日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

室生犀星の金沢 +建築家内藤廣とNコレクションをみる (Ⅰ)

2009-05-16 14:52:44 | 日々・音楽・BOOK

「あんたは単純だね」と妻君にいわれた。金沢へ行ったと思ったら「室生犀星」だもんね、というのだ。
部屋を掃除したときに、僕の枕元に図書館から借りた文庫本「ある少女の死まで」(岩波文庫)を見つけたのだ。だって!ともぐもぐと言い訳をする。まあ俺はわかりやすい男だからなあと思いながらもなぜ言い訳をしなくてはいけないのだ。
雨と風でねえ、傘がおちょこになって歩けなかったのでね、仕方なく「室生犀記念館」に2時間もいたのだから・・・でも妻君は室生犀星が金沢の出だと知っていたんだと我が妻をちょっと見直したりした。

4月24日(土)、金沢工大で行われたJIAと金沢工大(KIT)で設立した建築資料館「JIA-KITアーカイヴス」の設立記念展「Nコレクション展」に関連した建築家内藤廣の講演と、内藤さんもパネリストになったシンポジウムを聴き、委員会を行うために1泊2日で出かけたのだ。

Nコレクション。
建築雑誌「a+u」を創刊した編集者中村敏男氏がコレクションした、ルイス・カーンやコールハウスなど著名建築家のスケッチをJIA-KITアーカイヴスに寄贈したのだ。
内藤さんは展覧会場で、カーンのスケッチをみて、あまりうまくないね!と僕の顔を見てにやりと笑う。うーん!でもね、どれでもいいから一点だけでいいから欲しいよねと僕は内藤さんにささやく。本音だ。

それは別の機会に書くことにして、一泊した翌25日、まずは思いがけず出会った「室生犀星」だ。
実家のあった土地に建てられた犀星の記念館。犀星の生まれた実家があったのは西茶屋街と犀川の間、そこでの少年時代が「幼年時代」を生み出し、「性に目覚める頃」と「ある少女の死まで」の三部作になっていくのだ。

この文庫本には、3篇の後に、後書と題した後書きが掲載されている。
「幼年時代」は犀星が30歳のときに書いた処女作。後書の最後の一節には「何事も或いはもう遅いかもしれないが・・と書き出し、私の初期の小説については多くの悔いばかりがのこり、・・・一つの作家の生い立ちの悲哀をかたちづくるものとして、私をそぞろに悲しめてくるのである。」とある。
昭和26年、犀星62歳、功なり名を遂げた亡くなる10年前に書かれた厳しい一文である。

記念館では、長女朝子さんのみる父や、犀星をささえた堀辰雄夫人多恵子さんの語る犀星の姿が映像によって映し出され、2階の犀星と私というコーナーでは、自身の声で自作の詩を読む犀星の生の声も聞くことができる。
「文士」という姿がぴったりの犀星の面影が浮かび上がった。
犀星は武士であった父と小間使いの間に生まれた子供で、幼くして近くの寺に養子に出される。生みの母は、追い出されてその後の消息がわからなくなるという幼年時代をすごすのだ。(つづく)

<写真 金沢工大で行われた「Nコレクション展」に見入る内藤廣さんや、元JIA会長の大宇根弘司さん、JIAーKITアーカイヴス所長竺金沢工大教授>


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ないとーさん ()
2009-05-16 20:33:40
昨秋、安曇野ちひろ美術館で内藤さんの実作に触れる機会を得ました。(日経アーキで連載されている対談も良いですね)
私の直属の上司は元・鎌倉市役所職員だった方で、内藤氏に鎌倉市の審議会委員をやって頂いたことがあるとおっしゃっていました。
返信する
文士! (moro)
2009-05-16 21:40:51
骨太な響きがありますね。内藤廣氏も若いころは骨太で大暴れ?されていらっしゃった方(penkou師匠や内藤氏の世代は皆?)ですね。

カーンのスケッチ!いったい幾らくらいするのでしょう。
返信する
ホンモノ (penkou)
2009-05-17 11:58:05
moroさん
内藤さんと何時親しくなったのか、もう随分前のことになりましたのでよく覚えていないのですが、とても懐の深い人です。今回の講演での話も、なるほど!うまい言い方をするなあ、と感心しました。いずれこのブログにも書いておきたいと思います。
moroさんの京都行き、印象深かったようですね。

mさん
「a+u」は、それまでの日本の建築雑誌での外国の建築家の作品は、外国の雑誌から転載・翻訳して紹介していたのを、中村敏男さんが初めて直接外国の建築家に取材して掲載した画期的な雑誌だったのです。
その信頼関係の中で、スケッチをもらったのだそうです。それが「Nコレクション」

カーンのスケッチを収録した分厚い本を僕は持っているのですが、ヘタウマというか、味わいのある描写力です。本とはいえ僕の宝物!
でもね、やはりホンの走り書きでもいいのですが、本物がほしい(笑)
返信する

コメントを投稿