田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

鬼沢組(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-28 15:17:22 | Weblog
4

秀行が隼人にイスをすすめた。
モニターにマンションのフロントが映っている。
警官が階段を上ってくる。
エレベーターに乗り込む。
ふたてに別れた。

「敵は6人。注意してくれ。非常口のほうに退いていく」
秀行が携帯で警官に情報を伝えている。

「オネエチャンにきいていたけど、ほんとに直人さんに似てーる」
「われわれは、荒事はできるだけさけている」
橋本たちを迎撃しなかったことの説明だった。
「たすかりました」
ようやく隼人は挨拶をすることができた。

「これ、直人さんからあずかりもス」
霧太がコンピューターのずらりと並んだ机の引き出しからもってきた。
小さな箱。
「婚約指輪だ」

秀行が缶コーヒーのボスをすすめながらいった。
「直人があんなことになって、捜査もストップした。
麻薬捜査官は個人プレイがおおいのでな、
隼人くんがくるまでは直人のパソコンはひらけなかった。
隼人という従弟がいることもしらなかった。
直人君のことはもうしわけない」
「ありがとうございます。
これは中山美智子さんに渡すことにします。
それより直人が襲われた原因がわかった気がします」

隼人は美智子の母が鹿沼の麻耶一族の出だということを話した。
「麻耶のひとたちは、邪悪な波動に敏感ですから。
オニのいることをすぐにみわけます。
直人のことは、じぶんたちの存在を見つけ出されることをきらっての凶行でしょう。
麻耶と榊の血を受け継いだこどもたちのふえるのを恐れたのだと思います」

直人は美智子さんと婚約しようとしていた。
霧降からもどったら……このエンゲージリングを渡す気だったのだ。

隼人は通勤帰りのサラリーマンでラッシュとなっている品川駅から京浜東北にのった。
白い無精ひげの老人がなにかぼそぼそつぶやいている。
周りの乗客は冷やかな目でみている。
だがこうした日常のなかで老いていけるのは幸せなのかもしれない。
ぼくらには安易な夜などはない。
いつ敵に襲われるかも知れない。
いつ敵を攻撃することになるか。
だれにもわからない。

直人には生きていてもらいたかった。
砂浜で遊んでもらった。
楽しいお兄ちゃんだった。
婚約指輪を渡すこともできずに死んでいった直人。
隼人は直人がかわいそうにおもえてならなかった。

情けなかった。
かわいそうだ。
あんなにきれいな美智子さんをのこして他界するなんて……。
なんとか敵の危害から逃れられなかったのか。
敵のねらいはわかってきた。
ぼくら一族の血が麻耶の血とまざり。
あらたな脅威となる子どもの生まれてくることをきらったのだ。
鬼の実体を見破られるのが嫌だったのだ。
ヤッラは隠れたまままでいたいのだ。
かくれんぼの鬼のように世の裏側に隠れていたいのだ。
裏側から人の世を支配しようとしているのだ。
それの正体をあばかれたらたいへんだ。
ヤッラはいっせいに攻撃をしかけてきている。



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