OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

2024年8月のカレンダー

2024年07月29日 | 今日このごろ

 ここで提示した図は、「Wealden層からのIguanodonの歯」という表題の図(plate 45)から編集したもので、Figs. 5-7の三つのスケッチを取り出してある。スケールは本の大きさから計算して書き込んだ。テキストにも、また図の解説にも産地などの個別のデータは書いてない。
 図は下顎歯で、左上から舌側、頬側、背面(咬合面)である。同じ標本であるが、背面の図は最前方の歯が1本書いてないことになる。反転像である可能性があるので、標本が左右どちらのものかわからない。もし反転していない図であれば左側の歯列ということになる。この標本の図から、歯の生え変わりの順序を示したかったのであろう。例えば右下の咬合面図には、6本の歯が見えるが左から3番目の列には二本がある。この二本は図の上にある不完全な歯冠が歯槽で形成中の後方の歯であろうから、舌側に新しい歯が来ている。どこでもそうなら、二番目の列の頬側にある丸いものは磨耗して折れた歯根部分ということになる。
 同じようにアレンジした上顎歯を見てみよう。

8-2 Owen,1849-1884, Plate 45((一部)Iguanodon上顎歯

 示されている図は、上顎歯の左上から頬側、舌側、それに腹側(咬合面)。歯の個別のデータはこれもない。今度は歯列が二重になっているところがないから、生え変わりの順序はわからない。歯の側面中央に縦の隆線があるのは、下顎では舌側、上顎では頬側である。
 このころまでに発見されている標本は、Iguanodonでは下顎についてほとんど完全な標本がある一方、上顎や頭蓋の形が明確にわかるものは少なかった(9月の参考図にわかりにくい標本がでてくる)。もちろん全身復元のためには、よく揃った骨格の化石がないと、現生の近縁種のいない恐竜ではむつかしい。Iguanodon前脚の親指にある円錐形のトゲについての検討の歴史が有名で、当初は鼻先のツノの位置に置かれていた。この骨については、Owen の時代にはすでに良い標本で位置を知ることができるようになっていた。

8-3 Owen 1849-1884, Plate 46. Iguanodon Mantelli 尺骨・橈骨・手根骨の一部・第1指(反転像)

 この図は、Beckles氏のコレクションで、左の肘から手首までと、親指がそろっている。大きな図Fig. 1が全体で、「thenal or palmar aspect」となっている。Fig. 2 は、尺骨の近位部、Fig. 3は橈骨の近位部Fig. 4は黒丸の位置の断面図、Fig. 4は灰色の丸の位置の断面図である。「palmal」は手のひらの意味でこれはよく使われるが、「thenal」というのはあまり聞いたことがない。親指の付け根の付近の手のひらという意味。図の見ている方向の表示はちょっとおかしい。Fig.1 の上の方(肘付近)に関しては関節形から見て側方から見ている。人間の解剖学では、尺骨と橈骨を平行に置くから親指は外を向く。他の哺乳類では手のひらを地面につけるから尺骨と橈骨はクロスして外側から見ると小指側が見える。Owenの化石は親指が前を向いているからちょうどこの中間とも言える。橈骨とその尖った骨の間には、通常手根骨と中手骨、それに近位指骨の3個がはさまるが、この図では1個ぐらいしかない。それとも、この円錐形の骨は途中で固結した関節があるのだろうか。もう一つの特徴は、親指付け根の関節の可動性がほとんどないこと。さらに橈骨との間の関節はもっと動きそうにない。そんなことから、これは武器だという考えが出たのだろう。そんなわけでイグアノドンの復元画では、この動物がいつでも「イェイ」と言っているような感じで親指を立てている。そうすると、前脚の地面につくところは小指側なのだろうか? それとも肘関節から先を回内して地面につけるのか? はたまた前脚を地面につけないと言うのもあるかもしれない。韓国の海岸でたくさんのイグアノドン類足跡化石の中に前脚の跡を探しても見つからなかったなあ。

8月の文献
⚪︎ Owen, Richard, Sir, 1849-1884. A History of British Fossil Reptiles. Volumes 1 and 2. Cassel & Company Limited, London, vol. 1: pp. 1-657, vol. 2: Plates Chelonia 1-48, Lacertilia 1-10, Ophidia 1-5, Crocodylia 1-45, Dinosauria 1-85. (イギリスの化石爬虫類の歴史)