朝日新聞6月1日の夕刊に「HIV」検査、今日から普及週間という記事が掲載され、「流行の確認から25年、エイズは世界の15歳から59歳までの男女の最大の死亡原因になっている」と書かれている。更に3日の朝刊では「都内HIV感染最多、昨年417人、検査受診呼びかけ」、感染者は実際には報告数の4~5倍はいるとして、「エイズ患者が増え続けているのは先進国では日本だけ。爆発的な流行になる恐れがある」と警鐘を発している。
普段見過ごしてしまうこの手の記事が眼に留まったのは、図書館から借りた帚木蓬生の「アフリカの瞳」という小説を読んでいたからだ。
小説に託して様々な分野を抉りとる作家がいるが、医療の分野ではアメリカのロビン・クックがよく知られている。どの本もシビアな問題提起がされていて心を揺さぶられる。日本では専門家ではないが、山崎豊子の「白い巨塔」は大学医学部の様相が映し出されていて社会的な話題になった。
帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)は、1947年生まれ。東大仏文科を卒業後TBSに勤務し、その後九州大学医学部を出た精神科医。日本では医療関係を題材とした多数の話題作を持つこの分野の代表的な作家だ。
「アフリカの瞳」(2004年講談社刊)は、アパルトヘイトを跳ね除けたアフリカの国の、貧しいトタン屋根の集落が舞台で、現代的でシャープな感性豊かな主人公`作田`という医者がいわば「赤ひげ」的な志を持って庶民の医療に取り組む物語である。作田は、保健センターに勤めるパメラと結婚して一人息子のタケシを持った。作田はこの聡明なタケシとパメラとともに多くの人々の想いを受けて、この国のエイズ対策制度を変えるのだ。
ここでのもう一つの主役は「エイズ」そのものと、その治療薬とされている安価な`ヴィロディン`という薬だ。当たり前のことだがこれは全てフィクション。しかし臨場感に富み、さもありなん、そして何処かに実在の作田がいるのではないかと読んでいてのめりこんでしまうのは、単に帚木の筆の力だけではない。HIVの恐ろしさと社会の仕組み、社会構造の課題といったほうがいいのかもしれないが、それも実は人の思惑によるのだという事実が切々と伝わってくるからだ。小説ではあるが事実なのだ。
このテーマを社会に伝え訴えるのに様々な手段がある。
新聞の記事でも、デスクや担当記者の書きたい、書くべきだという思いもあるだろう。たとえ報道記事であってもジャーナリストの使命感のようなものが。
小説という表現方法では、学会などでの研究発表と同じように、綿密な調査によって取得した資料を噛み砕きながら問題を長い間心に留めて醸成させ、構成を組み立てながら主人公に思いを託してフィクションとして書き記していくのだろう。
ここに登場する人々はそれぞれの生き方の上でプライドを持ち、自分の役割を意識しようとしまいと真摯に人生と対峙している。
それに僕は魅せられる。血湧き肉躍る冒険小説やハードボイルドと同じスタンスだ。多分それは帚木蓬生の生き様なのだ。
更に伝わってくるのは、だらしがなかったり、どうしようもない人を慈しむ心だ。それらは全て彼の心の叫びでもあるのだろうが、大きな声を出さずに淡々と書き込まれているのでなおのこと心に沁みこんで来る。
帚木は村民の演ずる舞台で歌う唄に託してメッセージを伝える。
アフリカには瞳がある。
大きなどこまでも深い瞳だ。
瞳はもう涙を流さない。
・・・・と。
初夏の、梅雨空の中で暑いアフリカを想いながら僕もこれを書く。
それとは別に、医学の世界も間違いなくハードボイルドです。厳しい世界だと思います。
更に話は変わりますがスペンサーシリーズやディックフランシスなど読みながらアメリカ本土をぷらぷらと旅してみたいものですね。
しかし今の課題はそれだけではなくなっているようですね。
でも医学、医療の進歩は唖然とするくらい進んでいて、最近ひそかに感嘆しています。いずれ伝えて行きたいのですが、其れが病院やクリニックの建築サイドの変化にも対応していて時代は動いていると実感しています。
うーん、年をとってくるといろいろとありましてね!