麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

無題

2007-02-17 02:01:57 | Weblog
子どものころ
眠ったあとで世界がどうなるのか
すごく知りたかった
だって
昼は、ものにニスを塗ったみたいに見せているけど
夜は、ニスをはがして、ざらざらした肌触りになって
とても同じ世界とは思えなかったから
昼に学校で父さんがいまなにをしているのか
考えるのと
夜に布団の中で、窓から夜を見るのは
ぜんぜんちがう
昼は何かに緊張する
なにもなくても緊張する
夜はだらっとする
なにか世界の全部が隣にある感じ
こんなふたつがどうやって入れ替わるのか
いつも知りたかったけど
がまんして目を開けていても
気がつくと朝だった
見ることができない時間は
僕になにか説明を求めた
だから僕は
夜は毎日空からはがれて
夜たちの墓場へ死にに行くと説明した
いつも僕は説明した
わからないところは
全部物語にして
自分に説明した
僕には世界が何のためにあるのかわからない
僕には僕がいる必要があるのかどうかわからない
僕には人が何のために生まれてくるのかわからない
僕には偉い人という言葉の意味がわからない
だから、全部物語にして
自分に説明している
そうしないと生きられないから
でもそれが
本当は僕がつくったお話だと
僕は知っている
僕がいなくなれば
そのどれもが
だれにも必要のないお話になることも
もちろん
「僕」というお話も

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