Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

俺のものは俺のもの

2006-05-26 | 歴史・時事
ドイツ連邦共和国政府の対中華人民共和国政策は正常化して来ている。先日の首相の腰掛訪問は、経済界から非難されていたが、前任者のようにセールスマンを務めるわけにはいかない。個人的な胡錦濤主席との朝食会と食後の散歩も執り行われたようだが、終始事務的な雰囲気で日程終了したようだ。同行を希望した企業家も、その切り詰められた日程から半数以下に絞られた。

特にジーメンス社などの超特急列車には、これ以上一億ユーロ相当の税金を無駄にするべきではないので慎重な構えは当然であろう。BASF社の天津基地などよりもイランなどからのエネルギー供給安全保障に関わる問題は、政治的な重要課題であるに違いなく、「中国は国益以上に国際貢献を考えなければいけない」とする表明は重要である。シュレーダー前首相の市場経済重視の取り組みよりも遥かに国民経済重視である。

それほどに、中国の野望となりふりかまわずの手法を無視出来なくなって来ている。今回の訪問に先駆けてドイツ連邦工業会が会員に示した中国投資・貿易のガイドラインが全てを語っている:
  • 十分に完成したテクノロジーを供給する事。
  • テクノロジーを供給しても肝心な特許は控える事。
  • 中国でのプロジェクトに限った、時間的制限のあるテクノロジーを移植する事。
  • 製品は部分集合形態として、下請けは各々の部分のノウハウを受け取るようにする。
  • 下請けがその製品を第三者に売却出来ない旨を契約書に謳う事。
  • 肝心の構成要素の機能は、本社のみによって開発・完成されて、全体のシステムに統合されて受け渡されるべきである。
  • 部分集合の統合化とシステム全体のテストは、本社でのみ履行される事。
  • ノウハウや資料、取引先、コンセプト、戦略、アップデートの情報などは、どうしても必要なときにだけ下請けに引き継げ。
  • 技術的資料にはロゴなどを付けるな。設計図などを、コード化しないメールで送るような事はするな。
  • データの集積はドイツ国内で行う事。中国からの社内アクセスをさせるな。
  • デザインの施設は自社社員が常置する部屋を用意する事。多く違った施設や営業所で仕事をさせて、全体像を見せないようにする事。
  • 技術的質問に対して技術者は細心である事。
  • 注文を選ぶ事。
  • 自己のテクノロジーの保護を旨とした注文不成立の営業を責めてはいけない。
これらの注意書きで、首相が咎める中国の技術泥棒を防ぐようにしようと言うのである。この声明が今回の中国訪問を事前に決定していた。

知的創造権保護に関して、胡錦濤主席は、「我々も重視しているんですよ、なんせ我々の技術が、いづれ守られるようになるのですから。」とニヤニヤとしたようだ。

何れにせよEUだけでなく、各企業がこうした基準を協調一貫して守っていくべきであろう。中国は、イラン石油の一人締めをして、国際的な政治的配慮を潰して行く国家であるから注意が必要である。

また、営利優先の企業家にそのような倫理を期待するのは間違えで、特に雇われ企業家には、将来の経済など全く関心がないのは当然である。



参照:
脱資本主義へのモラール [ 歴史・時事 ] / 2006-05-16
終わり無き近代主義 [ 文学・思想 ] / 2005-09-03
三角測量的アシストとゴール [ 歴史・時事 ] / 2005-07-01
根気強く語りかける [ 文化一般 ] / 2005-11-17

コメント (6)    この記事についてブログを書く
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6 コメント

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メルケルさん応援してます (肉じゃが)
2006-05-27 18:09:43
早い時期に日本にもメルケルさんのようにしっかり国益を考え、主張できる指導者が現れ、日本が名実ともに、先進独立国となることを願ってます。小泉さんが、経済同友会の靖国神社参拝についての提言を聞いておくに留めたのは評価するが営利優先の企業と外交の倫理は違うとビシッと言って欲しかったな。



シュツッツガルトに幼友達がいますが、フランス派です。
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国民の合意を正しくバランスを採って代弁 (pfaelzerwein)
2006-05-28 05:34:53
肉じゃがさん、コメント有難うございます。



