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古い本 その38 恐竜展

2020年12月22日 | 化石
 次に紹介するのは恐竜展に関係して発行されたアサヒグラフ。

49 アサヒグラフ 1973.5.18 表紙

 上野の国立科学博物館で開催された「ソビエト恐竜展」に展示されたゴビのタルボサウルス骨格の写真が表紙を飾っている。サイズは34cm×26センチ。
 表紙に取り上げられている割には恐竜などに関する記事は短い。31ページから36ページが三つ折りの写真ページになっていて、その後の3ページが標本写真になっている。写っている化石は、三つ折りの表がタルボサウルスの側面観、裏がステラー海牛とアナンクス(長鼻類)、37ページ:サウロロフスの脚、38ページ:プロトケラトプス(二枚)39ページ:恐竜の卵とピアルモスクス(哺乳類型爬虫類)。表紙の宣伝「一億年前に生きた巨獣たち」は笑うしかない。「獣」は「毛もの」であって哺乳類であるから、恐竜を形容するのには不適当。本文中にある写真のステラー海牛やアナンクスは一億年経っていないし(タルボサウルスもそうだが白亜紀後期だからまだましかな)。
 この恐竜展は、1973年に東京で開催された初期の恐竜展で、図録を出さなかった。その代わりに、会期後に学研から単行本「ユーラシアの古動物界」と題する本を出版した。B5版、硬い表紙で、函に入った本格的な本で、後の恐竜展図録とは一線を画する。A. K. Rozhdestvensky 著・堀江 豊 訳、鹿間時夫・朝比奈正二郎・上野輝彌・浜田隆士 という著名な学者たちの監修。

50-1 ユーラシアの古動物界 1973 函

50-2 ユーラシアの古動物界 1973 表紙

 著者Anatoly Konstantinovich Rozhdestvensky (1920-1983)は、当時ソ連科学アカデミー古生物学研究所中生代動物研究部長。古生物学探検隊を率いて多くの調査を行った。他に日本語に翻訳された一般向けの本「ゴビに恐竜をもとめて」(訳者は同じ堀江 豊)が知られている。Rozhdestvensky は、モンゴルの調査で発掘したSaurolophus angustirostris (1952年の新種)、Probactrosaurus gobiense, P. alashanicus (1966年の新属・新種)、Aralosaurus tuberiferus (1968年の新属・新種)(いずれも鳥盤類)などの命名者として知られる。ロジェストヴェンスキーと聞いて、音楽の指揮者を思い出すか、日本海会戦を思う方もおられるだろうが、私はゴビの恐竜を連想する。この3人に血縁があるのかどうかは知らない。

50-3 Saurolophus angustirostris 骨格

 上の写真はサウロロフスの骨格で、ソビエトの展示では前肢がもう少し垂れ下がった感じだった。日本で作ったレプリカだが、2001年に現代風の姿勢に変更した。ずいぶんお金がかかった。

50-4 サウロロフスの姿勢変更作業 骨盤の角度を変える 2001.11.8

 私がこの本を入手した日付の記入がないが、たぶん1973年12月21日。この日の朝、私は名古屋を出て東京で何かの研究集会に出席、その後H先生と堀江氏との3人で夕食をとって、その席で堀江氏からこの本をいただいたと思う。定価は4500円だから金銭的にも大きいが、まだ駆け出しの私は思いもよらない厚遇とご指導をいただいたわけだ。この日、私は逗子のH先生のご自宅に泊めていただいた。
 恐竜展の図録が1978年の「大恐竜展 失われた生物たち」のときから発行されるが、その編集方針は「ユーラシアの古動物界」を踏襲したものとも言える。

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