
「彼女、私より美人だと思う?」スーザンが言った。
この質問の答え方はわからないまぬけがどこにいる?・・・「思わない」私が言った。
「私のほうが彼女より美人だと思う?」スーザンが言った。「ぜったいに」。
彼女というのは弁護士のリタだ。
全くと!と思いながら、アメリカの男女ってのはやはりこうやって口に出して確認するのだと内心ではにやりとするものの、わが身を思ってやれやれとも!さらにスーザンはこういうのだ。
「もう少し説明してもらえる?」
「いいとも」とスペンサーは臆面もなく「きみはおれが知るなかで最高の美人だ。しかも、君の髪はリタの髪よりすばらしい」。
リタは誰もが振り向く赤毛の美人、ちょっと妖艶でスーザンと同じく久頭脳明晰でスペンサーに惚れてはいるが(多分)このシリーズの常連の誰しも、つまりクワークもベルソンも、そしてスーザンも、いやリタでさえそんなことは暗黙了解済みなのだ。僕はハーバードでドクターを取ったスーザンは手に負えないと思っているが、チャーミングなリタ・フィオーレには逢ってみたい。
作者ロバート・B・パーカーが昨年の1月に亡くなってもうスペンサーやスーザンに逢えないと思っていたら新作「盗まれた貴婦人」(早川書房)が昨年の11月に発行された。
妻君がネットで海老名の図書館を検索していて、「あれ!スペンサーが出たみたいよ」という。
そんなことは?と一瞬思って読んだのではないかなあ、といったがとにかく予約してみてくれと頼んだ。
訳者加賀山卓朗氏の後書きによると、亡くなったときに2冊が執筆中だったとのことで本作のあと、最後の作品[SIXKILL]が来年にもアメリカで出版されるようだ。
本作はホローコストが絡んだ作品で、今の裏社会の様への好奇心が刺激されるし、作品としては良くまとまっている。まとまりすぎているような気もするが、ハードボイルドの原点を踏まえているのも嬉しい。ついつい深読みしたくなる味わい深い会話構成で物語が進行する。
スペンサーの相棒、スキンヘッドの黒人ホークが出てこない。その寡黙なホークとスペンサーの男の心の通い合いを読み進めながら心待ちにしていたが、こんな風に言い訳っぽく読者(つまりフアン)に伝える。
ベルソンが聞く。「彼はどこだ」「中央アジアだ」「中央アジア?そんなところで何をしている」「いつもすることをしている」私(スペンサー)が言った。「政府のアイヴズに関係したことだ。アイヴズはしっているか?」
ベルソンは知っているが、僕は知らない。
ふと思った。ホークがこういうことをやっている立場も持っているのだということが、スペンサーシリーズが始まって30年を経て、はじめて明かされるのだ。私立探偵が公的機関の刑事連と連携が取れるアメリカのシステムの裏とその信頼関係の一側面が垣間見える。
ホークがアイヴズとは!アイヴズって「スパイだ」なのだそうだ。
`格好よく`ということは僕の生きる信条でなんとも嬉しき一言なれど、さっと読んだのは間違いないとは言え、図書館から借りてきてということになるとさて?