「営利優先の企業と外交の倫理は違うとビシッと言う」-仰る通りですが、これがなかなか出来ない。



それで、今回の訪問も財界筋には不満が多い訳です。しかし、前任者と比べれば現首相は大企業首脳との定期的な懇談会も行っていて意志の疎通が出来て徹底しています。選挙前に示していたような経済成長と税の自然増収の経済活動の自由よりも、社会的責任(国民経済戦略)を重視しています。



実際、現首相が対中国には厳しい見解を持っていたのは選挙戦前から知られていました。また当時の極東アジア専門家の講演でも、前任者の政策の無い外交が批判されていました。



現首相の政治能力は、この実際的な原理原則の徹底と微妙な調整力にあって、寧ろ合理的なSPD本来の政策基盤に乗っかっているようです。



云わばこれが国民が選択した政策と云ってもよいのでしょう。増税や原油値上げの経済の閉塞感はありますが、そうした状況の中で「他には選択の余地が無いほどの合理的な舵取り」をするのが現内閣と云ってもよいでしょう。



敢えて繰り返しますが、選挙民も自らが選んだ結果を受け入れて、辛抱しなければいけません。少なくとも、現首相のように国民の合意を正しくバランスを採って代弁してベストを尽くしている限りはです。ボナパリスと云われた強引な指導力の前首相の手法とは大分違います。
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首相の評価よくわかります (蓬莱の島通信ブログ別館)
2006-05-29 10:57:44
TBありがとうございました。記事を拝見して、メルケル首相は1日に満たない訪中でも、万全の準備をして臨んだことがよくわかると思いました。なかなかできることではなく、日本もよく準備して外交に臨むべきですね。そして、今、経済と政治のバランスをとらないと、不況だからと言ってナチスに開戦までずっと多額の投資を続け、世界を戦争に巻き込んだ第二次大戦前のアメリカのようなことになってしまうのは、日本もドイツも同じです。戦争にするかしないかは、今の対中政策で決まると思います。大事なターニングポイントになればと念じています。
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破局に至るのは目に見える (pfaelzerwein)
2006-05-29 12:26:49
蓬莱の島通信ブログ別館さん、コメント有難うございます。台湾からの視点も面白そうです。



対中政策が最も重要な外交問題であるのは間違いありません。経済運営からエネルギー確保が必要になり、「経済防衛」のための「積極外交」を展開している大国ですから、先進工業国は協力して対処しなければいけません。



経済投資と政治的対抗処置でバランスを採る事が大切ですが、西側が一致して中国の拡大政策を制御して行く事が大切でしょう。投資家の目先の経済感覚に委ねていては元も子もない破局に至るのは目に見えています。



万全の準備として、極東アジア研究など、十分に非政治的な分析が基本になっていて、情勢分析としては、ここ数年殆ど変わっていないのではないかと思います。それに対して前首相はなんら耳を貸さなかっただけです。全ての事象は顕著になって来ていますから、これらの中国分析は誤っていないようです。



報道はそういった分析を踏まえて、政治や経済が採るべき戦略を評価してしくべきでしょう。世論形成にも重要です。
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メルケル首相はただ者ではありませんね (蓬莱の島通信ブログ)
2006-05-31 08:38:35
台湾では朝ですが、ドイツは深夜でしょうか。中国の法輪講の機関誌『大紀元』にメルケル首相の記事が大きく出ていたので、TBした記事に、紹介しました。日本では小沢氏が剛腕と言われていますが、メルケル首相の場合、人権や知的財産権などでの中国への明確な主張、中国の人権活動家への支援や経済界へのコントロールなど、短期間によくもこれだけと思われるような内容でした。

pfaelzerweinさんの上記のコメントではドイツの中国分析はかなり正確とのことで、大変心強いです。台湾は以前はフランスと関係が深かったのですが、最近、EU関係は中国になびき、疎遠になっているようです。中国の現状に真向きになろうとするドイツから援助してもらえれば、今の閉塞した台湾の政界にも大きな突破口が出来るかも知れません。
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大変参考になります (pfaelzerwein)
2006-05-31 15:57:32
蓬莱の島通信ブログさん、わざわざ言及頂きまして有難うございました。こちらはようやく朝になりました。



こちらでも新聞記事に、経済以外の背景を探る中国関連が増えています。それらも読みながら、また独自ルートの情報も入れて、引き続き考えて行きたいと思います。様々な視点からの情報は、大変参考になります。
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