日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

石井頼子著「言霊の人 棟方志功」を!

2016-01-17 16:59:26 | 日々・音楽・BOOK
沢山の人に読んでもらいたい本がある。
昨年の末、12月1日に里文出版から発刊された棟方志功の長女けやうを母にもつ、石井頼子の著作「言霊の人 棟方志功」である。
表紙には志功自作の歌 `あおもりは かなしかりけり かけそくも 沼田を渡る 沢潟(おもだか)の風` を添えた自画像が掲載されていて、志功の声が聞こえてくるようだ。

俳句誌「知音」に2008年(平成20年)から3年に渡って連載した文章に加筆修正をしたものと、本文に入る前にささやかに記されているが、無論只の修正ではない。本書発行年月2015年12月1日までのほぼ5年間の検証を組み込み、ところどころの文末に、用紙には小文字でその成果が列記されているのを読み込むと、この論考はただものではないと、思わず瞑目してしまう。
石井頼子がいなかったら、志功が忘れられることはありないとしても、稀代な天才の本質が捉えられないまま、どこかに埋没してしまうのではないかとも言いたくなる。

志功自身のことを、その一と終章その三十七に取り上げ、その他の三十五編に、人生の一部を共有した保田與重郎、川上澄生、曾津八一、河井寛次郎、大原総一郎、谷崎潤一郎、柳宗悦などなどとの出会い、やり取り、エピソードを間断なく頼子の視点から書き連ねる。

連載中の「知音」を2冊ほど頂いたことがあるが、37編340ページにもなる分厚いこの著作を何度も前後を確認しながら読み進めていくと、志功や、ことにチヤ夫人の声が、今そこから聞こえてくるのだ。僕もそれなりに身近にいたことがあるのに、しかもお仲人までやっていただいたのにと、じっとしていられなくなる。
そして幾つかのエピソードが頭をよぎる。
インド行き。

志功、晩年に近い1972年、チヤ夫人に費用は出してあげるから一緒に行かないか、とお誘いを受けたのに思い切れなかった若き日の僕。伯父の会社の社員だとはいえ、一サラリーマン、独身時代、15日間、もし仮に全てを投げ打ってでもと踏ん切って同行させていただいたら、僕の人生はどうなっていただろうかと、この年になってしみじみと思い至る。もしかしたら仕方がないね!と苦笑しながらも許可してくれたかもしれないなどとも…しかもこの旅は、草野新平との旅だったと石井頼子は記している。

こんなことも思っている。この著作には、チヤ夫人にほんの少しだけ触れているが、志功とチヤ夫人を支えた頼子の母親や、志功後夫妻の子息たちなど身内については全く触れていない。もしかしたら若き日の僕も身内扱いだったのかもしれないと、改めて(密かに)感じ取っている。

<文中敬称略:「言霊の人 棟方志功」(里文出版)の定価2,300円+税>