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古い本 その40 事故の記録

2021年01月13日 | 50年・60年

 少しジャンルの異なる本を挙げる。事故に関する著作で、今回挙げる著者柳田邦男氏はこういった大規模事故に関する著作を書き続けておられ、くわしい調査の結果は興味深い。それよりもこの類のジャンルの読み物というものが、柳田氏によって確立されたと言うべきであろう。「マッハの恐怖」「続・マッハの恐怖」の他に、1975年の「航空事故」、1978年の「新幹線事故」、同年の「恐怖の2時間18分」、それにちょっと後の時代であるが「事故調査」(1997年)が手元にある。
 最初の本は「マッハの恐怖」「続・マッハの恐怖」新潮文庫である。これらは、1971年・1973年にフジ出版から発行されたが、1986年に相次いで文庫版として発行された。まず「マッハの恐怖」1986年新潮文庫.495ページという長いもの。

53 マッハの恐怖 1986 カバー

 1971年の2月・3月に、日本では連続した大型旅客機の事故という経験したことのない出来事に見舞われた。つまり、2月4日の千歳発羽田行きの全日空機の東京湾墜落、3月4日のカナダ航空機の羽田着陸失敗、3月5日のイギリス海外航空富士山麓墜落である。1971年7月には「ばんだい号」事故、雫石事故も起こっているから、この年は異常だった。これらの事故の原因調査はすでに結論が出されているが、いくつかの疑問点が出されているようだ。「マッハの恐怖」には、おもにこの年春の3件の事故が記されている。ちょうど50年前である。
 「続・マッハの恐怖」1986年新潮文庫は、これとは別のいくつかの航空事故について記したものである。561ページとさらに長い。

54 続・マッハの恐怖 1986 カバー

 最初に扱われているのは1971年7月3日に札幌丘珠空港を離陸して函館空港に向かった東亜国内航空の「ばんだい号」が消息を絶ち、翌日夕方になって函館北方の横津岳に墜落しているのが発見された。結局、函館空港に着く前にコースを誤ったという操縦ミスであるということになったのだが、実は山に衝突する前に空港近くで目撃されていて、矛盾があると言われる。この本では目撃者から詳しい聞き取りを行って、いつどこを飛んでいたのかを推理している。
 他に1966年11月13日の松山沖事故、1965年のシンシナティ空港の事故など、外国の事故を含めて、多くの事故を解説している。全体としては、航空事故調査のあり方についての提言が目を引く。
 1975年に中公新書から「航空事故」が発行された。外国の航空事故について解説したものである。234ページ。私の持っているのは1979年の10版である。中公新書で、234ページ。

55 航空事故 1975 カバー

 話はちがうが、中公新書や古い保育社のカラーブックスに使われているビニールカバーにご注意を。年月が経つとこれが縮んで、最悪の場合表紙の厚紙にシワを作る。対策はビニールカバーを外すのが一番安全。もう一つの方法は、表紙をカバーしている左右の袋の部分にナイフを入れて(上下どちらかで良い)縮んでも逃げられるようにすること。
 もう一冊、少し後の時代のものだが1997年の「事故調査」を挙げておく。この本の扱っているのは航空事故だけではなく各種の事故調査の現状を批評したもの。調査の主体や結論の出し方の問題も記してあるが、それよりも一般的に事故調査といの目的がどこに置かれているのかを批判している。新潮文庫、392ページ。

56 事故調査 1997 カバー

 この分野についてはよく知らないので、内容についてはひとつだけ記す。299ページから3ページほどを使って、1992年に刊行された「第5回科学技術庁技術予測調査」からの引用を記してある。その時の技術課題がいつごろ示現するかの予想である。地震関係・火山噴火・気象災害の3つのジャンルで合計10項目が対象にされている。実現予想時期が、おそいもので2010年とされているのだから、10年以上の余裕を持って現在までに実現していてもいいのだが…。地震関係4項目のうち、検知に関する2項目は一応達成しているものの、予知に関する2項目はできていない。火山噴火に関する3項目も、観測に関する1項目は観測点が少ないができてはいる。しかし予知に関しては心細い。気象災害に関しては3項目のうち「気象観測の拡充で局地的な気象の予報が一般化し」というところは良いが、それによって「気象災害の被害が大幅に減る」というところは、逆に増えているようだ。残りの2項目も予知に関するところが十分ではない。ただし空港付近のダウンバーストの観測システムの普及というところは合格。ダウンバーストの話は藤田哲也氏の業績で、1997年頃に実証され、1998年にはその知識をもとにして遭遇したダウンバーストを回避した例が現れてきたから「2000年に実現」とした予想がおおよそ当たっている。甘く見ても予想は4勝6敗で、好成績とは言い難い。
 柳田氏のこのジャンルの本は、この後新幹線や原子力発電の事故にも及んでいる。これらはあとで記す。

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