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古い本 その48  鯨について

2021年03月07日 | 50年・60年

 現生の鯨に関する古い本を挙げる。初めにことわっておくが、次にあげる本のほか、捕鯨に賛成する立場や反対する立場の多くの本を読んだ。いずれも感情的な記述が多く、科学的な検討が述べられていないという傾向を感じたので、ここでは次回に書名などの簡単なデータだけを記す。以下では古い本や特殊な(手に入りにくい)6冊に絞った。

97 鯨類・鰭脚類 1965 函

 鯨類に関する図鑑は、勉強を始めた頃にこれしかなかった。東京大学出版会の発行(1965.9.25)でサイズはB5、439ページ。著者は西脇昌治(東京大学海洋研究所教授)(1915−1984)、鯨類の体型を示すには写真による図鑑というわけにはいかないから、図鑑類の動物画家として有名な薮内正幸(1940−2000)によって描かれたイラストを使っている。
 内容は11ページまでの概説の後、種類ごとに特徴や分布などの情報が詳しく記されているから、イアンターネットが使えるようになるまでは、博物館で解説文を作るのに必須の本だった。284ページまでが鯨類、その後の110ページほどが鰭脚類にあてられているが、鰭脚類の部分では分布が見やすくなっていなことなど見づらいところがある。鯨類、とくにナガスクジラ科の分類はこの本が発行されてのちに大きな変更が行われたので、現在は参考にできない。またコククジラは1987年に食性について新しい観察がされたから、変更する必要がある。もう一つの問題は進化についての考察がほとんどされていないことである。

98 鯨 1965 カバー

 「鯨」は東京大学出版(1965.11.10)発行のB5版、426ページの本。細川 宏・神谷敏郎・訳で、原著はEverhard Johannes Slijper(1907-1968)著, 原題は「Walvissen」(オランダ語)。著者はアムステル大学の教授だったが、61歳で急逝した。細川 宏(1922−1967)は東京大学医学部の解剖学者。神谷敏郎(1930−2004)は東京大学医学部の解剖学者。神谷氏とは私の駆け出しの頃に東大の鯨類研究所でお会いし、鯨について教えていただいたことがある。左手首にイルカ類の第一頚骨を腕輪として付けておられた。
 本書で一番興味を持って読んだのは2章の「進化と外形」。とくに注目すべきなのは、蛋白質の類似から鯨類の祖先が「食肉類と有蹄類に近縁であることが明らかで、とくに偶蹄類と近縁である」としていること。この意見は非常に先駆的なもので、この時代には鯨類の祖先は肉歯類であるとする意見が一般的だった。前に記した「鯨類・鰭脚類」は日本での出版がほとんど同時期であるがそこでもその考え方を取っている。この本の原本は1958年の発行だからずっと古い。1981年に報告されたパキケタスやその後の多くの種類の研究、またDNAに記録された分化の過程から現在はカバに近い偶蹄類から派生したと考えられるようになった。

99 南氷洋捕鯨史 1987 カバー

 「南氷洋捕鯨史」は、中公新書(1987.6.25)233ページ。著者は板橋守邦(1929−1994)で、毎日新聞社に勤めていた人。捕鯨の歴史について詳しく述べた本である。

100 捕鯨盛衰記 1990 カバー

 「捕鯨盛衰記」は1990.7.30発行、(株)光琳の「食の科学選書 1」として出版されたもの。この「食の科学選書」というシリーズは他に読んだことがない。ネットで見ると5冊が発行されているようだ。1捕鯨盛衰記の他、2食べものの毒 3食文化と嗜好 4みちのく食の歳時記 5乳一万年の足音 となっているが、読んでないから分からないとしても、あまりまとまった方向性はなさそう。「捕鯨盛衰記」は奈須敬二(1931−1996)著。氏は水産庁に勤務して捕鯨に関する研究を行っていた。

101 徳屋秘伝鯨料理の本1995 カバー

 ちょっと変わったジャンルの本「徳屋秘伝鯨料理の本」は講談社1995.4.15発行B5サイズで108ページ。著者は大西陸子という方で大阪・千日前にあった鯨料理店「徳屋」(徳は心の上に横棒のある字)の女将だった。徳屋は2019.5.25に惜しまれつつ閉店した。実を言うと私はこの本を全く読んでいない。しかし次に記す理由でお勧めする本である。
 単なる料理本ではない。この本には英題があり「Mrs. Onishi’s Whale Cuisine」というものだが、そればかりではなく、各所に短い英文の解説があり、巻末には6ページにわたる英文テキストがあって、C. W. Nicol、 秋山庄太郎他の寄せた短文が翻訳されて掲載してある。捕鯨を日本の食文化として残したいという意見の方はこういった本を用いて英語圏の方たちに主張されるのが良い。
 大西女将は1991年レイキャビクで開催されたIWC総会で鯨料理のパーティーを催したという。

102 関門鯨産業文化史 2006 カバー

 「関門鯨産業文化史」は海鳥社2006.7.10発行のA5サイズ、102ページの本。著者は岸本充弘(1965−)で、下関市職員を経て下関市立大学所属となっている。下関・北九州の捕鯨に関する歴史を記したもので、各種資料がそろっている。

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