田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

玉藻の前 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-27 13:06:29 | Weblog
6月27日 金曜日
妖気の発現点がカーナビにも映っていた。
赤い不吉な炎。
怪しく揺らいでいる。
だいいちインプットされてもいない映像が映るというのもおかしい。
リアルタイムで赤く炎が燃え上がっていてる。
カーナビをとおして、隼人は幻覚を見ている。
人には見えない。
それが見えている。
その、なにか……を見てしまう。
人であって人ではない夏子。
彼女と行動をともにしている。
隼人。彼も人を越えた能力を発揮している。
不可視の炎が見える。
あまりいい心地のものではない。不安がある。
フロントの向こうに那須野が原が広がる。
なにが起きようとしているのか。
なにが起きているのか。
なにがぼくらを招いているのか。
妖気がたゆたゆとたなびいている。
隼人の視線の先で、妖気が迫ってくる。
揺らぎ。
ただよい。
ふくらみ。
縮み。
燃立つほむらは強くなるばかりだ。
「見えた。あそこだ」
「わたしにも見えた」
どこか場所は特定できない。
部屋だ。
それも小さな、部屋とはいえないようだ。
地下の石室。
ビジョンがふたりの頭に同時になだれこんできた。
「隼人は,九尾の狐の伝説を知っているかしら?」
「殺生石の話しですね。むかし、殷の国王紂が、妃の妲己を愛して酒色に溺れ、国をほろぼした。周の幽王。天笠は摩掲陀国の班足王。と誑かし、あげくのはてに吉備真備が唐からかえるさいにその船にひそみ隠れてわが国にわたり玉藻の前となり帝をまどわした。あの傾国の美女のはなしでしょう」
「すごい記憶力ね。でも……それは、社会科の教科書で学んだのよね。でなかったら、小説とか、漫画とか……」
「バレタ……]
隼人がいたずらっぽく笑う。
「妲己ちゃんのことは、藤崎竜の『封神演義』でベンキョウシマシター」
「時の鳥羽院が毎夜衰弱した。原因は玉藻の前だ。陰陽師が封じ込めた。わたしが伝えきいた話しはすこしちがうのよね……」
どこだ。どこだ。
カーナビに古典的な美貌の女性が、ふいにうかびあがる。
ものめずらしそうに、あたりを見回している。
夏子に似ている。
輪郭しかわからない。
背景がない。
髪が見える。
顔立ちがわかる。
美しい髪が肩にながれている。
はっきりと見える。
背景がうつらない。
どこに、いるのかわからない。
隼人と夏子がめざす那須の方角だ。
ふたりの方向感覚に誤りはない。
美女は悲しんでいる。
ハイウエイをはしる車の中でとらえた。
かすかな低周波の震えを。
いや、車の中の夏子と隼人だからこそかんじられる地鳴りをともなった微動だ。
悪意の波動だ。 
「ゆれている。那須火山帯がうごきだした。女の悲しみにシンクロして、火山帯が戦慄している」
「殺生石からふきだしていた噴煙がとだえたと野州新聞にでていたわね」
「那須火山帯にはもう噴火をおこすエネルギーが枯れたのだろう、と地震研究所のコメントがのっいた」
「それは、ちがうのかも……。地下のマグマの流れが変わったのかも知れないわ」
「九尾の狐。玉藻の前の霊がよみがえるのか」





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