12時の帰りのバスの予約をした。
6時からアンカラのスエーデン大使公館でのDOCOMOMO大会お別れパーティーに参加するつもりなのだ。バスの旅は5時間掛かるのでこれがぎりぎりの時間。ところが戻ったアンカラは雷雨で市内は水浸しだった。
バスとタクシーが衝突したり、道の真ん中にエンジンが止まって放置してある車が何台もある有様で酷い交通渋滞を起こしていた。乗ったタクシーの運転手の奮闘にもかかわらず1時間たっても行き着かない。ついにOK、OK、Come Backというと、一瞬本当に良いの?となにやら申し訳けなさそうな顔をしたので、僕はいいんだとウインクした。なんと帰りは15分、こんなに近かったのかと思ったものだ。インフラ整備がいまいちの首都の一面を垣間見ることになった。それも一興、興味深い街である。
さてこの午前中をどうしようか。さすがにタクシーやバスを使って地下都市を訪ねる度胸はなく、街(ギヨルメは小さい村だけど木造家屋の日本の村とは趣が違い、街と言いたくなる)を散策してみようと朝のコヒーを飲みながら昨夜の興奮を思いだした。探検するのだ。
昨夜電気が来ないのだとホテルのお兄ちゃんに言われてどうなるのかと思ったが、7時になってパッと電灯がついた。ホテルだけでなく闇に包まれていた街が突然現れたのだ。ディナーを食べるホテルのテラスから眺めるライトアップされた街の石の塔の幻想的な姿に呆然とする。節電のためとはいえ(なぜかそうだと聞き取れた)上手い演出、さすがに世界遺産の街だ。好奇心が湧いてくる。
僕の怪しげな英語をニコニコして聞いてくれ、何も言わないのに、宿泊が僕一人になったので泊まり賃を安くしてくれたふっくらとして優しいフロントのおばちゃん、もしかしたら経営者。チェックアウトをして思わず握手をする。ふんわりと良い気持ちになって歩き始める。
街並は傾斜地をうまくつかった住まいやホテルで構成されていて、ところどころに塔がある。そこが刳り貫かれたり傾斜地が掘られて洞窟部屋になっているのだ。石で組み立てられたどの建物もシンプルな装飾がありしっくりと街に馴染んでいる。木の扉にはグリーンやブルーが塗られていた様だが、すっかりかすれていて風情がある。そういう街なのだ。
人とほとんど出会わない。こういうところを歩く観光客なんていないのだろう。たまに出会うのはそこで生活している人だ。僕を見ると何故なのだろう、皆微笑んでくれる。この時期はOFFシーズンなのかもしれない。どうして大会をラマダンの時期にしたのかと不審に思っていたのだが、ホテルも空いているし何かと具合が良いのだとやっと気がついた。
坂道を登って街を見下ろしその先の岩の立つ風景を眺めた。街は細い川を挟んで広がっている。中心地には平屋建ての学校もある。役場もある。その川を挟んだ反対側の閑散としている坂道を登ってみた。洞窟があったので覗いてみる。壁面は真っ黒に塗られているが中にオーダーがある。上に小さな窓(孔)があいているので中は明るいのだ。集会場だったのだろうか。こういう空間体験は初めてだ。
家を造っている人がいた。石を積み上げていくのだ。コンベックスで寸法を測りながら石を選び、なんと差し金で線を引き平鏨(ひらたがね)ハンマーで削り取って長方形にする。やわらかい石なのだ。それにしても引いた線とは1ミリとは違わない業に見ほれた。ユアハウス?とそっと聞いてもニコニコしているだけだ。トルコ語ではないからなあと思いながらカメラを指してOK?というとうなずいてくれた。
のんびりした家造りだ。でも鉄筋を入れない。モルタルも使わない。ただ積んでいくだけ。ふーん、この街の建築はこうやって造られているのだろうか?地震なんてないのだろうか。
イスラムの帽子をかぶったおじさんと出会った。僕のカメラが気になるようだ。ファインピックスS2プロ。レンズがニコンの17-55、F2.8の大型なので目立つのだ。トルコ語はわからないけど言っていることはわかる。カメラを渡してファインダーを覗かせてあげる。ズームを動かす。びっくりしているのが微笑ましく僕もうれしくなった。写真を撮らせてもらう。良い旅の思い出ができた。
でも仲のいい友人とだったら、それはそれで又楽しい旅になりますよね・・・書いていると、あのときの有様が蘇ってきます。