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古い本 その163 ドーバー海峡のトンネル 追記 上

2024年03月13日 | 鉄道
古い本 その163 ドーバー海峡のトンネル 追記 上

追記:
 合字に関するネット上の記事にはctや、それに似たst・spなどがある。もっとポピュラーな、fi flなどは現在も使われている。F小文字の上の点とiの点は、近づいて見苦しいからとfのてっぺんに付いている。コンピュータの文字入力のウインドウを使えば、ff, fi, fl, ffi, ffl それにij というのが選べるように見えるが、実際に入力するとほとんどのフォントで二つの文字として入力されてしまう。一方もう少しポピュラーなae, oe の合字は多くのフォントで合わせた文字が用意されている。
 もっと古いジャーナルでは面白い合字があるに違いないと思って、古い科学ジャーナルを覗いてみた。たまたま見つけた雑誌は次のもの。最も古い科学雑誌かどうかは確認できなかったが、かなり古い。
ジャーナル:Philosophical Transactions giving some Accompt of the Present Undertaking, Studies, and Labours of the Ingenious in many Considerable Parts of the World. Vol. 1. Numb. 1. Munday, March 6. 1665. Pp. 1-16, Fig. 2.
 表題の意味は、自動翻訳にかけると「世界の多くの重要な地域における独創的な人々の現在の事業、研究、労働に何らかの成果を与える哲学的会報」となる。発行年の最後の数字がよく見えない。4の下に5が書いてあるように見えるが1664年なのか1665年なのか。第2号は1665年4月3日、第3号は同年5月8日発行で、間隔が7の倍数だから1665年と判断できる。「Munday」というのもこれが古い表記なのだろうか?
 第1号(Numb.1という略記も馴染みがない)は、16ページ +1図版しかない薄っぺらいジャーナルである。

611  Philosophical Transactions 創刊号 紋章

 発行された1665年は、日本でいうと江戸時代の初め、4代将軍家綱の時代。見返しに、いかにもヨーロッパ風の紋章が示されている。竜?の頭や甲冑などが描いてあって、下部に文字を書いたリボンが配置してある。「TUTE・SI・RECTE・VIXERIS」ラテン語で。「真面目にやっていれば安全だ」というような意味(もっと格調高く訳さねば)。
 タイトルページの前にもう一つ大げさな絵画が印刷してある。

612  Philosophical Transactions 創刊号 タイトル前の絵画

 胸像を囲んで両側に人物が、そして胸像に天使(翼があるし、ラッパを持っているから)が冠を捧げている。胸像の人物は台座に書かれているようにチャールズ2世(1630−1685)で、この学会に許可を与えた王、その下に「王立協会の著者とパトロン」としてある。インターネットで調べると、よく似た肖像画が出てくる。台座を指している左の人物は床に「協会会長」となっていて、その下に小さくEvelyn...と書いてあるから、たぶん王立協会創立のひとりのJohn Evelyn (1620−1709:作家)であろう。こちらもネットで出てくるEvelynの肖像画に似たところもある。また右の人物は「芸術の修復者」となっていて、その下にWで始まる名前が書いてあるようだが、読めない。協会発足当時の有力メンバーであるJohn Wilkins(1614-1672;牧師)の可能性がある。バックの柱などにコンパスや振り子のような器具・銃などがいくつも飾ってある。それぞれに寓意的・象徴的な意味があると思うが、私には理解不能。
 古い「ジャーナル」を見た目的は二つあって、一つは「学会誌」の最初の頃の姿を見たかったこと、もう一つは使っている活字が現代とどうちがうかということ。まず「学会の最初」というのだから、イギリスに違いないから探してこれに遭遇した。
 ジャーナルの最初に2ページほどの文章がある。「To the Royal Society」(王立学会に)という題で、著者はHenry Oldenburg(1618頃-1677)となっている。彼はドイツ生まれ、イギリスで活動した科学者で、この学会の初代事務総長。この文章は、イタリックのような斜体で飾りの多い活字で組まれている。現代のフォントと大きく違うわけではないし、驚いたことに大部分はOCRで取り込むことができる。それができないのは、まず文章の初頭で、(最近でもそういう印刷形式はあるが)最初の文字を何行にもわたる大きな模様の入った飾りで囲んでいる。最近のと違うのは、この飾りがむやみに大きいこと。この部分はもちろんOCRに乗らない。こういう字を「ドロップキャップ」という。

613 Oldenberg, 1665. 文頭

 この本文の最初の単語は「It」である。Iは大きな飾りで囲まれているし、Tも単語の二番目の文字なのに大文字である。もう一つOCRで処理できないのは「s」に2種類あること。普通のsと、縦に長いのがある。本文3行目の最初の単語は「Fulness」である。この他にも現代の印刷と違うところがあって、本文にやたらと大文字で始まる単語(名詞・一部の形容詞)があること。何かドイツ語みたいだが、著者がドイツ出身であることとは関係なさそう。この斜字体の2ページ目のヘッダーに「Epistle Dedicatory」(奉納書簡というような意味)としてある。事務総長からこの本の創刊に寄せた文という意味だろう。

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