日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

風を形にする 武蔵美・I視覚伝達デザイン学科卒業選抜展

2010-03-08 11:05:21 | 文化考

四ッ谷駅前慶応義塾大学病院の裏に、クラシックなブラケットが取り付けてあり、偽石をでこぼこと貼った不思議な建築がある。The Artcomplex Center of Tokyo。
ここでいいのかと思いながら地階へ下りる階段の壁は打ち放しコンクリート。受付にいる女子学生たちが笑顔で迎えてくれた。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科の卒業選抜展が行われている。僕は寺山祐策教授に会いたくて出かけたのだ。

寺山さんは、紙や印刷技術の原点を探り、グラッフィクの状況を確認するために昨年、半年以上をかけてエジプトやヨーロッパのミュージアムや研究機関を廻った。会うのは1年振り。学生の振る舞いは何気ないが、教授を信頼している雰囲気が感じ取れてなかなかいい。

寺山さんとは、鎌倉の神奈川県立近代美術館で行った20選展でカタログや案内チラシのデザインをしていただいてからのお付き合いなのでほぼ10年になった。
DOCOMOMO選定プレートのデザインや100選展でもご一緒し、建築学会の委員会で策定した「建造物の持続的活用に向けたガイドライン」のパンフレット作成では、僕の撮った写真を使い「こういう遣いかたもあるのだ」と感心してしまう見事なデザイン構成をしてもらった。なんだか廃墟群のようだね!とニヤリとさせられるコメントを寄せた委員もいるが。 

ウォーホルやマチス、ピカソの作品とグラフィック、関連して日本とヨーロッパやアメリカのデザイナーのスタンスの違いなど話しは尽き無いのだが、展示作品についての学生の問題意識や取り組み方を聞きながら案内していただくうちに、展示作品の面白さに引きずり込まれた。

漫画が多くていかにも今風だと思ったが、その作画と組み立て方はプロはだし、コスプレーヤーを撮ってきた学生が、スタジオに数名を呼んで撮影し「コスプレ」は、模倣という攻撃も、強い意志もない現代を象徴している現象だと感じ、時代の記録として切り取ったとコメントしている。MUSABIには写真学科は無いが、この学科から長島友里枝などという時代を刺激させる写真家を輩出しているのだ。セルフヌードの発表と共に、人とものをつくる人間の生き様を自分と取り巻く周囲を題材にして問題提起し続けている写真家だ。

と一つ一つを取り上げるときりがなくなるが、書いておきたいのは、「美しい壁・白の中の豊かな色層」と「風に向けての造形」と題した作品である。「壁」は、自室の白い壁が1日の時間や季節によって変わる光の色相を、1年間綿密に水彩でカードに描き取り、その淡い変化は自分の精神をも映していると述べるにいたる作品だ。学生が思い立ち作業をしながら多分何故このような無意味なことをやっているのだと自問してきたこの作業を支えた指導者(新島教授)のスタンスに感銘する。

「風に向けての造形」では、風によってしなる木々の枝や葉の揺らぎの軌跡に興味を持ち、その風を形にしようとトライした。見えない風を形にしたいと言う発想に魅かれる。この学生は寺山研だ。
枝や葉のしなりの軌跡を記録してそれを表現するのに紙を使って立体として造形しそれを写真に撮って展示した。その表現方法は必ずしも成功したとは思えないのだが、それは僕の受容力の問題か?などとも考えさせられた。とはいえその発想とそれを形にさせた寺山さんに共鳴する。

彼らは院生ではなく学部生だということにも驚いた。MUSABIの底力を感じる。ここで学びトライしたことを彼らはこれからの生き方の糧に出来るだろう。

再度一回り見直している僕の視線の先に、モノレール`ゆりかもめ`の車窓から撮った動画を組み合わせて都市の姿の魅力を提示し、その面白さゆえに都市が仮構だという側面を暴き出したともいえる「視覚の乗り換え」というタイトルの映像に見入っている寺山さんの姿があった。

<この作品展をこの分野に関心を持つ人だけでなく、建築学科の学生や、多くの建築関係者に見て欲しいと思う。14日(日)まで開催している。>