1日東京証券取引所の相場情報システムに障害が発生し、朝から全銘柄の株式など終日停止した。株式の売買を終日停止したのは初めてのことで、まさか国慶節で1日から上海株式市場がお休みとなった中国にお付き合いしたことになってしまった。単に1日の取引機会を失ったのみにとどまらず、国を挙げてデジタル化へ取り組もうとしているのにデジタル化社会へ向けての日本の取り組みはそんなものか、と全世界に印象付けたことになり、我が国の先行きに大きな暗雲が立ち込めてきた。今日2日には全面回復するということだが、失った信頼を取り戻すには並大抵のことでは済まないことだろう。
1日午後4時半から宮原幸一郎東京証券取引所社長ら4人が謝罪の記者会見に臨み、約1時間半にわたり今回の不手際を説明し、記者団からいくたの質問を受けた。東証によると、午前7時過ぎに株の売買システム「アローヘッド」の中で、取引や市場運営に関する2つの装置のうち1つが故障し、本来はもう1つの装置だけで代替運用ができるようにシステムが切り替わるはずだったが、作動しなかった、という。メモリーの故障がったというが、詳しい原因については明らかとなっていなかった。記者団の質問が相い継いだが、核心に触れる内容に至らず、双方の一方通行に終わった感じとなった。最新のテクノロジーについて共通の理解がないやりとりでは限界があったようだ。
会見のなかで相場情報システムはハードウェアのみならずソフトウェア全般も富士通によって提供されているものであることが明らかとなったが、これだけのものを1社だけで構築されていたことに疑問が生じる。相場情報システムは当然、海外のシステムと連動しており、世界各国で金融システムに関わっている米国のIT企業が関与していなかったとしたら問題である。富士通は「当社が納入したハードウェアに障害が発生が生じて多くの関係者の皆様に多大なるご迷惑をかけた」とコメントしたが、ことはハードウェだけの問題ではない。
システムは提供したメーカー側だけでなくユーザー側にも管理責任が問われる。いまはどの企業にもCIO(情報システム統括責任者)なる者が任命されていて、発注した段階からどのようなシステムを構築するかから始まって、納入されあt後も運用に関しては設計通りに稼働しているか、コストパーフォーマンスを含めてウオッチしていく責任が課せられている。今回のシステム障害については発注側の東証も受注側の富士通も確たる体制が構築されていたのか、極めて疑わしいところがある。
宮原社長は1日が下半期のスタートにあたる日で日銀の景気短観の発表の日であるとともにこの日に新規上場した企業の皆様に多大な迷惑をかけたこと、さらにはグローバルな影響を与えたことをお詫びした。ただ、影響はそれ以上に重大、かつ深刻なものがある。東証の1日の株式売買高は3兆円にのぼり、このうち70%は海外からのものだ、という。今回のシステム障害で海外の金融関係者は日本のデジタル化の度会いについて疑問を持つことになるのは避けられないだろう。
今回の問題発生で、日本のデジタル化社会への取り組みはこんなものか、と思われてしまうのは間違いないところだろう。菅首相は新たにデジタル庁なるものを新設して役所のデジタル化を推進する計画だが、いかに役所をデジタル化しても民間がそれに応じていないのなら何も進展しない。最先端の金融で露呈した欠陥で改めて民間を含めて国全体のデジタル化をしていかないと何もならないことがはっきりとした。
日本はかつて官庁の情報システムの納入は国産業者に限るとし、国の補助金のもとにコンピューターの開発を進めてきた経緯があり、いまだに官公庁のシステムは国産メーカーに任せることになっている。その余弊で富士通が起用されたとしたら、今回の事態は極めてお粗末な結果でもある。また、東京都などは東京を世界の金融センターとして海外の金融企業を招こうとしているようだが、こんなお粗末なシステムのもとには世界の金融企業が見向きもしてくれないことは明らかである。
まして米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)大きく差をつけられている日本のIT企業はいまやGAFAの足元にも及ばない存在になり果てている。今回の事件をきっかけにいかに日本のIT企業を底上げいていくか、議論が深まることを祈念したい。
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