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季節はずれの、水玉模様のワンピースを寒々と着た姿は、妻のものであるはずがなかった。
彼女の顔にはなつかしそうな微笑があいかわらず、ただよっていた。
そして、やわらかな、声だけはかわっていない、憂いをふくんだ言葉が彼女の口元から紡ぎだされた。
「あの……」
彼女はためらっている。
わたしは気づいていた。
だが、なつかしさのあまり声がでなかった。
「失礼ですが……まちがつたらごめんなさい……。小松さんじゃ……」
「時ちゃん。飛鳥時子……ちゃん」
やっとなつかしい名前を声にだすことができた。
それから、ふたりとも顔をみつめあうだけで、沈黙してしまった。
熟年の女性を「ちゃん」呼ばわりすることの滑稽さを配慮する余裕はなかった。
「よかったわ。まちがったらどうしょうとドギマギしてましたのよ。お久しぶり」
時子がでてきたばかりだと言う喫茶店にふたりでもどった。
モン・エテと袖看板がでていた。
緑色の文字が透明な秋の光をあびていた。
ドアがきしんだ。
外の光になれた目には店内は薄暗くかんじられた。
時子の座っていたという席には、まだ飲み残しのコーヒーカップが放置されていた。
時子が座っていたという窓際に、わたしは座った。
心なしかまだ彼女の体のぬくもりがのこっているようだった。
男づれでもどってきた時子に、なんにんかの客が怪訝そうにふりかえった。
若い時には、こうしたあからさまな好奇の視線を真正面にあびることはなかった。
若さがあった。
若いふたりが喫茶店でおしゃべりしていてもあたりまえだった。
若さのフレァが遮蔽幕となって、たとえ凝視されても、わたしたちは平静だったのだろう。
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外の光になれた目には店内は薄暗くかんじられた。
時子の座っていたという席には、まだ飲み残しのコーヒーカップが放置されていた。
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心なしかまだ彼女の体のぬくもりがのこっているようだった。
男づれでもどってきた時子に、なんにんかの客が怪訝そうにふりかえった。
若い時には、こうしたあからさまな好奇の視線を真正面にあびることはなかった。
若さがあった。
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