鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

不条理劇「象」の小難しいものを昇華させたカラフルな古着群

2010-03-07 | Weblog
 6日は東京・初台の新国立劇場・小劇場へ演劇「象」を観賞に行った。別役実が学生時代に書いた不条理劇というふれこみにもかかわらず、稲垣吾郎、奥菜恵主演ということで、会場は若い女性を中心に満員で、同じこの新国立劇場・中劇場でいつぞや佐久間良子主演の演劇が閑散としていたのを思い出し、いまの演劇ファンの底の浅さを感じた。入口で渡されたパンフレット類には「象」に関するものは何ひとつなく、以前はその月の公演を掲載した小冊子を、その後は2枚折りのパンフレットを配って、解説してくれていたのに、いかに不況とはいえ何もないのはさびしいものだ。
 小劇場は幕もないので、一歩会場へ入ると、舞台装置が目に入ってくるが、舞台いっぱいにTシャツや上着、コートなど色とりどりの古着が3段重ねで敷き詰めてあり、中央に病院のベッドが置かれている。幕が開き、稲垣吾郎演じる傘を差した若い男がぶつぶつつぶやきながら、中央に進んでくる。ベッドに大杉連演じる原爆症患者が横たわり、その少し離れたところに患者の奥さんと奥菜恵の看護婦がもの思いにふけりながら、いそいそと何かしている。
 どうやらおじさんにあたる患者を御見舞いに来たようだが、周りを見渡すと、古着に埋もれた山のなかに原爆症患者らしき人がうごめいている。ベッドの上の患者は背中にケロイドがあり、かつてそれを見せて歩いた記憶があり、隣町で少女にそのケロイドを触らせてくれ、と頼まれたことがある、といってしきりにその少女の消息を知りたがる。医者はもう末期だ、と知って、患者の好きなようにさせている。
 ある日、患者は過ぎ去りし日に隣町でケロイドの見世物をしたことを思い出し、隣町に出かける、と言いだす。若い男もお見舞いにくるうちに同じ原爆症に侵され、おじさんと同じ部屋に収容されることになり、横に寝ているが、突然のおじさんの申し出を必死になって、止めようとし、勢い余って遂には刺し殺してしまい、昇天したところで、幕となる。
 「象」は別役実が早稲田大学在学中の昭和36年頃に書かれたもので、いまや演劇では現代古典ともいうべきものとなっている。原爆症患者の悲哀を描いた傑作で、原爆症患者を通して人間存在の不安を語っている。扱いようによっては暗いものとなりかねない患者を大杉連がうまく演じていた。興行上はSMAPの稲垣吾郎主演としているが、実際に主演は大杉連であるのはだれの目にもわかった。稲垣吾郎がこうした不条理劇の主演を務めるのは無理な感があったが、なんとか大杉連らのサポートでボロを出さずに済んだ、と思った。
 演劇終了後、原作の別役実らん4人によるシアタートークなるものが開かれたが、時間の都合で出られなかったのが残念だった。
 あと、舞台の上の散りばめられたおびただしい数の古着は原爆の投下された広島の廃墟を表しているのだろうが、ともすれば辛気くさくなる病院の雰囲気をカラフルな小道具で拡散し、出演者の着替えを舞台の上で行ったり、古着のなかからベッドを取りだしたり、と道具部屋を兼ねていたあたり、出色の演出だった。不条理劇という小難しいものを一見楽しそうなものに昇華してくれたのは案外、この古着群だったのかもしれない。
 
コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
何様? (riki)
2010-03-07 10:06:18
幾つか記事を読ませていただきましたが、何事にも上から目線で、誰が読んでも不愉快になるようなブログですね。このようなものを公開する必要はあるのでしょうか?
ご自分の日記にでもお書きになっては?
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読んで (通りすがり)
2010-03-07 22:28:09
シアタートークをお聞きになるべきでしたね。あなたが気ままに切って感じたキャスティングについてお話があったみたいです。
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