が持続することによるてんかん,神経・精神的退行が進行する.通常,乳児期に診断されるが,この例のような軽症例では診断が遅れる.

12.転倒で顔面強打後,動けなくなった48歳男性.
転倒で顔面強打後,動けなくなった.垂直方向眼球運動制限,顔面と四肢の脱力,腱反射低下.しばらく体が動かなかったが,完全回復した.再発エピソードあり.

診断;glycine receptor α1 subunit (GLRA1)遺伝子変異を伴うhereditary hyperekplexia(遺伝性驚愕反応,びっくり病)

13.アテトーゼ様不随意運動を呈した糖尿病患者63歳男性.
もともと化膿性脊椎炎後遺症で寝たきり.顔面・上肢の発作性の短時間(2-3分の)アテトーゼ(ジストニア?),意識障害を伴う.

診断;原因不明(てんかん,低血糖,頸動脈狭窄に伴う血流低下などの可能性)


14.どもるようなしゃべりと記銘力低下をきたした37歳女性.
35歳にどもるような発語(口部ジストニア)にて発症.MMSE 17点.強制泣き・笑い,非典型パーキンソニズム,左錐体路徴候.MRI上,大脳白質病変,脳梁菲薄化.CT上,石灰化病変多発.

診断;colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R)遺伝子変異を伴うHereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids(HDLS)

15.小脳失調で発症し,多彩な不随意運動を呈した女性.
肺炎,めまい,耳鳴,四肢・体幹の失調,saccadic eye movement,食後に出てくるオピストトーヌス(後弓反張)を伴う激しい不随意運動(ミオクローヌス).

診断;myoclonic cerebellar ataxiaと言えるが原因未定.後弓反張はfunctional movement disorderか?

16.げっぷが止まらない46歳男子.
当初,自動車運転中に限ったゲップ.だんだん増えて一日中になった.クロナゼパム,芍薬甘草湯無効.首を触ったり,仰臥位になると消失した.

診断;前頸部から胸部に限局した,局所性ジストニアによるゲップ(常同性,感覚トリック).ボツリヌス毒素により治療し軽快した.

私個人は,オープニングセミナーにて,「パーキンソン病における外科手術への対応」について講演をさせていただきました.とても勉強になりました.以下,Slideをアップします.

パーキンソン病における外科手術への対応(SlideShare)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ALSを知ろう! | TOP | Cure PSPその1(患者会と寄... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | パーキンソン病