6月28日 土曜日
高速を走る車を強い衝撃がおそった。
横転や衝突した車を避ける。
高速のいたるところで、事故が同時に多発していた。
「噴火だ。あの方角だと茶臼だ。殺生石だ。玉藻の前の封印が解かれたのだ」
隼人が眞吾に叫ぶ。
6
ついに那須岳の噴火が始まってしまった。
予期できなかった。
いや予感はあった。
なんの変調も見られなかった。
だが、爆発した。
那須岳の噴火だ。
地鳴りがつづいている。
まばゆい光りが那須岳をおおっていた。
茶臼から噴煙が上がってていた。
溶岩が噴き上がっていた。
煙りの中に人影がみえていた。
煙りで目がかすむ。
夏子はきっと光りのなかを見詰めた。
十二単の美女がこちらにあるいてくる。
「あなたは、玉藻さんね?」
「おまえは」
「ラミヤ。大いなる夜、大谷の夜の一族の娘夏子」
「わたしは、おぼえている。わたしは那須一族のものに追われていた。わたしを狩るために犬飼一族のものが猟犬をあつめて参加した。下野の部族でその、玉藻追討、中央の命令にくわわらなかった一族があった。それが大谷の夜のものだと。わたしの九人の配下がいっていた。きのうのことのように覚えている」
「玉藻さん、あなたはだまされている。那須に遷都なんてない。それに人間はもうなん十代もうまれかわってししまっています。あなたの愛する鳥羽院はもうどこにもいません」 那須に首都機能が移転されるという。
それを促進しようとしている。
鹿人に従う大谷の夜の一族の暴挙。
テロ。
怨みをこめて潜んでいた玉藻を刺激した。
呼び覚ました。
召喚した。
玉藻の前の復活。
トウキョウの吸血鬼集団の暗躍。
遷都を拒む。トウキョウの、あくまでも中央集権を守ろうとする夜の一族。
兄の鹿人はトウキョウの夜の部族を利用したつむりで、逆にてだまにとられている。
だまされているのだ。
彼らは、玉藻の前をつかって、この那須の地をもとの荒野にもどし、遷都できないようにしようとしているのだ。
それでこそはじまった茶臼岳の噴火。
夜の底に点在する人家や土産物屋はある。
だが、眺望するかぎり荒れ果てた原野の感がある。
「飛ぶものは雲ばかりなり石の上」
と歌われた殺生石のあるガラ場だ。
時空を超えることのできる女がにらみあっていた。
背後で川に流れこんだ溶岩が蒸気の柱を天空につきあげた。
夜空に稲妻が光る。
「この地を滅ぼすおつもりですか」
夏子が悲痛な声をあげる。
「犬飼一族もともに……」
玉藻が甲高く笑いながら近寄って来る。
「いちどは、すべてを滅ぼし、この那須の地に帝とわたしで……」
「それは、わかっているでしょう。もうないのですよ。都が移ってくるなんてことは夢のまた夢……あなたを召喚するための口述、兄の鹿人が考えだしたトリックなのです…… 那須の地を溶岩で焼きはらう。……そんな途方もないことはやめてください」
夏子は必死で説得していた。
声にならない声で。
念波による会話だった。
高速を走る車を強い衝撃がおそった。
横転や衝突した車を避ける。
高速のいたるところで、事故が同時に多発していた。
「噴火だ。あの方角だと茶臼だ。殺生石だ。玉藻の前の封印が解かれたのだ」
隼人が眞吾に叫ぶ。
6
ついに那須岳の噴火が始まってしまった。
予期できなかった。
いや予感はあった。
なんの変調も見られなかった。
だが、爆発した。
那須岳の噴火だ。
地鳴りがつづいている。
まばゆい光りが那須岳をおおっていた。
茶臼から噴煙が上がってていた。
溶岩が噴き上がっていた。
煙りの中に人影がみえていた。
煙りで目がかすむ。
夏子はきっと光りのなかを見詰めた。
十二単の美女がこちらにあるいてくる。
「あなたは、玉藻さんね?」
「おまえは」
「ラミヤ。大いなる夜、大谷の夜の一族の娘夏子」
「わたしは、おぼえている。わたしは那須一族のものに追われていた。わたしを狩るために犬飼一族のものが猟犬をあつめて参加した。下野の部族でその、玉藻追討、中央の命令にくわわらなかった一族があった。それが大谷の夜のものだと。わたしの九人の配下がいっていた。きのうのことのように覚えている」
「玉藻さん、あなたはだまされている。那須に遷都なんてない。それに人間はもうなん十代もうまれかわってししまっています。あなたの愛する鳥羽院はもうどこにもいません」 那須に首都機能が移転されるという。
それを促進しようとしている。
鹿人に従う大谷の夜の一族の暴挙。
テロ。
怨みをこめて潜んでいた玉藻を刺激した。
呼び覚ました。
召喚した。
玉藻の前の復活。
トウキョウの吸血鬼集団の暗躍。
遷都を拒む。トウキョウの、あくまでも中央集権を守ろうとする夜の一族。
兄の鹿人はトウキョウの夜の部族を利用したつむりで、逆にてだまにとられている。
だまされているのだ。
彼らは、玉藻の前をつかって、この那須の地をもとの荒野にもどし、遷都できないようにしようとしているのだ。
それでこそはじまった茶臼岳の噴火。
夜の底に点在する人家や土産物屋はある。
だが、眺望するかぎり荒れ果てた原野の感がある。
「飛ぶものは雲ばかりなり石の上」
と歌われた殺生石のあるガラ場だ。
時空を超えることのできる女がにらみあっていた。
背後で川に流れこんだ溶岩が蒸気の柱を天空につきあげた。
夜空に稲妻が光る。
「この地を滅ぼすおつもりですか」
夏子が悲痛な声をあげる。
「犬飼一族もともに……」
玉藻が甲高く笑いながら近寄って来る。
「いちどは、すべてを滅ぼし、この那須の地に帝とわたしで……」
「それは、わかっているでしょう。もうないのですよ。都が移ってくるなんてことは夢のまた夢……あなたを召喚するための口述、兄の鹿人が考えだしたトリックなのです…… 那須の地を溶岩で焼きはらう。……そんな途方もないことはやめてください」
夏子は必死で説得していた。
声にならない声で。
念波による会話だった。