日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

秋の始まりを聴く、ジャズ・ボサの名盤・「GETZ/GILBERTO」

2008-09-18 00:47:56 | 日々・音楽・BOOK

このエッセイを書きながら聴いているのは「GETZ/GILBERTO」。45年前になる1963年ニューヨークで録音されたボサ・ノバだ。
聴きながら飲むISLAY BOWMORE 12年がなんとも美味い。ブラジルの酒「ピンガ」にレモンを絞って格好よく飲みたいが、さすがに我が家には置いてない。ではと北端のアイレイ、酒は世界を巡る。リビングがライブハウスになった。

パーソネルが素晴らしい。
スタン・ゲッツ(ts)、ジョアン・ジルベルト(g,vo)、アントニオ・カルロス・ジョビン(p)、トミー・ウイリアムス(b)、ミルトン・バナナ(per)、それにアストラッド・ジルベルト(vo)。このアルバムは、ブラジル音楽、ボサ・ノバを語るときに欠かせない一枚なのだ。

「イパネマの娘」「ソ・ダンソ・サンバ」「オ・グランジ・アモール」などボサ・ノバの代表的な曲が収録されていることもあるが、ゲッツのテナーとジョビンのピアノ、体が動き出してしまうリズムセッション、それにつぶやくように唄うジョアンとアストラッドのボーカルが見事に溶け合って、聴きだすとあっという間に時間がたってしまう。

ところが藤本史昭氏のライナーノートにこんなことが記されている。
「レコーディングの最中、ボサ・ノバのニュアンスを解せないゲッツに苛立ったジョアンが、`このグリンコに、お前は馬鹿だといってくれ`と罵倒し、しかし気を利かした通訳役のジョビンが`彼はあなたとレコーディングするのが夢だったといっています`と伝えたところ、ゲッツのほうは`どうも彼はそうは言っていないようだね`と皮肉っぽくこたえたエピソードがある」。

このアルバムは、「ジャズ・ボサ」と位置づけられるようになったが、何度聴いても、ゲッツのテナーがボサ・ノバのリズムと空気、つまりボサ・ノバの真髄を表現していると感じ、決してそういうやり取りがあったとは思えない。

つぶやくように歌いかけるジョアンとアストラッドに、ゲッツのテナーはビブラートをかけて優しく応える。テナーにかぶせてジョアンがスキャットでささやいているではないか。ゲッツよ、なかなかいいぜ!と。
泣きたくなる。身体が動き出す。生きているのがうれしくなる。ISLAYに酔ったのではないぜ!決して。僕はこのアルバムを聴いてボサ・ノバが好きになったのだ。

名盤誕生にはこのような何がしかのエピソード・物語があるのだ。マイルスの「カインド・オブ・ブルー」にもキースの「ザ・ケルン・コンサート」にも、心に沁み込んでくる物語がある。

ライナーノートの役割は、その誕生の経緯や当時の音楽界や社会状況、パーソネルのことなどをきちんと紹介してくれることが大切なのだと、これを読むとつくづく思う。
このスタジオ録音の経緯は伝説化していて、必ずしも確なものではないのかもしれないが、この伝説自体が記録になっているともいえる。ボサ・ノバとJAZZ、それにテナーの巨匠スタン・ゲッツを語るときの資料にもなるアーカイヴスだ。
タイトルにボサ・ノバの文字がなく、GETZ/GILBERTOとしたのもこの二人のエピソードを裏付けているような気もしてくる。

僕は藤本氏の記述を読むまで、ボサ・ノバは、ブラジルの土着音楽だと思っていた。ところが当時のブラジルの首都(現在はブラジリア)リオで行われた「ア・プリメイラ・ノイチ・ダ・ボサ・ノヴァ」というコンサートがボサ・ノバが演奏された最初なのだという。1959年の9月22日。
そして5年後のこの「GETZ/GILBERTO」でボサ・ノバという音楽が世界に広まった。

ブラジル音楽を聴くと、映画「黒いオルフェ」を思い出す。サンバだ。リオのカーニバルとダブって、あのエネルギッシュな祭りの中に潜む不安が若い日の僕を惹きつけた。サンバ歌手`斉藤みゆき`を青山のライブハウス「プラッサ・オンゼ」で追いかけた。魅力的な彼女のHPのプロフィールは僕の撮った写真だ。
熱気を発散するサンバと、浮き立つリズムの中に切々たる哀愁を込めてうちに向かうボサ・ノバ。
少し涼しくなり、秋の始まった夜を、ブラジル音楽とクリスタルグラスに注いだISLAYで楽しむのだ。

<写真 プラッサ・オンゼでの`斉藤みゆき`さん>


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あーあ (TARO)
2008-09-18 10:44:57
また面白い記事を書いてくれますねぇ。
おひさしぶりです。
TAROです。
なんだかこの記事が、penkouさんが「おいTARO、いい加減何か言えよ」って言ってる気がして、ついつい書き込みに来てしまいました。

このアルバムについても、ボサノバとはなんぞやということに関しても、僕のブログで以前に書いていますが・・・・・そうですね・・・・・「GETZ/GILBERTO」を中心に、ボサ史観といったもの、んじゃ近いうちに書きますよ。

いやぁ、penkouさんにはいつも触発されるなぁ(笑)
では近いうちに。
返信する
楽しみにしてますよ(笑) (penkou)
2008-09-20 13:03:48
TAROさん
なんとも嬉しいコメントを有難うございます。
ほんとに久しぶりですね!
そうでしたか、TAROさんのブログに・・バックナンバーをたどって読んでみよう。
時々TAROさんのブログを覗くのですが、なかなかUPされないので気になっていましたが、お元気そうですね。ボサ史観楽しみにしています。

実はですね(笑)新聞の新盤評とスイングジャーナル誌の評に惑わされて(苦笑・言い方がまずいかな)、ウイリー・ネルソン&ウイントン・マルサレスのスターダストを手に入れたのですが、ちょっとがっくりしています。僕の感性が追いつかないのかもしれないのだけど・・・
返信する

コメントを投稿