Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

現況証拠をつき付ける

2006-12-17 | マスメディア批評
マルク・ジーモンスの筆は、日本刀のように鋭く磨かれているわけでも、中華刀のようにしなやかでもない、ただ視界が良く効いている。そこから、極東が手に取るように恐ろしくつぶさに見える。

中華人民共和国のCCTV2で、大国の勃興を描いた教養シリーズ「大国の興亡」が大々的に放映されていると伝えている。そこでは、ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、日本、英国、ドイツ、ロシアにアメリカが描かれて、中国がここに何時の間にか仲間入りしている番組と云う。

ただの技術産業冷讃主義の告知なのか、暗礁に乗り上げた民主主義への認識を扱っているのか?と訝しげに胸中を覗いている。そしてふと思い出すのが天安門民主革命騒動に多大な影響を与えた「河の嘆き」の黄色い中国文化と青い西洋文化の交感である。そして今回のシリーズは、そのような反体制的どころか多かれ少なかれ政府の立場を代弁していると云う。

この番組は、エール大学のポール・ケネディー教授の同名の著書が下敷きとなり北京大学のシャン・シェンダン監修によるもので、数多くのインタヴューや影像を七つのチームで長期に渡り取材して制作している。そしてここで、中国の「勃興」が政府の公式見解である「発展」に代わって掲げられてきていると云う。

つまり、嘗てのように驚きを以って西洋の改革に学と云うのではなくて、その過ちから学ぼうと云う。であるから、プロレタリアートや非植民地としての視点は消え失せて、虐げられた階層や文化のルサンチマンではない、大国の歴史を刻む心がけを定めている。

そこで、19世紀の初頭からドイツ帝国の統一と成り立ちが、大きなお手本となっていると云う。先進国に遅れをとったドイツは、植民地主義者の春秋として、近隣国との軋轢の中で、関税同盟を実現したフリードリッヒ・リストを称える。そこでは、カール・マルクスは一言も述べられない。

ビスマルクの強力な指導の下、軍事強化し、強いプロシアを実現して、議会を相対化する彼の憲法が紹介される。ビスマルクの思慮深さは、その教育・大学そして社会政策と共に肯定的に光が当てられ、最後にナレーターは「ビスマルクは、遅れて発展する国家に対して、発展のモデルを提示した。どうすれば先進国を追い越せるかと云うモデルである。」と語る。

そして、彼が居なくなったあと、軍事の抑制と見解は失われ、戦後の西ドイツになって始めてそれが克服されるとして、ブラント首相がワルシャワで跪く姿が映し出される。一欠片の第三帝国の影像だけで東ドイツは完全に無視される。

この番組のインタヴューに顔を出す歴史学者ハインリッヒ・アウグスト・ヴィンクラー氏は、FAZの質問に答えて、「一年前の事だが内容は確認出来ていない」として、「判り辛いドイツ語で質問があり、虚飾されたドイツ像の真意も直接に感知できるものではなかった。」としている。「現在のEUの東方政策や対米国への態度をして、多種多様な言論に重きを置く西側を示した。」が、どれほど採用されたかは知らないとして、その制作の意図も分からず、ビスマルク像は私の見解とは正反対であるとする。

中国人がそこから何を学ぶか?それは、経済協力の重要さ、教育、技術革新、社会制度、平和な環境への価値観と現実と矛盾しているものも多い。

19世紀のドイツ統一は、同時に独立国家とその憲章の制定であったとして、「これほどまでに後進国がホモゲニーな力をもった例は無い」として番組は終わる。

ジーモンス氏は、中国が如何に外から見られているかと云う現況証拠となっていると結ぶ。

そして、ヴィンクラー氏は、「多政党主義が西洋の力であり、人権と市民の権利が西側の政治要素である。」ことを強調して、その破局を指して、

「確かにドイツの近代化の一部は、独立国家の創設によってなされたが、同時に 上 か ら の 改 革 は、その内部構造ゆえに他の先進国に比べ改革を遅らせて、重い担保となった。」と答えている。

改めて、ここでその内容を繰り返す必要は無い。ただ一言、この記事は極東の現況が良く見えている者にしか書けない内容である事を付け加えておく。



参照:
ポストモダンの貸借対照表 [歴史・時事] / 2005-09-02
終わり無き近代主義 [文学・思想] / 2005-09-03
世界の災いと慈善活動 [ マスメディア批評 ] / 2005-11-29
革命的包容政策の危機 [ 文化一般 ] / 2006-10-11
三角測量的アシストとゴール [ 歴史・時事 ] / 2005-07-01
野蛮で偉大な時の浪費 [ 歴史・時事 ] / 2006-12-06
「黄禍」の真意 [ 文学・思想 ] / 2006-10-12
古くて新しい赤い賄賂 [ ワイン ] / 2006-11-21
温暖化への悪の枢軸 [ マスメディア批評 ] / 2006-11-17
俺のものは俺のもの [ 歴史・時事 ] / 2006-05-26
脱資本主義へのモラール [ マスメディア批評 ] / 2006-05-16
根気強く語りかける [ 文化一般 ] / 2005-11-17
神をも恐れぬ決断の数々 [ マスメディア批評 ] / 2006-11-22

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