OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その46 東日本大震災

2021年02月19日 | 50年・60年

 「古い本」シリーズでは、目安として発行後約40年経った本を紹介している。前回は1995年の兵庫県南部地震に関連するものを記したが、すでに例外だった。今回はそれに関連するということで、さらに新しい本を挙げる。
 東日本大震災は2011年3月11日14時45分に発生した宮城県沖130kmを震源とするM9.0の地震。死者・行方不明者の合計は2万人を大きく超える大きな被害をもたらした。これによる被害は大きく分けて、地震の振動による被害 津波の被害 福島原子力発電所のもたらした被害 の三つ。原子力発電所関連の本は次回に記す。
 この地震はその後10年経つが、最近の2021年2月13日夜遅くにも大きな余震が発生し、地質学的な時間の長いことを実感させた。
 まず地震発生以前の書籍から。

84 新・地震の話 1967 表紙

 「新・地震の話」は岩波新書で、著者は坪井忠二(東京大学・地球物理学)。211ページ、出版は1967.5.20。同じ岩波新書で「地震の話」が同じ著者によって1941年に発行されている。地震学の初歩をかなり詳しく紹介していて、教科書的な本で、実際の大地震の記録は詳しくない。日本の大地震の記録として1963年の南千島地震(M8.1)までがリストアップされている。何しろプレートテクトニクス理論がようやく出てきた頃の著作であるから、地震で放出されるエネルギーが、長期間で見ると一定の幅に収まるという現象が述べてあるが、その理由についてはプレート論のように明瞭ではない。

85 地震の日本史 2012 カバー

 「地震の日本史」「大地は何を語るのか」は中公新書で2007.11.25初版発行であるが、東日本大震災の直後2011年5月25日に「増補版」としてその初版を発行、私の持っているのは2012年3月15日の増補板5版(276ページ)である。「増補」したのは、261ページから268ページの増補版のための補遺「東日本大震災の後で」という部分と思われる。初版部分は「地震考古学」と呼んで日本史に現れる大きな地震が列記してあるが、やはり西日本の記録が一番詳しくて他の地域と同列に比較できないのが弱み。そのため、記録の乏しい東北地方の古い地震の記述は少ない。東日本大震災の参考になる貞観地震(869年)に関しても短い記事しかない。地震による津波も同様に発生し、1000人ほどが亡くなったという。この初版発行の頃から古い地震について紙に書いた記録よりも、発掘による調査が注目されるようになった。それについては2014年の「巨大津波 地層からの警告」に記されている。
 ここからが東日本大震災発生後の本。

86 河北新報のいちばん長い日 2014 カバー

 この本は文春文庫(2014.3.10発行)301ページ。2011年10月に単行本として文芸春秋社から発行されたものの文庫版。副題があって「震災下の地元紙」となっている。河北新報は宮城県を中心とした地方紙で、もちろん大きな被害にあって、新聞作成、用紙の調達、印刷、配送など多くの機能を失った。それでも記者たちは現地に踏み込んだ取材を続けた。号外の発行は当日の夕刻であったが、翌日朝刊の発行には新潟日報の大きな協力があった。印象的なドキュメントである。

87 東日本大震災 2014.4.2 表紙 

 サンデー毎日緊急増刊として、地震直後に発行されたもの。79ページ、A4。この地震の被害は私たちが経験した中では最も深刻なもので、その表れ方も多様である。津波の押し寄せる状況など印象の強い写真が多数集められている。ただし、原子力発電所に関する記事はほとんどない。22ページから4ページにかけて記事があるが、写真は5枚しかなく、破壊された建屋の姿もあまりよく見えない。これは、発電所の状況が時間とともに厳しくなっていったために、4月発行の本書ではまだ深刻な状況を示すような状態でなかったためだろうか。

88 巨大津波 2014 カバー

 「巨大津波 地層からの警告」は、新書版で日経プレミアシリーズとなっている。2014.5.8発行で。著者は後藤和久(東北大・災害科学国際研究所)。東日本大震災の前から、歴史的な文書から古い時代の地震記録を探すよりも発掘によって津波堆積物や倒壊した構造物、そして液状化や地下構造に残る痕跡を調べることが重要視され始めていた。その成果として東日本大震災の直前には貞観地震津波の規模が非常に大きなものであったことが推定されるようになり、警告をする論文も発行されたが、原子力発電所の対抗処置が取られることは少なかった。残念ながら、この本の大津波に対する警告は「後出し」の感がある。なお、カバー写真の下部3分の1はカバーと同色だが「帯」である。写真では境目に細線を入れた。『「千年に一度の」次はどこか』というフレーズは帯によく書かれる宣伝用のものであり、本文にその答えが明確に記されているようではない。

89-1 震災と鉄道 全記録 2011 表紙

 雑誌「AERA Mook」(朝日新聞出版)として2011.9.5発行のA4、162ページの本。東日本大震災の被害ばかりではなく、過去の大地震の新聞記事など広範囲の情報を記したもの。首都圏の鉄道の復旧経過の図も面白い。終わりの方の一章は「原発30キロ圏内 全鉄道46路線と駅」と題して、各原発周辺の鉄道の地図が示されている。1999年の東海村JCO臨界事故にも言及している。
 東日本大震災では、発生直後に東北地方の半分以上の鉄道が運行できなくなった。その復旧は10年近く経った現在も完了していない。直接・間接的にこの地震を契機として廃止(またはBRT化)した路線は、十和田観光鉄道(2012.3.31廃止14.7km)JR岩泉線(2014.3.31廃止38.4km) JR気仙沼線(2020.3.31BRT化55.3km)JR大船渡線(一部2020.3.31BRT化43.7km)である。JR山田線(一部55.4km)は三陸鉄道に移管。またJR石巻線・仙石線・常磐線では経路の変更が行われた。

89-2 東日本大震災後の鉄道の変化 

 上の地図は赤:廃止・BRT化、青:移管 緑:経路変更 を示す。なお私は経路の変更されたところは以前も乗車したが変更後も行って来た。震災で廃止された鉄道は全て既に乗車している。

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