建築と環境の関係が取りざたされるようになってから久しい、と簡単にいってはいけないくらい多くの時間をかけて、様々なメディアがこの問題を取り上げ論陣を張ってきた。しかし僕たちの身近なところでの実践はまだ数多くない。
環境は、大雑把に言って自然的環境と社会的環境に分けられると思うが、建築はそのどちらとも深い関わりがあるといえるだろう。今僕が語ろうとしている建築家野沢正光さんは、勿論社会的環境についても深い洞察を持って言及しているが、彼の主眼は建築を自然環境との視点から捉えることだ。主として室内環境を恩師と共にコンピューターを使って研究を始め、その成果を自邸をはじめとする多くの自作の中で生かし、それを社会に伝えることで建築と環境の関係の大切さを訴えている。人間は自然環境と一体になって生きている存在、だからそこにむやみに刃物を当ててはいけないと、かみそりで顔を剃ることもしないという、彼を語るときに、なにやら伝説的な言い方が囁かれたりする建築家。
つい最近出版された、子供たちに伝えたい家の本「地球と生きる家」(発行インデックス コミニュケーションズ)は、そういう彼の思いのこもった絵本だ。この絵本のシリーズ名‘くうねるところにすむところ`にも発行者の前嶋さんや、解説を書いた鈴木明さんの想いに共鳴する野沢さんがいると見た。
絵本とはいえ、建築家の僕が読んでも教えられることが多いくらいで、子供たちには難しいのではないかとも思うが、僕が気にすることでもないのかもしれない。学生時代、計画言論つまり設備が大の苦手だった文系の僕が心配することもないだろう。
「ぼくの家はこんなふうにできている」という自邸の断面図や写真も楽しいが、収録されている復元された岩手県御所野遺跡、竪穴住居の写真が、つい最近福岡の人口島アイランドシティにできた、伊東豊雄さんの話題作「ぐりんぐりん」にちょっと似ているのも面白い。