6月21日 土曜日
この北関東は石橋の雑木林は、いま黒髪連合の少年(わかもの)の侵入をうけている。
ふいに、20台のバイクと車。
総勢30名をこす少年が現れたわりには、あたりは森閑としている。
はるか国道の方角で車の走る音が遠雷のようにひびいている。
樹木越しに、狐火のようなヘッドライトの光のつらなりが見える。
樹木がとぎれた。広くひらけている。
ひとむかしまえ、雑木を切り薪にしていたころの泊まり小屋がある。
風雨をさけるべくもないほど荒廃していた。
軒は落ち、小屋そのものもゆがみ、倒れかけている。
その入口付近で着メロの合奏がしていた。
携帯がむぞうさに草の上になげだされていた。
細い枝から月光がおちてくる。青白く冴えた月だ。
その淡いブルーの光をあびて、サッカーボールが三個。
正確に等間隔をおいてならんでいる。
ひとの頭だった。
トミオ。野ネズミにくわれた。顔面の肉がえぐられている。
タカシ。瞳孔が虚ろにあいていた。肉汁が滴っていた。いたいいたいと泣いているようだ。死の恐怖が顔のゆがみからよみとれた。生きながら埋められ、野ネズミにかじらた頭部。その形骸。色彩が視神経をおそった。
見るものを、激しい嘔吐がおそった。ググッと喉をはいのぼってくる。 ふらついた。極度の緊張にバランスをくずし、よろけながら粘液をふきだしたものもいる。なんにんかが、おえっと、口もとをおさえた。腐臭があたりにたちこめていた。
すさまじい臭気だ。
吐き気をもよおすような悪臭のなかで一瞬全員がふるえあがった。
こんなこと、人間のやることじゃない。眞吾は苦い汁を飲みくだした。
なんにんかがこんどこそ、本格的に嘔吐した。
ゲロゲロっと、ねばっいた汚液をはきだした。異臭と黄色く濁った汚液が大地と彼らの口もとをつないだ。
「キンちやん」
「キンジ」
八重子が絶叫し走りよろうとした。
「見せるな」
眞吾の一喝に高見がすばやく彼女をだきとめた。
「キンチャン」
早苗が絶叫した。
三人とも土のなかにうめられていた。恐怖にムンクの叫びのようなゆがんだ顔を……口をしていた。
首筋が切り裂かれている。
土に染みがある。
血の噴きだした跡だろう。
キンちゃんだけは首筋から透明なプラスチックの管がのび、血がいつでも吸えるようにしてある。
吸血鬼の給血所にしていたのだ。
やはり、敵は吸血鬼だ。
眞吾だけ敵の正体を見極めた。
この北関東は石橋の雑木林は、いま黒髪連合の少年(わかもの)の侵入をうけている。
ふいに、20台のバイクと車。
総勢30名をこす少年が現れたわりには、あたりは森閑としている。
はるか国道の方角で車の走る音が遠雷のようにひびいている。
樹木越しに、狐火のようなヘッドライトの光のつらなりが見える。
樹木がとぎれた。広くひらけている。
ひとむかしまえ、雑木を切り薪にしていたころの泊まり小屋がある。
風雨をさけるべくもないほど荒廃していた。
軒は落ち、小屋そのものもゆがみ、倒れかけている。
その入口付近で着メロの合奏がしていた。
携帯がむぞうさに草の上になげだされていた。
細い枝から月光がおちてくる。青白く冴えた月だ。
その淡いブルーの光をあびて、サッカーボールが三個。
正確に等間隔をおいてならんでいる。
ひとの頭だった。
トミオ。野ネズミにくわれた。顔面の肉がえぐられている。
タカシ。瞳孔が虚ろにあいていた。肉汁が滴っていた。いたいいたいと泣いているようだ。死の恐怖が顔のゆがみからよみとれた。生きながら埋められ、野ネズミにかじらた頭部。その形骸。色彩が視神経をおそった。
見るものを、激しい嘔吐がおそった。ググッと喉をはいのぼってくる。 ふらついた。極度の緊張にバランスをくずし、よろけながら粘液をふきだしたものもいる。なんにんかが、おえっと、口もとをおさえた。腐臭があたりにたちこめていた。
すさまじい臭気だ。
吐き気をもよおすような悪臭のなかで一瞬全員がふるえあがった。
こんなこと、人間のやることじゃない。眞吾は苦い汁を飲みくだした。
なんにんかがこんどこそ、本格的に嘔吐した。
ゲロゲロっと、ねばっいた汚液をはきだした。異臭と黄色く濁った汚液が大地と彼らの口もとをつないだ。
「キンちやん」
「キンジ」
八重子が絶叫し走りよろうとした。
「見せるな」
眞吾の一喝に高見がすばやく彼女をだきとめた。
「キンチャン」
早苗が絶叫した。
三人とも土のなかにうめられていた。恐怖にムンクの叫びのようなゆがんだ顔を……口をしていた。
首筋が切り裂かれている。
土に染みがある。
血の噴きだした跡だろう。
キンちゃんだけは首筋から透明なプラスチックの管がのび、血がいつでも吸えるようにしてある。
吸血鬼の給血所にしていたのだ。
やはり、敵は吸血鬼だ。
眞吾だけ敵の正体を見極めた。