日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

新沖縄文化紀行(1) ふと心が和む、日常性と非日常性の沖縄

2008-12-25 16:27:34 | 沖縄考

師走の沖縄は、矢張り沖縄だった。
沖縄は沖縄、当たり前だが今年の沖縄の旅、文化人類学研修旅行には感じるものがあった。一昨日の(12月22日)夜遅く帰ってきた3泊4日の短い旅だが、昨年の`宮古`にも触れながら書き連ねてみたい。

トヨタが業績悪化で数多くの労働者を解雇した。同行した社会人修士(明大の大学院)の清水さんが東村(ひがしそん)の民宿のようなホテルでの朝食の時、沖縄の新聞を見ながらこの問題に触れた。
解雇された60パーセントが沖縄出身者なのだという。彼は経済が専門で実務について38年、定年になって大学院に入学した。明大で文化人類学の一齣を持った首都大学渡邊欣雄教授の高校時代の同級生だ。気になっているのだ。今の経済界が。沖縄が。

僕たちが2泊したホテルも、この暮れで閉鎖するという。ホテルを仕切ってきた笑顔が豊かなおばちゃんとせっかく仲良くなったのに。おばちゃんは寂しそうだ。体調がねというが人が来ない。

帰る前、新しい町`おもろまち`で建築構造事務所を主宰しているSさんに会った。1年ぶり、5時から建築現場での配筋検査だという慌しい時間に押しかけたのだ。
DFC(免税店)の3階でアイスクリームをちびちびと舐めながら、どうしても僕が彼に聞きたかったのは沖縄の建築確認申請問題だ。
専門的で解りにくいのだが、ルート2以上になると適判に廻るが、沖縄には審査機関が3箇所しかなくその上人材不足。台風とシロアリに悩む沖縄は住宅であっても鉄筋コンクリート造だ。
適判になると時間とお金が掛かる。クライアントから要請され、適判にならないように設計を変える建築家がいる。建築のあり方が壊れる。おかしな三段論法だが社会が壊れるのだ。何とかしようと建築家がボランティアで試行錯誤をしながら動き始めた。

でも彼がそれだけでなく吐き捨てるように云ったのは、トヨタの解雇問題だ。いきなり宿舎を追われ、住むところもなく帰京する飛行機代もない。沖縄に帰ってきても仕事がない。
僕の頭に、通ってきた名護十字路のシャッターで閉じられた商店街の姿が掠めた。なぜあのような理不尽なことができるのか。Sさんのこの問題意識は僕のものでもある。トヨタが解雇に踏みきったので、他企業も免罪符を得たように動き始める。
僕もこういう大企業論理には組しない。話しは釈然としない選挙目当ての一律交付金問題にもなった。
マネーは大切だが、マネーでは豊かな社会はつくれない。大企業には豊かな社会を築く社会的な責任があるはずだ。

金武(キン)と石川の間にある屋嘉(ヤカ)の調査をしている首都大学の院生が東村で合流した。最終日に、彼女がカミンチュウ(女祭司)から貸してもらって住んでいる家とその村落を案内してもらう。
家の座敷には、門中(ムンチュウ)やノロの杯、それに歴代の位牌が祀ってある大きな仏壇がある。よそ者の彼女も、徐々に地の人に迎え入れてもらえるようになったようだ。ヤマトウチュウがカミンチュウの家に住む、そこが地の人にとっては微妙なようだ。その戸惑いも、ヤマトウチュウの僕には興味深い。

米軍から払い下げを受け、一軒・一区画が110坪に仕切られ、整然と碁盤の目状に区切られた屋嘉の村落。こういう即物的に構成された村は初めてみた。人の生き方の微妙な感性に目を向けなかった奇妙な風景が目の前にある。でもそこの一画に神を祭る拝所があり屋根のある会所がある。裏山には御獄もある。

街道に出てイカ墨ラーメンを食べた。真っ黒だ。口も歯も。おつゆをこぼすと墨が取れない。細麺で美味い。美味いがこぼさないように慎重に箸を使う。慎重になりすぎてゆっくり味わえない。それも沖縄だ。

首里の石畳からほんの少し入った場所に、仲のいい友人夫妻が別宅を建てた。夫人は建築家で、実家は那覇の前島にある。
Sさんに会った後、壷屋の仁王窯をちよっと覗き、タクシーで石畳に向かった。年配の運転手が和やかな笑顔で言った。運転手が老人ばかりになってね、若い人はタクシーでは食えない。規制緩和でタクシーが増えすぎたのだ。

彼女の旦那に案内してもらったのは、家の背後にある巨大な樹木の立つ御獄(ウタキ)。思わず手をあわせて頭を下げた。
御獄に面したシャープな打ち放しコンクリートの住宅で、ショパンのプレリュードを聴きながら味わうクース(古酒)。夢のような沖縄だ。

取りとめもなく序論的に書きはじめたのは、僕の沖縄は、興味深い神の、そして風水の世界。ひめゆりや対馬丸事件を内在した基地問題に揺れる生々しい非日常世界。でも沖縄の人にはそれが日常世界なのだ。
話し合っていた旦那が僕に言う。やや呆れた声で。「ほんとに沖縄が好きなんですね!」

そうなのだ。陶芸家大嶺實清がいてあのJAZZピアニスト屋良文雄がいる。御獄があって亀甲墓がある。基地がある。根強く張り付いて調査をしている若い研究者がいる。ふと心が和むのだ。
人が生きている。

<写真 屋嘉のさっぱりした街並み>